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プロローグ:標高3000メートルの執着

【読者の皆様へ:注意事項】

本作には、暴力、監禁、精神的虐待、および近親相姦(義理の兄妹)を想起させる表現が含まれています。また、登場人物に反社会的な行動や強い狂気が見られます。

これらはすべてフィクションであり、犯罪を助長する意図は一切ございません。

ショッキングな描写が苦手な方や、精神的に不安定な状態にある方は、ご自身の判断で閲覧をお控えいただけますようお願い申し上げます。

槍ヶ岳の登山道は空気が薄く、指先から凍りつくような冷気が全身を支配していた。僕は後ろを振り返り、僕の妻であり、最愛の妹でもある――朱里を見つめる。登山用マスクの向こう側で、彼女は青ざめた顔をさせ、苦しそうに呼吸を乱していた。


「あと少しだよ、朱里ちゃん」


僕は優しく声をかけ、手を差し伸べる。厚手のグローブ越しに、僕たちの手が触れ合った。「ここには僕たち二人しかいない。会社の人間も、スマートフォンも、……そして君に触れようとする他の男も、誰もいないんだ」


朱里は答えなかった。その大きな瞳は、かすかな恐怖を湛えて僕を見つめている。彼女が震えているのは、氷点下の気温のせいだけではないことを僕は知っている。今朝、僕が彼女のスマートフォンのSIMカードを大キレットの断崖絶壁に投げ捨てたことに、彼女は気づいているのだ。


僕は彼女を愛している。胸が苦しくなるほど、狂おしいほどに。


東京の連中は、僕たちの関係を「間違いだ」と言った。五歳の時に父が家に連れてきた養子とはいえ、同じ犬神の姓を名乗る者同士の結婚は「呪い」だと。だが、僕にとってこれは運命だ。彼女の脈を流れる血は違っても、その魂は犬神家の所有物。つまり、僕のものだ。


「江戸さん……足が、痛い……」


彼女が掠れた声で呟く。その震える声は、僕の耳にはひどく甘美に響いた。


僕は彼女の前に膝をつき、靴紐を直すふりをする。実際には、血流が滞るほどきつく紐を締め上げた。彼女に痛みを感じてほしかった。僕の助けなしでは歩くこともできない、ただの肉の塊であることを自覚してほしかった。この長野の山々の中で朽ち果てるしかない、無力な存在であることを。


「我慢して、愛してるよ。頂上に着いたら、ご褒美をあげるから」


凍てつく彼女の頬を撫でる。「マーケティング部の男との秘密は知っているよ。来週、僕から逃げるつもりだったんだろう?」


朱里の体が激しく強張った。北アルプスの静寂の中、僕の手首にあるスマートウォッチの同期を通じて、彼女の狂ったような鼓動が伝わってくる。ピッ、ピッ、ピッ。あまりに速い。追い詰められたウサギの鼓動のようだ。


僕はネックウォーマーの下で微笑んだ。「怖がらなくていい。怒ってなんていないよ。ただ、また『一つ』に戻りたいだけなんだ。あの古い家の暗い押し入れの中にいた頃のように、完全にね」


僕は立ち上がり、厚い霧に覆われた頂上を目指して、彼女の手を強引に引いた。目の前には底の見えない崖と、永遠の静寂が広がっている。


ここなら、彼女の悲鳴を聞く者は誰もいない。ここで、犬神朱里は永遠に犬神江戸のものになるのだ。


ご一読いただきありがとうございます。

本作は、美しくも過酷な北アルプスを舞台にした狂気と執着の物語です。

江戸の愛は果たして純愛なのか、それともただの地獄なのか。

朱里の運命がどう変わっていくのか、ぜひ最後まで見守っていただければ幸いです。

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