迫る恐怖の足音
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「という事があったんですよ。アレクシス殿下が休暇の許可を出したりするから酷い目に遭ったんですからね。」
ライラと商会に行った翌日、俺はアレクシス殿下の執務室で報告と言う文句を述べていた。
「まあまあ、お前の活躍のお陰で、強奪犯を捕まえることが出来たし、アイツらから聞き出した情報から、商会の下っ端の者達から新製品の情報を聞き出していた娼婦の存在も分かって逮捕できた。これで強盗団の手がかりを追えると、商会も貴族もお前に感謝していたぞ。もちろん、私もな。カイル、後味が悪かろうと、今は胸を張れ。」
そうアレクシス殿下に言われてしまうと何も言えない。
その時、ドアをノックする音がした。
「殿下、あの妃殿下達がお越しです。」
と、ドア横の兵が小さな声でコソコソと話す。
「早く入れろ。」
アレクシス殿下が入室を許可する。
ソフィアと共に部屋に入って来たリナが、カイルを目にして一瞬視線を逸らした。
だが、すぐに笑みを作り何事もなく近づいてきた。
その様子には、アレクシス殿下も気づいたようで不審を持つ。
「やあ、義妹に、我が愛しのレディー、離宮から出るなんて、今日はとても体調がいいようだね。」
仮病で引き困っているソフィアに対して皮肉交じりにアレクシス殿下が話し、歓迎する。
これがこの夫婦の日常だ。
「ええ、今日は特別な来客があるようですので、今はこちらに移動をするよう命じられましたの……リナが。私はその付き添いなだけです。」
アレクシスの皮肉入り挨拶に、顔色一つ変えず答えるソフィア。
「ああ、西のグランドル大国の王子が来ているからね。離宮に行ってみたいとでも要求されたか?テディは君をどうしても王子に会わせたくない様子だね。まだ彼は鼻垂れの子供だというのに……リナはハートフィル侯爵家へ帰っていると嘘をついて居留守を使わせるなんて、嫉妬深くて困ったものだ。まあ、そんな私も、ソフィーは体調を崩し寝込んでいると話しているけどね。」
こいつも同等じゃねーかと、この部屋に居る者は考える。
トントン。
またドアがノックされた。
「チェスター伯爵が近衛騎士隊長にお会いしたいとのことです。」
と、ドア付近の兵が尋ねる。
カイルが何事かと顔を崩し、いつもはあまり見せない動揺をする。
「通せ。」
アレクシス殿下が答える。
チェスター伯爵は入室すると、室内に居る人物たちを見て、不敵な笑いを浮かべた。
その瞬間、リナの顔が酷く強張った。
「失礼いたします。アレクシス殿下、お久しぶりでございます。」
軽く挨拶を交わした後、チェスター伯爵が語り出す。
「我が娘ソフィアが妃殿下となり早二年が過ぎまして、こうして娘の許を訪ねるのも二年ぶりとなります。女学生時代に刺繍がうまく出来ずに母親に泣きついたのが、つい最近の出来事の様ですので、我が家では家族全員、ソフィアが粗相をしていないかと心配でたまらない日々を送っております。まだ失敗がないようで何よりです。何かがあった場合は、我が領地にある由緒正しい修道院に受け入れますので――」
「お父様!!いったい何用でこちらに来られたのですか!?」
ソフィアが居た堪れなくなり、チェスター伯爵の言葉を止め、質問した。
あれは……チェスター伯爵はソフィアを跡取りに出来ず、王家へ嫁がされた事を未だに根に持っていると感じさせる言葉だな。
言葉とは裏腹に穏やかにニコニコして話す伯爵が酷く不気味に感じる。
皆がそう考えていようがお構いなしに、伯爵の話は進む。
「そうでした、そうでした。モーリス殿に用事がありまして、居場所を確認したらこちらに居ると聞かされましたので、参りました。」
チェスター伯爵は低姿勢を維持している。
ここに居るカイル以外は高位貴族であるために言葉や態度は低姿勢なのだ。
だが、何故だかそう思えない不思議である。
背中に悪寒が走る。
「そうか、では茶を用意させよう。」
アレクシス殿下が提案をした時である。
入室の許可を願う声がした。
アレクシス殿下が許可すると、ライラが入室して来たのである。
「失礼いたします、アレクシス殿下。お父様に託けがありまして参りました。あ、あれ?大姉様?リナ姉様?どうしてこちらに?お加減が良くないとお聞きしましたが、大丈夫なのですか?」
ライラは2人に気づき、驚きながら心配する言葉を掛けた。
「しー!!ライラ、私達がここに居ることは内緒よ。皆から聞いた通り、今日、私は離宮の寝室で、リナはハートフィル侯爵領で療養しているとしてね。いいわね。」
唇へ人差指を添え、幼子を諭すように言い聞かせるソフィア。
昔からこんな感じのシッカリした姉であったのだろう。
「ご、ごめんなさい。」
ライラはまずかったと慌てて口を押えた。
「いいのよ。それよりも父様に何か伝えに来たのではないの?」
ソフィアはライラの頭を撫で優しい口調で問う。
「そうでした!!父様、大姉さまの代理で王妃様が中央庭園にお茶の用意をしてくれるそうなので、そちらに来るようにとの事です。中央庭園はエドワード殿下がリナ姉様にプロポーズされたあの有名な場所ですよね!!国中の女性の憧れの場所です。早く行ってみたい。」
「へっ?なにその噂知らない……憧れの場所って……はず……ええ!?」
リナが顔を赤くして話す。
「ああいった演出はどうなのかと私は思う。殿下達はやることがいちいちキザすぎるよ。家臣たちが迷惑を葬るのに、考えてもらいたいものだ。」
カイルが小言を言った。
きっとリナが思い出して照れたから、面白くなかったのだろうと、アレクシス殿下夫婦は悟った。
「いいえ、あのようなロマンチックな演出のプロポーズこそが、女性の夢なのですよ。カイル様!女性に対するその認識は改めた方がよいと思われます。」
カイルのやきもちには一切気付かず、熱弁し詰め寄るライラ。
その勢いに後ずさりし、たじろぐカイル。
そこに、割って入る声がする。
「よろしいかな、先程のライラの話から、話の場を王妃様が用意してくれたようなので、そちらへ移動したいのですが、アレクシス殿下、モーリス殿をお借りしてもよろしいでしょうか?」
チェスター伯爵が許可を願う。
「ああ、構わないよ。おそらくその為に、ハートフィル侯爵家から推薦された強者の護衛が今日のみ2人もリナに着いているのだろうから。」
アレクシス殿下がリナの後ろに居る洗礼された肉体の男達を見て話す。
「……。」
赤面から一転、アレクシス殿下の回答にリナは顔を強張らせ、口を噤む。
「それでは参りましょう。モーリス殿。」
チェスター伯爵がカイルを誘った。
カイルは断る理由もないので、ついて行く。
「ああっと、カイル?これ、この前借りたペン返し忘れていたわ。あ、ありがとうね~。」
リナが貸しても居ないペンを返してきた。
かなり不自然である。
「おう、もう返ってこないかと思っていたぜぃー。」
絶対に何かあるなと考える。
そして、俺もつられて何だか言葉がおかしくなる。
部屋を出ながらすぐポケットにしまい手探りで仕掛けを探す。
案の定、そこが開き、小さな紙が入っていた。
これは、伯爵達の隙をついて早く読まなければ……俺の直感がそう言っている!!
カイルにとって信頼できる者たちの近くは、騒がしいけれど安心できる場所なのです。
それを彼は壊したくない。
リナから渡された手紙にはいったい何が!?




