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ピエロ  作者: 縣.
2/3

シェリアがピエロの店の常連となり、

皆に顔を覚えられるようになった頃。

グランツがその店に行きたいと言い出した。


「どうして?何で今さら」

「何か俺が行っていけない理由なんかあるのか?」

「ないけど、いつも誘っても来なかったから…」

「あ?俺の行動に口出しすんじゃねえよ!!」


バシッ。

耳元で、頬をはたかれる鋭い音が響く。


「ごめんなさい、グランツ」

「あ?謝って済む問題じゃねえよ!!」


ぐ、とシェリアの胸元をつかみ、もう一度彼女の頬を叩く。

シェリアのお気に入りのマグカップが、シェリアが

テーブルにぶつかった衝撃で下に落ち、割れる。


「今度口出しすれば、ただじゃおかねえぞ」


そう言い残し、グランツは外へずかずかと出ていった。

彼の浪費癖のせいで小さくなった家に、

シェリアは割れたマグカップと共に残された。


溢れる涙。

あざの残りそうな頬に、涙がしみる。


隠そうと、痛む頬に化粧をした。

今日は、ピエロが路上ライブをする日。


グランツがいないほうが都合がいい。

そう思い、胸元を掴まれた衝撃で破れた服を脱ぎ、

爽やかな薄緑のワンピースの上にポンチョを羽織った。


そして、こっそりピエロからもらったバレッタ。

薄く溶ける印象的な白と、桜との素敵な円。

少し短めのシェリアの茶髪に、よく似合う代物だった。


路上ライブに行くと、ピエロのまわりにいつも通り

きれいな円が描かれていた。


少し出遅れたかな。

人と人との間から、シェリアはそっと顔をのぞかせる。


目があった。

誰にも分からないように、ピエロはそっと手を振った。

シェリアも、誰にも分からないように手を振った。


そのまま、路上ライブは始まった。

今日は、一輪車に乗りながら、ピエロの手の上で

3つの赤い玉が遊んでいた。


ピエロが一輪車から降り、拍手を受けた瞬間、彼がのけぞる。

地面にてんてんと転がる、少し大きめの石。

地面にてんてんと広がる、ピエロの頭からの血。


“大丈夫、大丈夫!”


彼が笑ったように見えた。

瞬間、顔からはバラがにゅ、と出てくる。


皆が笑顔になった瞬間、シェリアの顔は凍りついた。


石が飛んできた方向に。

嫉妬に歪んだ表情をした。


グランツが、拳を握りしめていた。


そのままグランツはピエロの輪から離れた。

ピエロはいつものようにブラックボードを出し、

横に帽子をそっと置いた。


そして、片付けを始める。

石が当たった右上の額を抑えながら。


誰もがピエロの演劇の1つだと思い込んだ石。

観客はいつも通り、笑顔でチップを帽子に入れ、去る。


ピエロがブラックボードと帽子を回収する手を止める。

シェリアが、今にも泣きそうな顔でピエロを見ていたからだ。


「どうしたの?シェリア」


少し前から、シェリアに向けて言葉を発してくれるようになった彼。

仮面の下の顔は、今どんな顔をしているのだろうか。


「ごめんなさい、ピエロ」

「どうしたの、シェリア。君のせいじゃないでしょ?」

「そうだけど、投げたの…」

「知ってる。だけど、シェリアのせいじゃないでしょ?」


仮面の上に垂れる血を気にせず、ピエロはシェリアの頭を撫でる。

途中、その手がふと止まる。


「わあ、バレッタ!つけてくれたんだ、ありがとう!」

「わあ、ピエロ!血、血!!」

「え?…うわあ!」

「ハンカチ、ハンカチ貸すから!!早く止血しなさい!!」

「ごめんありがとう!!あー、びっくりびっくり…」


シェリアに背を向け、ピエロは仮面を拭いて額にシェリアの

ハンカチを当て、止血する。

みるみるうちに、ピンクのハンカチが紅く染まっていく。


「…痛い?」

「全然。大丈夫だよ」

「本当は?」

「めっちゃ痛い…」

「そういうの隠さなくていいからね。早く店帰ったら?」

「…変に思われないかな?」

「え?普段仮面つけて歩いてる人間が言える?」

「スンマセン早く帰ります」


そそくさとピエロは荷物とシェリアのハンカチを持って、

店へと足早に帰っていった。


帰ろう。

グランツは不機嫌だけど。


何で石なんか投げたんだろう、グランツ。

いくらなんでもやりすぎよ。


怒りで頭を染めながら自宅のドアを開けようとすると、

鍵が厳重に閉められていた。

合鍵で開けると、ご丁寧にチェーンまでかけられていた。


グランツの気配はするが、すぐには開けてもらえない。

この際、何もかも捨てて自由になってやろうと考えた。


いつでもグランツを捨てて出ていけるよう、準備はしてあった。

自業自得。

全てはグランツのせいだと言い聞かせ、ピエロの店へ向かう。


幸い、持ってきたカバンの中に財布はあった。


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