番外編短編・今日も平和に推し活中
昨日は探偵の仕事だった。これが面白い。とある男爵の泥沼不倫の調査だったが、モブキャラ魂に火がつき、仕事を忘れ噂を収集し、いつの間にか予定より早く業務が終わった。
おかげで今日は一日暇になってしまい、推し活していた。
王都のティールームでエリサとお茶をしつつ、推しのロン様の素晴らしい部分を語りあっていた。
「もう本当、ロン様が尊い……!」
そう呟き、お茶を飲む。香り豊な紅茶でおいしい。ケーキスタンドのマフィンやチーズケーキともよくあい、舌が溶けそうだ。
あぁ、平和だ。今のところ、ブラッドリーは不貞を反省し、仕事に忙しい模様。バッドエンドフラグも全く立っていない。退屈になりそうな悪寒はしたが、これ以上の幸せが思いつかず、笑顔になってしまう。
「しかし、フローラ。あんた、探偵しながら、何か面白い噂はないかね?」
一方、エリサはぐいっと前に出て、噂を知りたがっていた。さすがお師匠様のエリサだ。こんな時まで噂収集に余念がない。
「い、いえ。噂なんてないわ」
私は頬を引き攣らせ、首を振った。探偵の仕事は楽しいが、守秘義務がかなり厳しい。クライアントの秘密は絶対厳守であることは、釘を刺されていた。
「本当かい?」
エリサはさらに前に詰めてくる。
正直、業務上で知った数々の噂話を暴露したい。特にエリサと共有し、人の不幸を舐め尽くしたいと思ったが、どうにか口を引き締める。
「本当はいっぱい噂したいわよ。でも、守秘義務がねぇ」
「そうか。残念だよ、奥さん」
しゅんとしているエリサ。まるで陸にいる魚のようだったが、ピンと閃いた。エリサが探偵やってもいいんじゃない?
むしろその方が私が知らない噂が耳に入り、探偵の仕事も大きく捗るかもしれない。
「エリサ、探偵しない?」
「それもいいね!」
ということでエリサも探偵になる予定だ。洗濯婦の仕事と両立しながら、まずは副業感覚で始める予定だったが。
「ま、今日はとりあえず推し活しよう!」
「そうだな、奥さん!」
といっても、今日は推し活の日だ。エリサと二人で思う存分、ロン様のいいところを語り合い、充実していた。
平和だ。これが私が夢見ていたモブキャラライフだったが、これ以上幸福なことは思うつかない。
「よし、エリサ。探偵の仕業でお金貯めて、ロン様の遠征もしよう!」
「おー! 楽しみだ!」
新しい目標もでき、今日のティールームもワイワイと騒がしい。




