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67.まぶしい人

 アイスローズの夏休みは順調に過ぎていった。


 社交界デビュー準備に備えた親戚周りでは、一年ぶりに従兄弟のルパートに会った。彼はアイスローズの一つ下と歳が近く、またヴァレンタイン家特有のプラチナシルバーの髪・ワインレッドの瞳をしている。会う度、お互い自分の異性バージョンを見ている気分になる。

 アイスローズが嫁に行き(婿を取らず)ヴァレンタイン公爵家を継がない場合、ルパートが次期公爵になる。彼は誰もが保証するほどの人格者だから、今後のヴァレンタイン家も安泰だろう。


 美術部での活動も精力的に続けている。

 王城学園内のコンペに参加して、なんとアイスローズの作品が「学園祭のポスター」に選ばれた。

 また、新聞社で公募されていた挿絵コンテストにも応募していて(こちらはペンネームのみで通している)一次選考を通過した。あまりにも嬉しかったから、登校日に廊下で出会ったエドガーについ話をしてしまったほどだ。


 ――そして8月末。


「アイスローズ嬢、久しぶりね! ようこそトレゲニス家へ! みんなも集まっているわ」


 ウェンズディは、休み前となんら変わらない笑顔で迎えてくれた。オフショルダーのブラウスがかわいい。アイスローズは白地に涼しげな花柄のワンピースを着ている。


 今回ウェンズディの元に集まったメンバーは四人。アイスローズ、エドガー、エレーナ、エドガーたちのクラスメイト・ユージーンだ。

 ユージーンはエレーナと同じく平民である。彼はエドガーの友達キャラとして漫画にも出ていた。エドガーの友人だから「ユージーン」という名前なのかは……「王太子探偵という戯れ」の作者のみが知る。

 アイスローズが彼と話をするのは初めてだが、ユージーンは礼儀正しく挨拶をしてくれた。


 トレゲニス邸はエレミア王国でも有数の湖水地方にあった。大きな湖の周りに複数の小さな湖が集まっている。緑の夏山と豊かな水をたたえる湖面が相まって、とても美しかった。ボートハウスも設置されているのが見えた。


 せっかくなので全員で一通り周囲を散策し、そのままピクニックティーとなった。

 青いギンガムチェックのシートが敷かれ、開かれたバスケットにはサンドウィッチやスコーン、キッシュがぎっしりと詰まっている。紅茶の他、直前までよく冷やされていたであろうゼリーや、瓶に入った飲み物もあった。


「とっても美味しいわ!」


 ウェンズディはアイスローズが持参したウィークエンド・シトロンを絶賛する。黒曜石の目にアイスローズを映しながら言った。

「でも、私がこのお菓子が一番好きって、よく知っていたわね。アイスローズ嬢にどこかで話したかしら?」


(そういえば! まずい!)


「あ、それは……」

「アイスローズは顔を見ただけで、その人の好きな食べ物がわかるらしい」

 エドガーはアイスローズをチラリと見ながら言った。

「凄いですね、アイスローズ様! それは占いか、何かですか?」

「面白い特技だわね。あ、占いといえば私、ドレスを占いで決めようかってーー」

 エレーナのセリフにウェンズディが乗っかり、話は変わっていく。


(た、助かった……)


「てか、聞いて!? 社交界デビューのドレス選びがもう、悩ましくて!! 色の指定があるから形で個性を出すしかないけれど、これがすっごく難しいって初めて知ったわ!」

 くわっ、と食ってかかるように同意を求めてくるウェンズディ。


 エレミア王国の社交界デビューでは、対象の女性たちは全員、白いドレスを着て頭にエレミアン・ガラスのティアラをつける決まりなのだ。


 エレーナは両手を胸の前で組み、うっとりしたように言った。

「舞踏会ですか、夢のようにキラキラしたイメージです。二人が着飾った姿は、まるでおとぎ話の世界みたいなんでしょうね」

 今日のエレーナは空色のワンピースを着ていて、彼女こそおとぎ話の住人のようだ。しかし、ウェンズディは首を振りながら渋い顔をする。

「うーん、私がエレーナみたいな美人さんなら何も怖くないんだけどね。プレッシャーの方が強いかしら」

「?」

「社交界デビューは一人前のレディとして認められることだけど、いわば強制的に婚活市場に出ることでもあるから。三年とかでお相手が見つからないことには、行き遅れ扱いされちゃうわ。令嬢は涼しい顔が求められるくせに、がむしゃらにでも相手を見つけるしかないのよ」

「え、そんな!」

 エレーナは驚きながらアイスローズを見る。

 アイスローズは夢を壊して申し訳ないと思いながらも、説明する。

「そうね、実際あまりに年数をかけることになれば、多少無理にでも婚約させられるでしょうね」

「無理に……」

「まあ、最近は令嬢の生き方も多様化しているから、もうあと何年かすればそんなことも言われないようになると思うけど」

 アイスローズはセレスティンを思い浮かべながらフォローするように言う。


「と、とはいえさあ!」

 なんとなくどんよりした女性たちを励ますように、いきなりユージーンが口を開いた。

「アイスローズ嬢ほどのご令嬢なら、本人に気がなくても引くて数多すぎて、あっという間に婚約しちゃいますよ。寂しいですね、エドガー殿下?」

「ちょっと私は!?」とウェンズディは拗ねたようにユージーンを引っ叩く。それから言った。


「というか、今回エドガー殿下とアイスローズ嬢が婚約するかもしれないじゃない!」

「っ、ええ!?」

 ウェンズディのとんでも発言に、思わずアイスローズは声を出す。エレーナは「まあ」と言わんばかりに唇に手を当てた。


(ちょ、エドガーとエレーナの前でなんてことを!!)


「そ、そんなことは絶対あり得ませんわ! ね!? エドガー様――」


 当然のごとく言葉を紡ぎ、助けを求めて見れば、エドガーは一切の感情を無くしたような、なんとも言えない表情をしていた。


(え、)


 アイスローズの動きが止まる。

 みんなの注目がアイスローズからエドガーに移る。エドガーはアイスローズから視線を逸らすと、ハッキリと言った。


「私は、王城学園にいる間は婚約しないつもりだ」

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