最終話 【またいつか】
ハイデル=シティの朝は、いつも通りに始まる。
通勤ラッシュ、コンビニの入れ替わり。
ニュースアプリには、「老舗喫茶店、今日で閉店」とか「市内の小学校で特別支援学級再開へ」とか、大小さまざまな“終わりと始まり”が並んでいる。
➖➖都市伝説対策課の部屋➖➖
窓際のデスクで、星野ミオはベンティサイズのコーヒーを持ったまま、しばらく動かずにいた。
机の上には、これまで扱った案件のファイルが五つ、きれいに並べられている。
・舌出し写真事件(都市OS監視バグ)
・消える救急車とトンネルのルート不具合
・END ROOM 掲示板の“終わり演出”システム
・霧ヶ丘高校・地図にない教室
・淡島小・社交的な花子さん
どのファイルにも、最後のページにだけ、同じような付箋が挟まっていた。
【九割解決。一割は“観測中”。】
「先輩、課長が呼んでます。“課としての総括を出せ”って」佐久間がドアから顔を出す。
「えぇぇぇ!総括〜?いちばん苦手なやつ〜」
そう言いながらも、ミオは一枚の白い紙を取り出し、ペンを走らせ始めた。
◇◇◇
都市伝説対策課・最終報告(非公式)
ハイデル=シティには、毎日のように新しい都市伝説が生まれ、そしてそのほとんどは、勝手に忘れられていきます。
ときどき、それが人を傷つけそうな形になったときだけ、わたしたちの仕事が発生します。
調べて分かったのは、この街の「怖い話」の九割は、システムと人間の心で説明できるということです。
ただし残り一割、あえて説明しないほうが正しい種類の“終わり”が、確かに混ざっています。
わたしたちは、すべてを“分かったこと”にはしません。
それでも生きていける範囲だけ、、
「これはこういう仕組み」
「これはこういう役割」と線を引き、その外側にあるものは、ただ静かに見ていることにします。
世界の終わりは、たぶん、いつか本当に来ます。
でも、そのときまでの、毎日の小さな終わり方を、少しだけマシにするのが、わたしたちの仕事です。
都市伝説対策課・星野ミオ(ギャル警察・仮)
◇◇◇
舌出し写真の街では、“人生終わった”と思ったとき、自分で舌を出して笑う文化が残った。
トンネルでは、救急車が通るたび、誰かが小さく“ただいま”とつぶやく。
END ROOM には、今もときどき、あの言葉が混ざる。
“誰かの終わりをネタにしないでさ、自分の願いは自分で何とかしよ”
霧ヶ丘高校では、誰の名前も消さないことが、静かなルールになった。
淡島小のトイレでは、“しんどいね”という声が、
今日も誰かを少しだけ救っている。
そして、旧天文台。
ある年の秋、再開発で取り壊しが決まった。
フェンスの外で、ミオはポケットに手を入れたままドームを見上げる。
「ここも、終わりかぁ〜」
「寂しいんですか」
「まあ、ちょっとはね」
ミオは夜空を見上げた。
「ここ、“屁理屈が届かない一割”見た場所だからさ」
ビルの明かりが、ひとつ、またひとつ消えていく。
ただの夜の景色。ただの、普通の終わり。
ミオは、小さな紙片を取り出す。
丸と円と「?」の図。
それを、ためらいなくライターで燃やした。
炎は一瞬だけ揺れて、すぐに灰になった。
「残さないんですね」
「うん。残さないほうが、ちょっとだけ本物っぽいでしょ☆」
風が吹く。灰はどこにも落ちず、ただ夜に溶けた。
◇◇◇
➖➖数年後➖➖
都市伝説対策課は名前を変え、別の部署に吸収された。
【都市安全リスク管理室】
その壁に、一枚だけポストイットが残っている。
「怖い話は、全部消すんじゃなくてさ、“人が楽しめて生きていける怖さ”に調整すること」
字の主は、もうここにはいない。
それでもこの街では、今日も都市伝説が生まれている。
誰かが、終わりを想像しそうになったとき。
そのすぐ隣で、軽い声がひとつ、落ちる。
「あ〜、それ考えすぎ。とりま今日寝よ☆」
世界の終わりは、まだ来ない。
来るとしても、きっとその直前まで、この街の終わり方は、少しだけマシに整えられている。
たぶんそれで、十分だ。
終
ずっと書いてた作品を完結させたので暇つぶしで書きました…。もう少し叩いてから出せば良かったのですが…毎日書いてたので書かないと気持ち悪くて…。読んでくれた人の暇が少しでも潰れたら幸いです。
わーわーゆーとりますが、お時間です。またね。




