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ご褒美婚賜ります  作者: 桃巴


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ご褒美婚39

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 ーーーー

 ーーーーーー


 数週間後。

 お披露目会当日を迎えた。


 クラリスはアレクが用意したすみれ色のドレスに身を包んでいる。


「よくお似合いでございます」


 女官二人が眩しそうにクラリスを見る。

 女主人を整えるのは実に五年以上ぶり。亡き側室の侍女であった二人は、久しぶりに腕がなったことだろう。

 それも、敵陣お披露目会に向かうクラリスを最高の出来にしたかった思いが、全身に行き渡っている。


 クラリスはここ数週間の女官の世話や、ゾレスの食事管理でやっと身体の肉付きが改善され始めている。


 痩せこけた貧相から、健やかな細身女性程度には変わっていた。

 ブルグ時代からのクラリスとは見違えている。


「そうかな?」


 クラリスは自己評価が低い。

 当人は自身の変容に気づかないものだ。

 今だ、上質な物に馴染めないクラリスである。


 カチャ


「母上様、入って良い?」


 薄く開いたドアからアルトが声をかける。

 バッターンッは卒業したらしい。


「いいわよ」


 ちょこんと顔を覗かせたアルトが、クラリスを見るなり大きく目を見開く。


「母上様、とっても綺麗です!」

「そう? ウフフ」


 近寄ってきたアルトと視線を合わせるように屈む。


「アルトもかっこいいわ」


 アルトがエッヘンと胸を張る。


「母上様の色と同じです! この色は仲良しの証拠だと父上が言いました」

「へえ、そうなのね」


「そうですよ、我が姫」


 アルトに続き、支度を終えたレオがゾレスと一緒にやって来た。

 黒を基調としたレオの衣装は、アクセントカラーがすみれ色の仕様になっている。

 レオ専用にデザインされた騎士服のようで、リャンの騎士服とも兵服とも異なっていた。これからのレオの正装になろう。


「良かったわ、レオも出席できて」

「いわゆる近衛的役割参加ですね。本来なら、出席できない身分ですが」


 レオがフゥと重そうな息を吐いた。

 レオもクラリス同様に上質な衣服に不慣れで、夜会も初めてになる。


「どうかアルト王子とクラリス様をお守りください、陛下が動くまで」


 ゾレスが頭を下げながら言った。女官二人も同じく頭を下げる。


「任せてよ、ゾレス先生!」


 答えたのは小さな騎士アルトである。


「頼もしいですぞ、アルト王子」

「ひとつ、母上様を一人にしない。ひとつ、変な顔の奴は覚えておく。ひとつ、飲んだり食べたりしない。僕は言われたことを絶対に守る」


「はい、よろしい」


 アルトの宣誓をゾレスが微笑んで頷いた。

 アルトの宣誓はそっくりそのままクラリスのそれになる。


 アルトを絶対に一人にしない。

 接触してきた貴族を心象込みで覚えておく。

 何か仕込まれている可能性を鑑み、飲食はしない。


「失礼します。そろそろ、お時間です」


 クビ騎士二人が知らせに来た。

 二人もレオに似通った出で立ちである。つまり、アルトが口にしたように、すみれ色が仲間の色を示すわけだ。

 もうクビ騎士と呼ばず、(すみれ)騎士と呼ぶ方がいいだろう。

 同様に、ゾレスや女官らもすみれ色がアクセントカラーの制服を着用している。


「陰ながら、ご健闘をお祈りしております」


 クラリスとアルト王子、レオは菫騎士に先導され主城へと向かった。




 アレクに続き、お披露目会主役のトルド王子が王妃に抱かれ、会場の大広間に入る。

 集まった貴族らから歓声が上がり、王妃が誇らしげに満面の笑みを振りまいた。


「トルドのお披露目に集まってくれた諸君に感謝する」


 アレクの言葉で、拍手喝采が巻き起こった。

 その歓喜を手で止め、アレクは続ける。


「後ほど、重要な発表も行う予定だ」


 どよめきが広がった。

 ますます王妃の笑顔が弾ける。


「さて、ついでだが新顔を紹介しよう」


 アレクの目配せで、クラリスは夜会に足を踏み入れた。アルトを伴いながら。

 先ほどまでの歓声が一気に静まる。


「側室として召したブルグの王女クラリスだ。トルドの世話で忙しい王妃に代わり、アルトを任せた」


 異様な静けさの中、クラリスは膝を折る。

 ただ、慣れないヒールでのカーテシーで、アルトがクラリスの手を支えながらであった。


 ヒソヒソが始まる。


『何よ、あれ』

『カーテシーもできないの?』

『ブルグの王女だから、膝など折ったことなどないのだろう』

『挨拶はする方でなく受ける方だけだと?』

『膝を折った挨拶しか受けてこなかったというわけか』

『なんと、横柄なものよ』


 ヒソヒソだが、クラリスの耳に入っている。

 事実、ヒールを履いたカーテシーはできていない。膝を折ったことは多々あるが、両膝地面の土下座がほとんど。つむじを見る挨拶なんて受けたことはなく、見下されつむじを見せる挨拶しかしたことがない。


「クラリスは、まだ、リャンの暮らしには不慣れだ。皆、できるだけでいいから気にかけてくれ」


 要するにひと声でもいいからかけてやってくれ、とアレクは指示したのだ。

 おざなり的な雰囲気をあえて醸し出して。

 だが、国王の言葉であるのは確か。そこを図れるかどうかをみているわけだ。


「皆、楽しんでくれ」


 アレクが着座し、王妃が女官が押してきた乳母車にトルドを寝かせると、自身も着席した。

 クラリスとアルトもそれに倣う。


 貴族らの挨拶の列ができていく。

 アレクと王妃にお祝いを述べ、トルド王子に挨拶するわけだ。胸に手を当て、忠誠を示すように膝まで折る者もいる。


 クラリスとアルト王子のところには……トルド王子への挨拶を終えてもやってこない。

 チラリと一瞥し会釈されるのはまだ良い方で、鼻で笑って去る。見もせず居ない者とされる。


 まさに、一目瞭然の景色であった。





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