2.
今更ですが、本編より恋愛濃度が高いのでご注意下さい。
「ディディエ様の従兄弟ですか?」
マルセルの疑問はもっともだ。ディディエ殿下の従兄弟といえば、母方のシモーネ様の甥姪しかいない。シモーネ様のご実家は侯爵家ゆえ、従兄弟殿は王都か侯爵領の領主館にしかいないはずだが。
「実はいるんだ。これは王家の秘密だから口外しないように。」
そんな重い話、聞きたくないんですけど。
ディディエ殿下のお祖父様、つまり前国王陛下の正妃ルーディアナ様が二番目の子を身籠った頃(これは陛下の弟君のことだ。)、前王陛下は正妃様のご実家であるデュナン公爵家に立ち寄られた。そこで大層美しい令嬢に出会い、手を付けられた。ところがそれは、ルーディアナ様の妹君、ルナマリア様であった。
姉君を慮って、ルナマリア様は子供と共に姿を消された。行き先は、デュナン公爵家所縁の地、紅糸紬村である。
前王陛下、最悪ですね。
「それで今、紅糸紬村にはルナマリア様の孫娘が暮らしているそうだ。どうもその女性が、ディアナに良く似ているらしいんだよね。」
その人、世が世なら姫君じゃないですか。
「ルナマリア様の娘『隠された王女』の存在は知っていたんだ。お祖母様が、ルナマリア様をずっと気に掛けていたからね。だけど従妹殿については、最近別口から報告が来たんだ。偶然村に立ち寄った植物学者から、
『紅糸紬村でディアナ様らしき方をお見かけしたんですが。』
ってね。どういう意味かわかる?」
ディディエ殿下は時々、臣下を試すような物言いをなさる。
「取り敢えず、ディアナ様とその方がすっごく似てるってことですよね。」
マルセルが答える。
「そう。しかも彼女は王家の血を引く本物の王女。どんな風に悪用されるかわからない、かなり危険な存在だと思わない?」
そう言われるとそうかもしれない。
「だから、一度は接触したいと思っていたんだ。良い機会だ、こちらからお迎えに行くのも良いかなと思って。」
「迎えに行った後はどうするんですか。」
これは、ディアナ様がいない間という目先の意味で聞いたのでははない。殿下も意味を正確に読み取ったようだ。
「さぁ。王家で飼い殺しにするか、どこかにこっそり嫁がせるか、或いは……」
ディディエ殿下はにっこり笑った。その目は笑っていなかった。
殿下、その顔心臓に悪いです。
ディディエ殿下、ヨハンナ殿、マルセル、俺の四人組で紅糸紬村へ向かうことになった。四人共通の話題といえば、ディアナ様のことくらいしか無い。出発前から既に、馬車の中の気まずい空気が予想される。
「僕が馭者やりますよ。」
ずるいぞマルセル!せめて交代にしてくれ。
男二人で並んで座るのも嫌なので、早々に後ろ向きの座席を確保する。ディディエ殿下という貴人の隣に座ることになったヨハンナ殿が、恨みがましい目でこちらを見てくるが、我が身かわいさに見てみぬふりをした。
「蚕のお姫様に会ったら、まず王家の刻印があるかを確認するから、ノヴァは協力してね。」
「王家の刻印とは何ですか?」
「これのことだよ。」
ディディエ殿下が胸元をはだけると、そこには花の刺青のような紋様があった。
「これは、王家の血筋に現れる呪いみたいなものかな。蚕のお姫様にこれがあると、すっごくまずい。最悪殺さないといけないかもね。彼女に刻印が無いことを祈ってあげて。」
これはあまり聞きたくないが、聞かない訳にもいかない。
「確認とはどのようにするんですか?」
「もちろん、服を剥ぐんだよ。」
やっぱりか!聞きたくなかった……。
「いきなり胸見せてって言って見せてくれる訳ないからね。ノヴァ、宜しく頼むよ。」
ヨハンナ殿の冷たい目線が、何故か俺に突き刺さった。マルセル、恨むぞ!




