まだ、恋の予定は未定
今話で、最終話となります。
これまで読んでくださり、ありがとうございました。
ライラが向かった先からワァッと騒ぎ声が上がる。
あ~まずい、まずい!
早まるな、早まるなよ~!
いや、もう遅いか……あの騒ぎだもんな。
アイツ、あれほどリナに苦言を差されてるのに、やったのか?またやっちまったのか?
ああああ、アイツだからなぁ~。
カイルの脳内は相当焦っている。
「ご淑女、鞄を届けていただき、ありがとうございました。持ち主に代わり、感謝いたします。後ほど、このお礼をしに、持ち主が伺いますので、連絡先を教えていただけないでしょうか?」
カイルは焦っていたが態度には出さない。
しかし、今すぐに行って、ライラを止めなければならないという焦りは相当にある。
でも、親切にしてくれたこの老婆に失礼な態度を取ってはいけない。
だって、貴族は紳士だろう!
「いいのよ、お礼なんて。それより、早く行ってあげて頂戴。急いでいるのでしょう?」
老婆はカイルの様子を察して、そう言ってくれる。
「だがしかし……れ――」
カイルが再度連絡先を聞こうしたところ、老婆に遮られた。
「いいのよ。それに、またすぐに会えると思うわ。」
そう老婆は言って、ニッコリと微笑んだ。
にこやかに笑う、老婆の眼鏡の縁に飾りがつけられており、紋様が描かれている。
その紋様を見て、カイルは踏み入るのを辞めた。
「分かりました。鞄、ありがとうございました。それでは、急ぎますので、失礼いたします。」
そう言い残し、老婆の許を去った。
あの紋様は、杖に巻き付く葉、ヘデラか?
それにあの物言い……俺の勘が当たってるのならば…。
ハッ、それより、ライラが先だ!!
カイルはライラのもとへ鞄を持って、急いで駆け寄る。
居た!!!
あれほど人の多い所では使うなと、注意されているのに…嘘だろう!?
ダメダメ、スカートをめくるな、使うな!
あああああ、やっぱり、鞭を……。
ヤバい、怒りにまかせて今にも振り回しそうだよ。
うわっ!?振り下ろした。
や、やっちまったな。
もう一度、鞭を振り下ろして威嚇しようとしているのが見えた。
今度はもっと近くを攻撃して威嚇する気だな!?
未熟なのにまずいぞ。
当たったら大怪我だ。
あああああ、止めなきゃ!
「ライラ嬢、ストッーーープ!!」
俺は相手の男の人を助けるために、大声で叫んだ。
手を止めて、こちらを見るライラ嬢。
こっちを見た瞬間、俺の持っている鞄が目に入ったのだろう。
急激にライラの顔色が青ざめ始める。
しばらく鞄を握りしめ怯える男を見ている。
そして腹をくくったのか、その場で膝をつき、低姿勢で男に謝り始めた。
今ここに、
ライラの後ろに居る激しく狼狽える護衛達。
何をしているのかと悲鳴のようなライラに呼ぶ侍女の声が響き渡り。
今まで鞭を振るおうとしていた男に対して、突然、大量の涙を浮かべ鼻水を垂らして頭を下げて謝ってくる女。
怯えていた男は、いったい今、何が起きているのかと、さらに怯え、縮こまり震える男の光景が誕生した。
カ、カオス…。
皆さま、お知らせする。
これは始まりだ。
危機感が薄く、正義の為なら猪突猛進するこの娘。
これからライラと関わるカイルは、こういった現場に幾度も居合わせ、尻拭いをする羽目になるのだ。
そう、世話焼きのカイルの受難が、ここから始まったのである。
***
ここはアドラシオン国の市場。
この日は、カイルの久々の休日で、情報収集と市場調査もついでに食料を調達に来ていた。
それに、ライラも同行している。
というか、勝手についてきている。
カイルの情報を何処から仕入れているのか……カイルの休みをライラは把握しているのだ。
何処からって?そう、それは裏切者のフォード公爵しかいない。
会いに来るときは連絡寄こせと言ったのに、用がない時は勝手に来ても良いと謎の解釈をして押しかけられている。
クソッ、夕食に闇の料理を公爵に食わせてやる。
と、カイルが怪しいオヤジから謎肉を購入している時であった。
かなり強い突風が周辺を駆け巡った。
その際、市場の屋台に設置してあったパラソルが大きく宙を舞う。
澄んだ青空に高く舞い上がるそれは、素敵な光景に見えた。
だがそれは束の間、パラソルは急降下し買い物客の頭上に降ってきたのだ。
次の瞬間、ライラが颯爽とスカートの中から鞭を出し、振るう。
一瞬、中が見えたのではと、カイルは脇に冷汗を掻く。
おい、白、じゃない見えるぞ!?
じゃない、あれほど言ってるのに……こいつ、また。
「ライ――」
名を呼び注意しようと思ったが、どうせ集中していて聞こえていないだろうと止めた。
はあ、正義感が強いにも程があるぞ。
自分に正直で、純粋で、直ぐに手が出る変な女。
まぁ、そう言うところは嫌いじゃない……。
ライラは落ちてくるパラソルの中棒を上手く鞭に巻き込むと、人のいない壁へと向かって打ち付けた。
鞭はかなり上達している様だ。
鍛練、頑張ってるみたいだな~。
パラソルの落下地点にいた人々は、無事であった。
だが、パラソルはバキバキに破壊された。
助かった者達は、お礼を言っているのだが、俺はそうはいかない。
そう、また、公の場で鞭を使ったのだ。
ライラを叱らなければならない。
もはや母親のようである。
さあ、説教タイムだ。
「コラー!ライラ、人の多い所で鞭は使うなと、あれほど言っているだろうが、危ないだろうが!」
「すみません、すみません、手が勝手に。」
「手が勝手にではない。あれくらいならば俺でも、そこの護衛達でもなんとか出来た。お前の腕は半人前なんだから、何かあってからでは遅いんだぞ。それに、幼子が驚いて、泣き出すだろう?」
後ろの幼子たちを指差し話す。
「え、カッコイイって、喜んでいますよ。ほらね!あっ。」
ライラがまた場の空気を読まずに返す。
「おい、お前、喧嘩売ってるのか!?」
「キャアァァァァーすみませ~ん」
頭にグリグリを受けたくないと逃げまどうライラに、拳を握ってお仕置きをする為に追いかけるカイル。
必死に許しを請いながら逃げるライラ。
可笑しいけど顔には出さず、追いかける続けるカイル。
受難な日々と申しておりますが、カイルもこの関係を少しは楽しんでいるのかも??
案外、受難な日々ではないのかもしれません。
---END---
カイルはこの時点で、まだ初恋が忘れられていないので、
2人が結ばれるとも結ばれないとも言えないし、
これからどう変化するのかは未定です。
今後の2人がどうなったのかは、次のオリヴィアの物語(最終章)に出せたらいいなぁ~と考えております。
カイル編、お付き合いいただきありがとうございました。




