表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

第1話 【舌出し顔は誰のもの】


 ネオンが夜空を覆い隠す街、ハイデル=シティ。

 ビルのガラスには、今日も意味ありげなニュースのテロップが反射している。

 けれど、その文字の一部が、ほんの一瞬だけ“裏返って”見えた気がした。


「お〜い!サク。また出たってさ、舌出し顔」

 ギャル系制服にピンクのネイル。警察規定ギリギリのラインを軽やかに踏み越えながら歩くのは、都市伝説対策課の巡査・星野ミオ。

 隣でタブレットを抱えているのは、真面目そうな後輩・佐久間だ。


「星野先輩、笑い事じゃないですよ。例の“舌出し写真症候群”、これで報告三件目です」


 ハイデル=シティで広まりつつある奇妙な噂。

 深夜零時ちょうど、街のどこかで写真を撮ると、顔がすべて“舌を出した老人”になる。


 服も、髪も、そのままなのに。

 顔だけが、どこかで見たことのある“あの表情”にすり替わる。


「それで、今回の被害者は?」


「はい。路地裏で自撮りして、そのまま気絶。朝になって目を覚ましたら、スマホに一枚だけ写真が残っていたそうです」


 現場はコンビニの裏口。

 高層ビルの隙間から、細く切り取られた空。

 蛍光灯の白が、やけに平坦だ。


「んー、映えない〜。ここで自撮りするメンタルが一番ミステリーなんだけど…サク、ここで撮るか?普通?」

「いやいや、先輩、疑問点はそこじゃないです」


 佐久間がため息をつき、監視カメラの映像を表示する。

 少女がスマホを構え、ポーズを取る。

 次の瞬間、フレームがざらつき、ノイズが走る。

 復帰したときには、もう彼女は地面に崩れ落ちていた。


「またか〜。ねえサク、これさ、マジで呪いとかじゃないよね?」

「科学者の霊がギャルの自撮り荒らすとか、嫌すぎます」


 軽口の奥で、ミオの視線は鋭い。

 ミオは証拠品のスマホを受け取り、問題の写真を開いた。

 ジャージ姿の少女。その上に貼りついた、舌を突き出した老人の顔。

 白黒がかっていて、古いフィルムのようなざらつきがある。


「でもさ、これってさ…よぉぉぉく見ると…」

 ミオは画面を拡大し、瞳に指を滑らせた。

「アインシュタインじゃなくない?ない?ない?」

「え?でも、舌も出してるし、あの有名な、、」

「違う違う!チャウチャウ!」

 ミオは首を振る。ほんの一瞬、視線が止まった。


「……ていうかこれ、“誰でもない顔”に寄せてる気がするんだよね〜」


 佐久間が黙る。


「ほら、見てみ。眉の角度もシワも微妙に違う。これ、“一枚の写真のコピー”じゃなくて、“特徴の平均値”だよ。後から合成してる」


 タブレットに複数の画像が並ぶ。

 似ているのに、どれも決定的に違う顔。


「つまり、誰かがリアルタイムで“顔フィルター”をかけている?」

「そう。しかも設計思想が、完全に理系おじさん界隈」


 ミオは空を見上げた。ビルの上に突き出したアンテナ群。


「この街、こないだ量子同期ネットワークとか導入したでしょ。“都市OS”ってやつ」

「はい。監視カメラや交通制御を一括管理する基盤ですね」

「その中に、顔認識のテストデータくらい入ってるでしょ」


 佐久間がネットワーク図を展開する。


「零時。負荷が下がる時間に自動メンテが走る。そのとき、試験用の顔変換モジュールが一般回線にリークしてるんじゃない?」


「……雑な管理のせいで?」


「そう。“天才の呪い”とかじゃなくて、“街の頭脳のデバッグ不足”ってやつぅ?」

 ミオは靴先でゴミ袋を軽くつつく。

「やだ〜、この考え方、超現代っぽくない?」


「まぁ、その考え方は置いといて。でも、被害者の“時間感覚の異常”は?」

「おいっ!置いたなら持って帰れよっ!」

 佐久間の問いに、ミオは口を尖らせ、スマホを軽く振る。

「深夜に、自分じゃない顔を見せられるでしょ?人間の“自己認識の時計”がバグるの」


「自己認識の時計……?」


「そうそう♪自分が自分だって感じるリズム。顔はその中心だから。そこひっくり返されると、“今がいつか”分かんなくなる」


 佐久間は小さく頷いた。

「被害者、こう言ってました。“朝までの記憶が、一枚の写真みたいに平らだった”って」


 その言葉が、妙に重く落ちる。

 ミオは指を立てた。

「はい出ました、星野巡査の超雑まとめ〜。“呪い”じゃなくて“バグ”ね」


 そのとき、路地の先でフラッシュが光った。

 高校生たちが騒いでいる。

「零時に撮るとヤバいんでしょ?やってみよーぜ!」


 ミオはため息をつく。


「ほら、拡散第一波〜。サク、都市OSに至急修正依頼。あと広報に“自撮りは日付変わる前まで”って注意出させといて」

「星野先輩は屁理屈なのに、ちゃんと仕事になるのが腹立ちますね」

「屁理屈って言うな!腹立つな!感謝しろ!

 ねぇ、サク。都市伝説ってのはさ、九割現実で説明して、最後の一割だけ“もしかして”を残すのがちょうどいいの」


 ミオはスマホを取り出した。

「で、その一割のために、ミオ先輩も一枚撮っておくぅぅ☆」


 深夜零時ちょうど。

 フラッシュが路地を白く裂く。


 画面に映ったのは、金髪にピンクネイルのギャル警察官。舌を思いきり突き出して、笑っている。


「あははっ!ほらね。舌ぐらい、自分の意思で出そ」


 保存された一枚。

 もし、この街のどこかで、本当に“この世の終わり”を見た誰かがいるとして、そのとき笑っていられるのは、案外こういう人間かもしれない。


 ただ、、


 その写真の右端に、ほんのわずかに、ミオではない“もう一つの舌”が写り込んでいることに。


 まだ、誰も気づいていない。



            続

暇で少し思いついた話しです。短編よりは長いかなぁ〜って感じなのでゆるっと読んでやってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ