10.
翌日から、俺とマルセル、それに第二騎士団の面々はかなりピリピリしていた。昨夜の一件から、いよいよエドゥアルト殿下が動くと思われたからだ。
ヨハンナ殿は、ルナとディアナ様を連れてスウォルツに帰ろうとするのをヤン隊長に止められていた。
俺、ヤン隊長、ヨハンナ殿の誰かがいつもルナの側にいるようにしたが、どうしても時々留守になってしまう。警備の隙を突くようにルナが消えたのも、そんな時だった。
「ルナ様がお部屋に居ません!」
ヨハンナ殿の半狂乱の叫びに、俺の血が凍り付く。何時から居ない?
体が震えるのを必死で抑える。闇雲に捜しても時間がかかるだけだ。何処に居る。考えろ。
……クソ王子の側近でも尋問するか?
「お前ら何やってる。ルナ様はこっちだ。」
救いの声はマルセルだった。
「ヨハンナ殿は、フィンセント殿下とディアナ様の所へ。地下の独房と言えばわかる。ノヴァ、ついてこい。」
走りながら、マルセルに問い掛ける。
「何でルナの居場所がわかったんだ?」
「タレコミがあったんだよ。別口探ってたら、ネーブルの騎士服着た細身の男に『地下の独房』って言われて、見張ってたらなんと、その男がルナ様抱えて入ってきた。口元に黒子があったな。」
ネーブルに細身の騎士なんていないというのが俺の見解である。そいつ何者だ?敵か味方かも、目的もわからん。
「考えるのは後だ。エドゥアルト殿下がもう来てるかもしれないぞ。」
囚われの姫君を助けに、地下の独房に参上する。入り口は当然鍵がかかっていたが、裏口らしき侵入経路を発見したので潜り込む。マルセルは侵入口の見張りだ。
狭い経路を進むと、鉄格子の部屋が見えた。何やら話声も聞こえる。既にエドゥアルト殿下が来ているのか。今踏み込む訳にはいかない。手を強く握ってじっと耐える。
殿下がルナの服に手を掛ける。もう駄目だ、踏み込むか?いや、殿下の動きが止まった。偽者とばれたか。そして続く暴力。
――この野郎、今すぐ殺してやる。いや駄目だ、落ち着け、俺。
去っていく殿下。
ルナが俺の名を呼ぶ。
強く手を握りすぎて、掌から血が出ていた。
殿下が戻ってくる様子がないか、暫く待つ。ルナは気を失っている。短い時間のはずだが、異様に長く感じる。
しかし去っていく殿下の後ろに控えていた騎士、恐らくマルセルの言っていた男だが、見覚えがある気がする。確かシモーネ様の側で。これは何を意味するのだろう。
きっちり1,000数えたところで、ルナを助けに行く。目を覚まさした彼女に静かに、と合図して手の縄をほどいた。
ルナが俺にしがみついてくる。鼓動が伝わる。俺もルナを抱き締めた。
遅くなってごめん。酷い目に合わせてごめん。助けられなくてごめん。
言葉にならない。生きていて良かった。
……いつまでもいちゃついていたいが、ここは危険だ。ルナを連れて独房を抜けると、侵入口にはフィンセント殿下が待ち構えていた。ディアナ様は何故か死角にいる。
このお方の考えていることは、時々よくわからない。
「服を脱げ。」
フィンセント殿下、何言ってんだ!?そしてルナも何故素直に脱ぐ!
そしてつい見てしまう罪深い俺。ディアナ様のいる方向から、凍てつく波動を感じる。その目線、貴女の婚約者に向けるべきじゃありませんかね!?
「ディアナの方が細身の美人だ。」
ほら、フィンセント殿下もしっかり見てますよ!減るんで見ないでください。
ちなみにマルセルは、完全に姿を消していた。……あいつまたさりげなく逃げたな。




