身重の女性は無理をしないで
ツークシーとの会話に夢中になっていると、近くにいたグーがうずくまって苦しそうな声を上げる。
「うぇぇ…………気持ち悪いよ~、吐きそう。…………助けて~」
「グ、グーー!、大丈夫?。しっかりして!、いつものつわり?、それともどこか怪我をしたの?」
「たぶんつわりかな?。久しぶりに緊張したから、いつもより気持ち悪いよ~」
「グーも身重なんだから、体を大切にして無理はしないでね?」
うずくまったグーの傍に寄り添い、背中をさすりながら容態を確認すると、つわり以外の症状はなさそうだった。
一安心したフランは、動けなさそうなグーを慎重に抱きかかえると、地上の休憩所として作っておいた宿に運び込む。
「ツークシー、まだ聞きたいことがあるけど、グーが心配だからもう行くね?」
「了解、私はマージの傍にいるから、フランはグーの傍にいてあげな」
朝日が昇るころには、容態が落ち着いて安堵したが、眠るまで傍にいて欲しいと言われたので、お昼近くにグーが眠るまで傍にいた。
マージの様子が気になり見に行くと、ツークシーの他にヤーサ、ブリム、ポラン、リンが集まって話をしている。
「ヤーサ、体の調子はどうなの?。体調が悪かったら、すぐに知らせて」
「旦那様、私は大丈夫ですよ。それよりも、グーの具合はどうですか?。つわりが酷いと聞きましたが」
「今は落ち着いて眠っているから、心配は要らないと思う」
ほっとした表情を浮かべるヤーサの元に、マージの傍にいたツークシーがやってきて、明るい声で話しかけてきた。
「マージはもう心配いらない、自然治癒が始まるくらい怪我が治ったから、明日には意識を取り戻すかな?」
「良かった~。旦那様、ドラゴンは重症や致命傷の場合、竜治療師の力を借りないと助かりませんが、軽傷なら自然治癒ですぐに治るのですよ」
「じゃあ、マージはもう安心だね?。…………そういえば、ツークシーは僕たちがここに来ると、知っていて待っていたの?」
「ああ、それはお義母さまに言われたんだ。ここに行けば助かるから、早く行けって」
「ツー、お母さまは今どうしているの?」
「呪い竜を1頭取り逃がしたと知ると、すぐに対処に向かったよ。私も手伝うと言ったけど、竜治療師はオリハル鉱山にいるから、早く行けって怒鳴られたよ」
笑いながら話すツークシーに対して、ムッとした表情のヤーサが話し出す。
「当たり前です!、手伝っている暇があるなら、マージの治療を早くした方がいいでしょ!!。あなたは、昔から考えが単純なんだから!!」
「うわ、ひどい!。暴れん坊のヤ―には言われたくないな~、それとも結婚して丸くなった?」
「そもそも、ヤーが結婚するとか信じられない。明日、大地が真っ二つになったりして?」
「うるさいな~、昔の事より今幸せだからいいの!」
「あれ?、ヤーサとツークシーは昔からの知り合い?」
「えっ、あ、旦那様。ツークシーとは、子供の頃からの幼なじみなんですよ」
「昔の暴れ伝説を、教えてあげようか?」
「それはダメ!。ツー、余計なことを話したら叩くよ!」
「あははは、ごめーん。それよりフラン、夫婦の仲がいいんだね。怒り狂ったヤーを止められる奴はいないと思っていたから、驚いた」
ヤーサとツークシーが仲良くじゃれあっていると、ポランが遠慮気味に話しかけてきた。
「あの~、先輩、私に何かできることはありませんか?」
「ポランも身重なんだから、無理をしないでゆっくり休んでていいよ。つわりは大丈夫?」
「はい、今日は今のところ平気ですよ。マージ様の怪我が少しでも早く良くなるように、手伝いたいのですが」
リンがポランを後ろに下げて、フランの前に出て落ち着いた声で話す。
「ポラン、あなたは身重なんだから休んでいなさい。フラン様、手伝いは私とハヤがしますから」
「…………わかった。実は、少し薬草が足りないんだ。このあたりの森で取れると思うから、探してきて欲しい、出来る?」
「任せてください、出来るだけ早く探してきますから」
「今、必要な薬草の絵を描くから待っていて。それと護衛に、けだまを連れて行って」
「ブリム、けだまを連れて来てくれない?」
リンとハヤが森の中に深くまで入って、夢中で薬草を探していると、気配を消した影が二人を見つけていなくなる。
森の中に隠された山賊の拠点には、修羅場を潜り抜けてきた目つきの鋭い屈強な男たちが、5人集まって武器の手入れをしていた。
男たちが何気ない会話をしていると、影が現れて話し出す。
「ボス、獲物です。女2人、護衛は無しです」
「女2人?、珍しいな。このあたりの森は危険だから、護衛のいない女がいるとは考えられない」
「腕に自信があるのか、バカ女のどっちかだろうな」
「ボス、久しぶりの女ですよ?。理由なんて、どうでもいいじゃないですか?」
「確かに、…………良し、女2人なら、俺一人で十分だ。お前らはここにいろ」
「そんな~、ボスだけ楽しむのはずるいですよ、俺ら全員で行きましょう」
「わかったよ、全員で行こう」
6人の男たちが、森の中を気配と音を殺して素早く移動すると、2人の近くに辿り着く。
「いいか、手順を確認するぞ。まず、一人が物音を立てる。次に。音の反対側から残りの奴らで、奇襲を掛ける」
「奇襲を掛けるときは、怪我をさせないようにしびれ薬を使用する事」
静かにボスの話を聞いていた男たち頷く。
「良し、俺が合図を出したら行動開始だ。全員配置に着け」
ボスの言葉を聞いた男たちが、音もなく散開していく。
2人に気づかれないように、距離を詰めていくと、襲撃に適切な場所に辿り着いた。
ボスが、懐から石を取り出すと、カチカチと合図を出す。
(あれ?、返事がない)
合図の返事の音がしないので、もう一度カチカチと合図を出す。
(返事がない。…………どうなっている?。…………嫌な予感がするな)
「念のため、撤退するか?」
ボスが不安に思い撤退を考えた時、背後から猫の鳴き声が聞こえた。
(猫?、どうしてここに?)
ボスが後ろを振り向こうとした時、急に視界がぐるぐると回り、地面にぶつかった感じがする。なぜか体が動かせないので、状況を確認するために周りを見ると、首のない自分の体が目に飛び込んできた。
悲鳴を上げようとしたが、うまく声が出ない。必死に助けを呼ぼうとしたが、意識が遠のいていく。
次回予告
「先輩、マージ様が意識を取り戻しました」
「良かった~」
「ただ、問題があります」
「えっ?。何があるの」
「自然治癒のため、すごくお腹がすいているそうです」
「それだけ?」
「牛1頭、食べても全然足りないそうです」
「!?」




