第41話 ハッピーエンド
「どうしてこうなった……」
思わず愚痴がこぼれたが、今、私はウェディングドレスに身を包み、女性なら誰もが憧れる状況だった。
場所は教会の控え室だ。着替えもメイクもヘアセットも終わり、鏡の中には美しい花嫁がいた。
フローラは見た目だけは美人だ。確かにきっつい顔だちだが、目鼻立ちも整い、背も高いので、ウエディングドレスもよく似合ってる。
これから結婚式を挙げる予定だった。正確に言えばやり直し結婚式だが、ブラッドリーが決めたことというよりは、世間体を気にした結果だった。
ブラッドリーは元愛人の謝罪や補償は全て終わらせたが、ついた悪評はなかなか消えず、私もサレ公爵夫人と呼ばれ続けていた。
そんな中、ゴシップ記事がでた。いまだにブラッドリーが不倫しているという内容だったが、一から十まで全部フェイクニュース。どこかで誤解が生じ、記事が出てしまったらしいが、これでは公爵家の世間体も悪いということで、改めて結婚式をあげ、夫婦円満をアピールすることになってしまった。
「どうしてこうなった」
頭を抱えそうになったが、フローラの感情は喜びでテンション高め。一方、佐川響子の自我は限りなく冷めていた。こんな結婚式みたいなヒロイン役とかしたくない。
今から逃げたいぐらいだった。それに、最近は探偵の仕事もはじめ、数々の不倫の証拠も収集していた。本当はやり直し結婚式を挙げる暇もない。一件でも多く探偵の仕事をしたいぐらいだった。これが案外、モブキャラの私の性質にあい、充実していた。ブラッドリーもミステリー小説の新境地を開き、お互い忙しくしていたところだったのに。
「もう、結婚式とか勘弁して。モブキャラらしく大人しく仕事だけしていたい!」
涙目で訴えた時だった。教会の鐘が響き、耳がキンとした瞬間、また白昼夢をみた。
白昼夢の中では佐川響子に戻っていた。急に視界が低くなり、しっくりしてきた。
「このちんちくりん体型とモブ顔が落ち着く〜」
夢の中とはいえ、佐川響子に戻り、ほっした。なんかフワフワの雲の上にいるが、それも心地よく、もうあの異世界に戻りたくもないと考えた時だ。
「響子ちゃん」
「ひぇ!」
目の前に文花おばさんがいた。文花おばさん、今日も悪魔のコスプレ中だ。ハロウィンでもないのに。ただ、相変わらず悪魔コスプレはよく似合い、吹き出すのをどうにか堪えてしまう。
「響子ちゃん、バッドエンドを回避できてホッとしている?」
「え?」
まるで文花おばさんは私の思考を読んだかのようだ。
「よくも『毒妻探偵』をゆるゆるななろう系に変えてくれたわね? この原作クラッシャー!」
「えー、いいじゃない、文花おばさん。WEB小説で殺人事件つきのミステリーとか色々とニッチすぎ」
相変わらず不機嫌な文花おばさんを宥めたが効果はない。それどころか、文花おばさんはスマホを差し出してきた。
久々のスマホに懐かしさすら感じたが、それを見て変な声が出た。なんとWEB小説「毒妻探偵」の第二弾がアップされていた。しかもせっかく殺人事件などのバッドエンドを回避したのに、第二弾ではブラッドリーが浮気を再開し、愛人が殺される展開だった。殺人事件に巻き込まれたフローラは謎を解き、殺人犯を追い詰めていく。
そこまで読んで動けない。身体が固まる。まさか、またバッドエンド回避するために動かないといけない!?
「そうよ、頑張ってね、響子ちゃん!」
文花おばさんはまさに悪魔的な笑みだった。オホホと高笑いもし、その声がキンと耳に響く……。
「はっ!」
そこで白昼夢は終わり、教会の控え室に戻ってきた。ウエディングドレスを着ていた。今は女なら一度は憧れる花嫁姿だが、WEB小説「毒妻探偵」の第二弾とは?
白昼夢とはいえ、またバッドエンドが待ち受けている可能性大なのか!?
「フローラ、どうしました?」
そこに教会のシスター、アリアがやってきた。老女のアリアだったが、その柔和な笑みに思わず抱きついてしまう。
信じてもらえないかもしれないが、異世界転生や前世、WEB小説世界のことも告白してしまう。
「あ、そうなんだ」
アリアはこんな荒唐無稽な話でも、少し驚いただけで、すぐに受け入れてた。さすがシスターだが、ふわっと優しい笑みを浮かべた。そして私の肩を叩き、こうも言う。
「だったら、ハッピーエンドになるまで何回もやり直せばいいい」
「やり直せるの?」
「神様は失敗しただけの人間には怒らない。罪を犯しても、悔い改め、立ち上がれるチャンスは与えるわ。生かされてるってそういうことよ。ええ、何度も転んでも立ち上がりましょう」
アリアの声は優しく、白昼夢の不安は消えていく。
「そうね。別にバッドエンド運命があったとしても、ハッピーエンドに変えればいい?」
「そうだよ、フローラ。運命は変えられる。最後にハッピーエンドになれば、過程はどうでもいいんじゃない? 終わりよければ全てよし!」
アリアに励まされ、私は俯かない。ぱっと前を見上げた。
同時に教会の鐘の音が鳴り響く。結婚式を祝福するように、明るい音だった。
「さあ、フローラ。時間だよ。礼拝堂へ行こう。ブラッドリーが待っているよ」
「ええ」
アリアに手を引かれ、早歩きで進む。急ごう。礼拝堂にはブラッドリーが待っているはずだ。
「ブラッドドリー、来たわ。結婚式をやり直しましょう」
神父と共に礼拝堂にいるブラッドドリーは、無邪気な笑顔を見せる。礼拝堂の天窓からは光が差し込み、穏やかなパイプオルガンの演奏が始まっていた。
こんなやり直しの結婚式も、一種のハッピーエンドだ。今はそんな気がしていた。
ご覧いただきありがとうございます。完結です。殺人事件回避ミステリ&ラブコメディでした。実は文花主役のサレ妻探偵もの、「毒妻探偵」も実在しております。こちらはサスペンスよりのコージーミステリです。海外のコージーミステリからガッツリと影響を受けて書いてるので、殺人事件も扱ってます。
作中の宗教はナンチャッテキリスト教の設定です。リアルのキリスト教とはだいぶ違っています。
次はラブコメやライト文芸の予定です。今作のようなWEB小説っぽいライトミステリなども色々と準備中です。仮タイトルですが、「妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます」という短めの作品の予定です。現在プロット&執筆中です。よろしくお願いします。




