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湖面の月  作者: 山田ビリー
月に狼
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6.

ルナを遠乗りにお誘いした。


「外に行きたいなぁ……。」

などと呟いていたので、渡りに舟と思ったのだ。ルナはすごい勢いで食い付いてきたので、余程退屈だったのだろう。

因みに呼び捨て可というありがたいお許しを頂いたので、早速呼び捨てしている。勿論心の中でだが。

遠乗りの副産物として、厩舎デートがついてきたのはラッキーだった。ディアナ様ともよく厩舎に篭ったものだが、その頃との俺の態度の違いに馬丁に若干変な目で見られている。

ディアナ様との例の噂も再発しているようだが、本人は既に婚約者のもとだしまぁいいか、と放っておいた。

後から思えば、これは失策だった。


遠乗りの日は晴天となった。多分俺の日頃の行いがいいからだろう。

馬に慣れたとはいえ、ルナは乗馬は初めてだ。怯える彼女を馬上に引っ張り上げたところ、顔を赤くして俯いてしまった。か、かわいい……。視線を感じて振り向くと、ニヤニヤするディディエ殿下と凍てつく波動を出すヨハンナ殿と目が合った。思わず馬を急かせてしまった。

馬の速度を上げるとルナがしがみついてくるので、つい馬を駆ってしまった。到着した頃にはルナは放心しており、大変反省した。


やってきたのは王領の小さな森。ディアナ様とフィンセント様が出会った場所でもある。湖畔にエーデルワイスが可憐に咲く、ロマンチックなところだ。

ルナは早速水に足を入れている。男性の前で靴を脱いで、あまつさえスカートをたくしあげてはいけません。とお父さん的な事を思ったが、俺得なのでそのままにした。この子ちょっと暢気すぎないか?軽蔑されたくないので、足の方を余り見ないよう頑張ろう。


「この白い花は何?」

とルナが聞いた。それは王家の紋章花エーデルワイスだ。

この森に咲くエーデルワイスはルナによく似ている。本来の生息地でない場所に根を張り、可憐に揺れながらも逞しく生きている。高嶺の花と澄ました山頂のそれとは違い、俺の様な庶民でも手が届くんじゃないかと勘違いしてしまうのだ。

だが間違えてはならない。彼女もまた高貴な血を引く女性。本来ならこうして親しくするのもあり得ない事なのだ。


ルナは足を水に浸したまま、篭を開いてローストチキンサンドを取り出した。そして自分の横をポンポン叩きながら言った。

「ノヴァも一緒に食べよう。」

「ありがとうございます。ではルナ様、横に失礼します。」

「私の事も呼び捨てでいいって言ったのに。」

「! ……ルナ。」

我ながら恥ずかしくなって、思わず篭から適当に取り出したサンドイッチにかじりつく。レタスサンドだったらしく、肉体労働者の俺には味気なかった。

ところでさっきから殺気をビンビン感じる。デュナン公爵家の護衛だろうか。こんな所にまで……。これはあれか、俺がルナを呼び捨てにしたのが気に入らないのか。

「大丈夫?目が虚ろだよ。」

ルナ様お優しい。これは貴女の、まるで口煩い父親のような護衛のせいですよ。


後日、ディディエ殿下から重大発表があった。

「マルセルとヨハンナにはもう伝えたんだけど、従妹殿にはそろそろネーブルに行ってもらうから。ノヴァも着いていってもらうから準備しておいて。流石に私は理由も無しに隣国には入れないから、君達が頼りだよ。」

「ルナを?何故ですか!あちらには本物がいるのに。それにまだ挙式までにはかなりあるはずです。」

「呼び捨てにしてるの?」

しまった!動揺したとはいえ失態だ。

「従妹殿には擬似餌になってもらう。彼女に情が湧いたかもしれないけど、いざとなったら切り捨てる事を忘れるな。ノヴァ、君の主人は誰?」

「……ディディエ殿下です。」


俺は何を守るのか。

答えは出ないままだ。

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