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サレ公爵夫人転生〜離婚したいだけなのに、なぜか夫の愛人調査でバッドエンド回避〜  作者: 地野千塩


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第40話 新しい夢

 空は穏やかに澄み渡り、心地よい風が吹き抜ける。小鳥の鳴き声は可愛らしく、一種の音楽のようだ。


 それに公爵家の庭に薔薇も満開だ。赤、ピンク、黄色と色とりどりの花びらは鮮やか。近づくとほんのりいい匂いもするが、今日は庭でお茶会をしていた。テーブルの上のケーキスタンドにはクッキー、マフィン、チョコケーキ、スコーンが並び、甘い匂いがする。紅茶の匂位と溶け合い、思わず私は目を細めた。


「あぁ、平和。とてもいい気分だわ」


 紅茶を啜りつつ、頬がゆるむ。


 あれ以来、ブラッドリーは元愛人に謝罪や補償をしていた。本人は大変そうだったが、もう何の事件もなく、平和だ。


 元愛人のマムは王都の菓子屋と修道院で真面目に働いている。犯罪者(未遂)のザガリーも地元で家業を継いだと聞いた。同じく脅迫犯のエルも地方の修道院で修道士として働いているという。


 ブラッドリーを階段から突き落としたクロエもすっかり改心し、私と推し活に励んでいた。最近ではクロエのロン様の絵が運営の目に留まり、グッズ化の話も出ているぐらいだ。


 他、元愛人のドロテーアも推し活仲間に引き入れた。ドロテーアは投資の才能もある。最近はドロテーアから不動産投資を学び、投資家デビューした。意外と堅実なドロテーアは教え方も上手く、私も着実に資産を増やしていた。


 おかげで私の小遣いも膨れ上がり金銭的問題も特にない。推し活資金も十分にあり、ブラッドリーと離婚したとしても、困ることは特になさそうだった。


 つまりバッドエンドも完璧に回避し、憧れのモブキャラライフをスタートさせていたというわけだ。


「あら、エリサ。仕事終わった? だったら一緒にお茶を飲まない?」


 ちょうど仕事あがりのエリサを捕まえ、一緒にテーブルにつき、お茶を飲む。


 エリサはクッキーを齧ると、あくびをしていた。退屈そうだ。


「最近、王都も平和でな。何の噂話もないよ」

「え、エリサ、本当?」

「そうだよ。本当に退屈だね」


 エリサはそう言うと、さらにあくびをし、つまらなそうにマフィンを齧った。


「このマフィンも美味しいが、毎日食べたら飽きるね。あぁ、退屈」


 エリサの言う通りだ。確かに今は憧れのモブキャラライフを手に入れ、ハッピーエンドなのに、どうも退屈。私もあくびをしてしまうが、今は王都も平和だ。噂もない。推し活も平穏すぎてやることがない。推しのロン様は人気が安定しているし、布教活動もあらかた終えていた。


「奥さん!」


 そんな退屈している時、メイドのフィリスが走ってやってきた。


 相変わらず田舎ものらしくドタバタとうるさかったが、フィリスの右手には手紙があった。もしかしたら脅迫状!?


 バッドエンドを回避する為、動いていた時は脅迫状など見たくもないものだった。


 なのに、今はその手紙が脅迫状でも悪くないような気がしている。よっぽど退屈していたらしいが、エリサもニヤニヤと笑い、あくびを噛み殺していた。


「フィリス、その手紙は何?」


 思わず身を乗り出し聞いてしまったが、それは予想外のものらしい。


 フィリスの父でもあるテレンス探偵からの手紙だったが、来月、探偵事務所を大きくするらしい。田舎といえども依頼も多いという。現在、新しく探偵助手を募集しているそうだが、フローラも応募してみないかというお誘いだった。


「どうですか、奥さん。どうせ暇でしょ? お父ちゃんの探偵助手に応募してみる?」


 フィリスは何の気なしに提案しているようさったが、思わずエリサと顔を見合わせてしまった。


 そういえば、クリスの行方不明の猫を探している時、面白かった。バッドエンド回避の為、動いていた時も、今より退屈はしていなかった気がする。それに愛人調査自体はけっこう楽しかったような?


「フローラ奥さん、いいんじゃない? 退屈しのぎに探偵やってみたら?」


 エリサにも勧められ、胸は高鳴ってきた。


「そうですよ、奥さん。どうせ暇だったら、お父ちゃんの仕事手伝ってもいいんじゃない? 案外探偵業、奥さんにあってると思う!」


 フィリスにも太鼓判を押され、意思が固まってきた。


 確かにヒロインのように殺人事件の謎解きするとか勘弁して欲しいが、モブキャラらしく噂を収集し、バッドエンドを回避するような探偵なら?


 悪くない。むしろ私のモブキャラ性質に向いているじゃないか。


「よし、じゃあ、探偵助手の応募してみるわ!」


 気づくと笑顔で宣言し、フォリスやエリサにも応援されていた。


「奥さん、頑張って!」

「そうよ、奥さん。王都の噂だったら、私になんでも聞きな!」


 そうだ、噂のプロのエリサもいるし、後ろ向きになる必要はない。


 新しい夢ができた。探偵業というのは自分でも意外だったけれど、もう退屈していない。楽しくなってきた。


「フローラ、お前、やけに楽しそうだな」


 いつの間にか帰ってきたブラッドリーは、笑顔んの私に、穏やかに声をかける。


「そうか、探偵やるのか。だったら俺もミステリー小説でも書こうかな! なんかいいネタが浮かびそうだ!」


 ブラッドリーも新しい夢を語り、今日のお茶会は希望に満ちていた。もう退屈する暇もないだろう。

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