ご褒美婚45
さてさて……
クラリスとレオの主室での会話を、またもや先触れなく冷宮に訪れてしまっていたアレクは、廊下で聞いていた。
バーレイ辺境伯やロイ、ガニオもアレクと共に廊下にいる。
もちろん、クラリスは廊下の存在に気づいていない。
「でも、予定通りにいきましょうか? この冷宮をねぐらにして王都に出向き、一曲一舞で日銭を稼ぎ、白髪の老婆になるまで居座る予定でしたよね?」
「うん、そうそう。契約に外出の有無を突かれないように、ロイとガニオを煽って三年後の詳細から意識を逸らしたんだった」
廊下ではアレクがポカンと口を開け、バーレイ辺境伯は笑いを堪え、ロイとガニオが頭を抱えている。
「ですが、三年後の居場所のことを考えておくべきですよ、我が姫」
「そうだよねえ……」
「迷っておられますか。アルト王子の傍から離れたくはないと」
「うん、そう。せめて、十歳までは近くにはいたいかな」
「我が姫もそうだったから?」
「ええ、そうね」
「アルト王子の近くに居られる方法は……」
「三つあるかしら。可能性の高い順に、
一つ、ガニオ将軍の下で下働き。
二つ、バーレイ辺境伯の後添い。そして、
三つ、陛下を落とぉぉぉす」
「なるほど、なるほど。ガニオ将軍は我が姫の『おぱーんつ』をご開帳した前歴がありましたね。それを盾にするわけですか」
「そう! だって、陛下に報告してなさそうだしね」
廊下に冷たい空気が流れる。
「バーレイ辺境伯の後妻とは思い切った案ですね。確かにアルト王子に面談できる可能性も高い」
「そうなの! でも、ちょっと危険なのは私の正体がバレる可能性があるのよね」
「盛り場の上客でしたしね。ただ、盛った胸でない我が姫なら、気づかれないかもしれませんよ」
「そうね、盛った胸の谷間にチップを入れてくれたものね」
廊下の空気が凍る。
「陛下を落とす、これは……」
「そう、一番可能性がないの。だって、『お前を愛することはない』宣言されたお方だもの。でも、陛下を落とせば」
「ずっと、アルト王子の傍に居られますね」
「そうなのよ!」
「我が姫は、陛下を『愛することは』?」
廊下ではアレクに視線が集まっていた。
アレク自身は耳に全集中である。
「んっとね、陛下の持ってくる甘味をこよなく愛してるわ」
廊下に微妙な空気が流れた。
「さてさて……」
レオがそう言いながら、動き出す。
「……どの選択肢を選びますか?」
「うーん」
クラリスが唸る。
「我が姫に訊くよりも」
レオがカチャと扉を開いた。
「ちょうど、御三方が居られますから、選んでいただきましたらよろしいのではないかと」
クラリスは振り返る。
「……」
「……」
アレクとがっつり目が合った。
そのアレクの手には……すみれ色の小箱。
「チョコレートを持ってきた」
クラリスの瞳がキラッキラに耀き、小箱に釘付けになる。
「私は前言撤回する」
アレクが言った。
「白い結婚でなく『甘い結婚』に変更する。これからも、三年後もずっと甘味を贈ろう。私と、いや、私たち親子と縁を結んでくれ。離れぬ縁を」
アレクがクラリスの元に進む。
跪き、チョコレートの小箱を差し出して乞うた。
「どうか、私と結婚してくれ」
クラリスは目を瞬く。
「あの、私もう結婚しておりますが」
「何!? いったいどこのどいつとだ!」
「陛下と」
「……そ、そうだった」
「ご褒美を毎日くださるの?」
クラリスはうっとりした瞳で、チョコレートの小箱を受け取って訊いた。
アレクの顔がパッと喜色ばむ。
「もちろんだ。色んな甘味を贈ろう」
「アルトと離れなくても良いの?」
「ああ、名実ともにアルトの母になってくれ。バーレイ伯と養子縁組を。クラリスの居場所はブルグでなくこのリャンだ。私、アレク・リャンガルガの傍らで『甘い』毎日を送ろう」
アレクが小箱を持つクラリスの手を取り、一緒に立ち上がる。
「返事を聞かせてくれないか?」
クラリスは笑みを花咲かせる。
「ご褒美婚賜ります」と。
本編 完結
おまけ三話あり




