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まだ、俺は未熟者

お読みくださりありがとうございます


第二騎士団はあっという間に残りの2人を捕まえると、他のカイルが倒した奴らも縛り上げ、無理矢理起こして連行して行く。


襲ってきた奴らが居なくなった後、騎士団長の横から、馬車で待機するように言われていたはずのチェスター家の侍女がひょっこり顔を出した。


「お、お、、お嬢様~~!!」


奥の壁付近で、騎士団と共に駆け付けた医師により治療を施されているライラを見つけて、悲鳴のような叫びをあげ、大慌てで駆け寄って行く。


 ん?なんだこの状況は?

 ライラの侍女や騎士団が何故いるんだ?


 まだ、この状況が消化しきれていない俺のもとへ、ハディトン団長がやって来て話し掛ける。


「よお、ご苦労だったな~黒の隊長。」

「ハディトン団長殿、なぜここに貴方が?といいますか、なぜ騎士団が?」

「ん?お前、何も聞かされていないのか?」

 騎士団長が不思議そうに尋ねた後、少し考え、気まずそうに頭を掻いた。


 騎士団長から聞かされた内容はこんな感じであった。

 ここ最近、新しい商品を売り込みに商会を訪れる貴族を狙い、強奪が頻発していた。


その強奪した品が北の方の国へと渡り、その国や近隣国で複製され、不出来な贋物(がんぶつ)が売りに出されているという事件が多発している事が分かった。

商会への容疑ももちろん掛けられたのだが、その国への繋がりも犯人とする証拠も何一つ上がらなかった。


そこで、囮役を数人の貴族が買って出てくれたのである。

その貴族の一人がチェスター伯爵であった。


しかしこの事件、考えていたよりもあっさり解決とはならなかった。

何故だか、囮の貴族の許へは強奪犯が現れない。

それもそのはず、囮を買って出た貴族は強奪犯が返り討ちに合うだろう容易に考えられる凄腕の貴族ばかりであった為、警戒されたのだ。

それに、内部情報が何処からか漏れているようで計画が上手くいかなかった。


そこで、ライラを囮にしてみてはと言う意見が出てしまう。

伯爵は苦渋の決断で、この話を引き受けたそうだ。

必ず、ライラを危険に合わせない為の最善の守りを固めるという条件付きであった。


その為に、騎士団が駆り出されたのだそうだ。


「そんなこと……全く聞いていない。」

  俺は顔面蒼白になった。


「知らせてくれていればもっと警戒したのに……ライラ(あいつ)に怖い思いをさせてしまった。」

 俺は悔やんだ。

  彼女を危険に晒してしまった事が騎士として、悔しかった。


「お前が完璧にやっていたら、こいつらは近寄っても来なかっただろうな。お前に彼女の護衛を頼んだ者は、それが分かっていたのだろう。だから言わなかった。そして、必ずお前ならば彼女を守ると信頼していたのだろう。そうに違いないさ。」


騎士団長が憐れんだ眼を俺に向けて、そう発した。

お前も大変だなと、心の声が聞こえてくるような表情であった。


元気出せよと言って、肩を優しく叩かれ、騎士団長は王城へと引き返していった。


はあ~とカイルから大きな溜息が零れた。


カイルはライラのもとへ向かう。

「大丈夫か?」

ライラへ短く声を掛けた。


「ええ、平気よ。こんなことは、なんてことないわ。」

そう言い聞かせる様に言葉を発したライラであったが、自分の腕を強く握り絞めている手は小刻みに震えていた。


そうだよな、大丈夫なはずがない…てん。

 恐ろしかったに決まっている。

 護衛として俺はいるのに、不甲斐ない。

 ごめんな。


「お嬢様、全て片付きました。主が心配して待っています。屋敷に戻りましょう。」

そうライラに声を掛けてきたのは、強奪犯から逃げる際に手助けしてくれた用心棒のような身なりの男達のうちの一人だった。


よく見ると男の後ろには、用心棒のもう一人の男や酔いつぶれていた男、靴磨きの男、さらには商会から尾行していた男も居る。


なるほど、チェスター伯爵家で雇われた護衛は、俺だけではなかったのか。

騎士団も居たし。


こんな危険な事が起きると予想されていたのだ……ははっ、当たり前か。


俺は信頼されていると聞かされて、内心舞い上がっていたんだけどな……とんだピエロだったのか。

こんな若造な俺1人には到底任せられない……そうだよな。


「あの、お嬢様は歩けませんので、どなたかお力を貸してくださいませんか?」

ライラの侍女が男達に向かって頼んだ。


その侍女のお願いに、俺達がお嬢様の体に触れるなんてと、男達は躊躇している。


 なるほど、 俺はこの為に呼ばれたのか……。

 ハッ、笑っちまうぜ。


「私がお連れしましょう。私はこれでもライラ嬢の護衛ですので、家まではお送りいたしますよ。」

 カイルはライラをお姫様抱っこし、持ち上げる。


 ワァッと、小さく声を出し、ライラがカイルの首にしがみ付いた。


 歩き出してからしばらくして、

「ライラ嬢、怖い思いをさせて、悪かったな。」

  カイルが、そうライラを見て悔しそうに言った。


 そしてすぐに、真正面へ顔を向け、伯爵家の馬車が停まっている場所へと歩き出した。


  その後、ライラを見ることは無かった。


  おそらく、道中の俺の顔は酷く強張っていただろう…ライラが小さく何度か謝っていたから。


  馬車に乗り、無言のまま屋敷へと向かう。

 馬車の中で俺は、沸き上がる黒い気持ちを宥め、押さえつけていた。


  そして顔を騎士の顔へと戻した。


  屋敷に着くと、ライラが無事に戻ったことで、明るい口調でネタバラシを伯爵からされた。

陽気に話す伯爵とは裏腹に、俺の心中は酷く濁っていたけれど、俺はいつもの冷静な顔を張り付けて、感情を出すことなく会話を淡々とし終わらせ、さっさと屋敷を出た。


穏やかに、何も得ることなく、揉めることなく済ます。


俺は一人の騎士としても、まだまだ認められないままなのだな。

 未熟者、半人前、それが今の俺なのだ。




カイルの想い……今は明かせぬ真実。苦しいんです。

次回は王城。

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