0.ここから世界へ美味しいを
別サイトのコンテスト用に投稿していた作品ですが
落選が確定したので、こちらでも連載開始です٩( 'ω' )و
先行している別サイトの方へ追いつくまでは毎日更新の予定。
お読み頂いた皆さまが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです
森の中にある都市遺跡。その広場のような場所。
そこで、頭に黒い仔フクロウを乗せた一人の少女が大鍋でカレーを作っていた。
「大人数用の大鍋でぐつぐつことこと煮込んだカレーは最高やなぁ」
「ホウホーウ」
のんびりとした口調で、巨大な鍋をかき混ぜている少女の名前はイーティア・ベルタ。
年齢のわりには小柄で、鶏ガラ――というほどではないが、かなりほっそりとした身体付きをしている少女だ。
カレー特有の、様々な食材が溶け込んだスパイシーな香りを堪能していると、大人の女性が一人こちらへとやってくる。
イーティアとは正反対の容姿をした女性だ。
背が高くて出るとこの出た、妖艶で美しい姿のその女性は、明るく楽しげなノリで口を開いた。
「不気味な茶色のドロドロした液体を恍惚とした表情でかき混ぜる姿は、まさに魔女よね。イーティアちゃん」
「そないな言い方されると、確かにわたしは怪しい魔女やなぁ」
からからとした明るい口調の女性に、イーティアははんなりのんびり笑って返す。
「シャルナさん。そっちはどないや?」
「頼まれてたナンってやつ、焼けたわ~! あれはあれですっごい良い香りで美味しそうだったわよん」
「そかそか。こっちもそろそろ出来るし、いつものようにみんなで食べよな」
「ふふ。その茶色いの、見た目は不気味だけど、なんだか香りはすごいお腹減るわね」
「せやろ。食べてもびっくりするよ」
「それは楽しみね」
本当に楽しみにしている顔で、シャルナは笑う。
「ナンはどうやってわけるの? 一枚一枚がでっかかったけど」
「結構な量を焼いてくれたんやろ? せやったら一人一枚やね」
「わお。それは太っ腹ね」
「リアルお腹ももう少し太っ腹になって欲しいんやけどなぁ」
自分のお腹を撫でながら、イーティアが苦笑する。
その冗談に、シャルナも笑いながら乗っかった。
「それはこれからに期待しましょう。それより、お腹でいいの? 胸やお尻の方が良くない?」
「そないなコト言うなら、腕や足にも欲しいんやけど」
イーティアは、この地を拠点にするまではロクに食事が出来てなかったのだから仕方のないことだ。
それは別に、イーティアだけではない。
イーティアの元に集まり、この地に集落を作り出した人たちもみんな同様である。
「まぁここを拠点にしてから食事量が増えてるんだから、やっぱり今後に期待なんじゃない?」
「せやなぁ……シャルナさんくらいの大人ボディになれたらええんやけど」
「お姉さんに憧れるのはいいけど、自分の持ち味をなくしちゃうようなのはダメよ?」
「持ち味がちゃんと表に出てくる程度には、ちゃんとご飯食べたいところや」
「それはそうね。そこはお姉さんも同じよん」
シャルナのメリハリのある美しい身体は天然ものではある。
だがそれはそれとして、出会った時点では栄養が足りていなかった。
彼女の旅仲間であった男性も同様だ。
二人だけではない。それどころかこの集落だけの問題ではない。
イーティアを含むこの世界の人々は、だいたい栄養が足りていないのである。
だからこそ、イーティアは決めたのだ。
栄養が足りずに死にゆく人々を減らしたい。
みんなでもっと美味しいモノを食べたい。
みんなにもっと美味しいモノを知って欲しい。
この……食材そのものがどれもこれも美味しい世界で、
世界中の全ての国が、食材になりうるあらゆるモノにほとんど手をつけずのまま放置されているこの世界で――
――美味しいモノをいっぱい食べたいし、
――美味しいモノをもっと広めていきたい、と。
例えそれが、人々に禁忌を広め、悪へと堕とす行いだとしても、イーティアは止まるつもりはない。
かつて世界を滅ぼしかけたという喰魔王。その二代目を名乗るくらいには、覚悟がある。
「あら? デリストも来たわよ」
「すまん、イーティア。遅くなった」
「ええって、ええって。ナンを焼いてくれてたんやろ?」
大きな皿に大きなナンを一杯乗せて抱えてやってきたのは、シャルナの旅仲間の男性であるデリストだ。
いわゆる細マッチョタイプの体型をしている人だが、彼も彼で、イーティアと出会った時は栄養が足りているとはいえなかった。
「ああ。だが大きい上に厚い。しかも熱い。持ち運べる量には限度があってな」
目つきが悪く常に不機嫌そうな顔をしているので、知らない人からは良く怒っていると誤解されてしまうイケメンさんである。
もっとも、その不機嫌そうな顔はただのデフォルトであり、表情筋が仕事をサボリがちなせいで、何を言われてもこんな顔のままというのも誤解の原因なのだが。
「シャルナ。持って来れなかった分が窯のところにある。悪いが持ってきてくれないか? 無理して全部持ってくる必要はないぞ」
「りょーかい。それじゃあ、ちょろっと行ってくるわ」
「熱いから気をつけろよ」
「シャルナさん気をつけてな」
「二人とも心配しすぎ。行ってきまーす」
ぱたぱたと手を振って、軽やかに建物の方へと向かっていくシャルナ。
それを軽く見送ってから、イーティアはデリストに指示を出す。
「それじゃあデリストさん。みんな呼ぼか?
ナンは一人一枚。こっちの鍋のカレーを受け取った人に渡してあげてな」
「了解だ。見た目は気になるが、良い香りがしていたからな。俺も腹が減って仕方がない」
ふっ――とデリストは小さく笑う。
不器用な優しさを感じる笑みだ。イーティアは、デリストの見せるこの顔が好きだった。
シャルナ曰く、シャルナとイーティアくらいにしか見せない笑みだそうだ。
レアな笑みであることも、ありがたさに箔を付けているのかもしれない。
「よっしゃ。みんな! 今日のご飯ができたよー! 自分用の器もって、いつものように集まってなぁ~!」
イーティアの呼びかけに、隠れ里の人々が待ってましたと姿を見せる。
集まってくるみんなにカレーをよそい、ナンが手渡され、それを口にした人たちが笑顔を零す。
この隠れ里は、イーティアがその美味しい笑顔を見るための場所だ。
この隠れ里は、イーティアがもたらす美味を食べたい者が集まった場所だ。
そして、イーティアは、この隠れ里を中心に、美味しいもモノを食べたい・振る舞いたいという己が野望に邁進している。
ここはラハペルコ大陸の中心にある森。
人々が足を踏み入れるのをためらうと言われるそこは、魔の森ともいわれる地でもある。
その森の中心部にある遺喰樹都キュイジューヌと呼ばれる場所。
森に飲み込まれてなおもその面影を残す――星にすら手が届いたと言う1000年以上も前に栄えていた先史文明の大都市の跡地。
そんなキュイジューヌ市街跡の一角。
恐らくは、先史文明の権力者が住んでいたと思われる城があった。
今はその城を中心に、人々は寄り集まり、城の庭らしき広場に隠れ里を作って生活している。
少女の作ったカレーに舌鼓を打ち、和気藹々と生活している彼ら。
本人たちにその気はなく、そんなつもりも一切ないのだが、世間一般ではこの遺都で暮らす者たちを恐れていた。
粗食を美徳とし定められた料理以外、必要外の贅沢として悪とするこの世界の理において、それらに反し、制限のない美味と美食を求め、その為にどこまでも料理という悪しき行いを極めようとし、食事という行為に神を見出し崇めている。
まさにソレは邪神を崇めし邪教の行い。
世界はこの集落を恐るべき邪教徒の集団『喰魔教団』と勝手に呼称し嫌悪している……。
だが、同時に――ひとたび食べれば、理から外れ、悪しき邪神の徒に堕ちることを由としてしまう。それほど美味しい食事というモノに、人々は憧れを抱いてもいる。
人々は、喰魔教団で振る舞われているそんな美食の数々を、少しの興味と大きな恐れから――『悪堕ちグルメ』あるいは『悪堕ちレシピ』、そう呼んでいた。
そして、歴史へその名を深々と刻み込むこととなる喰魔教団の始まりは、一人の少女が口減らしで村から捨てられたことだった。
初回なので準備が出来次第、キリの良いとこまで連続して投稿したいと思います٩( 'ω' )و




