ご褒美婚おまけ4
コソコソ
コソコソ
深夜に蠢く人影。
抜き足差し足で目的の部屋へと到着した。
ドアノブに手をかけて、息を殺して周囲を窺う。
誰もいないことを確認し、ドアノブをゆっくり回した。
カ……チャ……
小さな音だけにとどめられ、ホッと息を吐き出す。
ソーッと部屋に入り、ソーッと扉を閉めた。
『フッフッフッフッ』
闇夜に不気味な笑い声。
『ご褒美ちゃあーん、私が来ましたよー』
クラリスは当初過ごしていた冷遇部屋で、静かなスキップを踏む。
主部屋に移動してからは、この部屋は使わなくなったが……クラリスは、ここ最近密かに訪れていた。
この部屋に、ご褒美を隠していたから。
ボロカーテンからさし込む月明かりを頼りに……衝立ての奥へ、ベッドの下に、その鞄を引っ張り出す。
あの超特大ドレスが入っていた鞄を。
中身はドレスからご褒美に変わっているが。
『ウフフ、何食べよっかなー』
パカッと開いて、ご褒美を眺める。
全て、アレクから貰ったご褒美の甘味だ。
アレクが約束通り『甘い結婚』を実行してくれている。
その甘いご褒美を、レオの目を盗み、コッソリこの部屋に隠しておいたわけ。
『深夜の甘味は止められないわあ』
クラリスはどれにしようかなー、と指をさして楽しむ。
誰にも知られぬ至福のひとときである。
『バタークッキーにメレンゲクッキー、ひとくちチョコにチョコチップクッキー、飴ちゃんとキャラメル、琥珀糖と本日の新入りは……』
クラリスは持参した包み紙を開く。
『金平糖』
長持ちする甘味を、この部屋にため込んでいた。
そう……どんぐりをため込むリスのように。
空のガラス瓶に琥珀糖を入れて並べる。
鞄の中には、ガラス瓶に入れたご褒美が並んでいる。
クラリスにとっては、宝石以上の価値があった。
『そうだ、今日は全制覇食べにしよう』
クラリスはそれぞれの甘味を一つずつ取って、ハンカチの上に並べてみた。
『う〜ん、眼福眼福』
クラリスはひとくちチョコに手を伸ばす。
と、そこで視界にそれが映った。
「ヒッ!?」
二本の手に驚く。
伸ばしたクラリスの手の横にもう一本、ヌーと現れたから。
「ゆ、幽霊!?」
クラリスは恐る恐る手の主を見る。
「母上」
可愛い子ちゃんが、目をキラキラさせてクラリスを見ていた。
「アルト!?」
アルトがクラリスに抱きつく。
アルトのコッソリ行動は、クラリス以上に上手なようだ。この部屋に最初にたどり着いた時に似ている。
「僕に秘密なんてズルいですー、母上」
上目遣いのアルトに、クラリスはウッと喉を鳴らした。
「僕だって、お腹空いたよ。剣の鍛練すると夜中にお腹が空くんだもん」
アルトがお腹を擦る。
「そうよね」
クラリスはアルトの頭を撫でた。
「このご褒美鞄は内緒よ」
クラリスは自身の口元に人さし指をあててみせた。
「母上と僕、二人だけの秘密?」
アルトの瞳がワクワクを隠せない。
クラリスはウンウンと頷いた。
さて、この日からリスがもう一匹増えたわけ。
だが、その秘密も長くは続かなかった。
リスが二匹に増えて、一カ月後……バレてしまう。
バッターンッ!
「なぜ、私も仲間に入れぬのだ!」
アレクが騒々しく登場したからだ。
クラリスとアルトの体がビクンと跳ねた。
身を寄せ合う二人の背中を、アレクが見つめる。
「今まで大目に見てはいたんですが、流石にこれ以上は陛下に内緒にできませんので、報告させていただきました。夜食のせいで、朝食を残していますから」
アレクの背後からレオが二人に声をかける。
どうやら、最初っからレオにはバレていたようだ。
モグモグ
モグモグ
二人が振り向いた。
リスのように両頬が膨らんだリスクラリスとリスアルトが。
今日のご褒美キャラメルポップコーンを口いっぱいに頬張っている。
「ブッハッ」
アレクが噴き出した。
「ご褒美は没収します」
無情にもレオがご褒美鞄を回収する。
クラリスとアルトはガクッとうなだれる。
二人の秘密の甘味はこうして終わりを迎えた。
コソコソ
コソコソ
「ねえ、母上。次の秘密はなんにしますか?」
アルトがクラリスの耳元で囁く。
「ウフフ、そうね。なんにしようかしら」
クラリスは茶目っ気たっぷりの瞳でアルトに身を寄せる。
仲良しの母と子はまた何やら企んでいるようだ。
そんな二人の仲睦まじい様子を、アレクが羨ましそうに眺めている。
「だから、私も仲間に入れてくれよ」
拗ねたように言って、アレクが二人に加わった。
コソコソ、ヒソヒソ
キャッキャ、ウフフ、クックックッ
親子三人の様子を、皆が微笑ましげに見守るのだった。
2026/8/20
一迅社文庫アイリスより
『ご褒美婚賜ります』出版となりました。
読者様に感謝を。
桃巴。




