人知れず護衛をする、けだま
ドラゴンの姿をしたマージの傍で、怪我の容態を確認していたフランにブリムが近づいてくる。
「フラン様、少し相談したいことが」
「どうしたの?、何か問題でも」
「マージ様の食事についてですが、大量の食料が必要になると思います。ですから、食料の買い出しに行きたいのです。よろしいですか?」
「大量の食糧?、マージは大食いなの」
「いえ、そうではありません。…………ドラゴンの皆様は、怪我をすると体力回復のため、大量の食事をします。目覚めたマージ様は、お腹を空かせているでしょうから、今の内に準備をしておいた方が良いかと」
「そうなんだ、どのくらい必要?」
「…………肉は、牛100頭は必要ですね。他にも野菜や果物、調味料なども必要ですし、お酒も用意しないといけませんね」
提示された食料の多さに、フランは顔をひきつらせて答える。
「わかった、買い出しはグリフォンのみんなと協力してやるといいよ。あっ、でもノンとブリムは身重なんだから、指示するだけでいいからね?。間違っても、買い出しに行っちゃだめだよ」
「はい、かしこまりました」
ブリムが礼をして立ち去ろうとしたので、まだ聞きたいことがあったフランは慌てて引き留めた。
「待って、リンとハヤは帰って来た?。少し遅いから心配なんだ、迎えに行った方がいいかな」
「まだ戻ってはいませんが、けだまが護衛をしている限り、何も心配いりませんよ」
「そうだけど、けだまは猫だよ?。強いとは聞いているけど、心配だなぁ」
「フラン様は、デスキャットをご存じないのですか?」
「デスキャットは森の中限定ですが、サイレントキリングの王ですよ。ドラゴンが相手ならともかく、それ以外に負けることなどあり得ません」
「見た目はかわいい猫だけど、そんなにすごいの?」
「フラン様、あれは何ですか?」
ブリムが指さした右横の方を、フランが何気なく見ると。
「はい今、フラン様の首が切り落されました」
「えっ!、どういう事なの?」
「一瞬目をそらしただけで、目の前にいる仲間の首を切り落されるのですよ?しかも、気配や音、匂いすらもないんです。デスキャットの奇襲は、防ぐのが不可能と考えられていますね」
「鋭い爪で的確に首を狙ってきますから、即死耐性が無ければ確実に即死です。即死耐性があったとしても、連続攻撃で首を落とされるのですよ」
「そういえば、けだまの爪攻撃はドラゴンに傷を負わせる事ができると、ヤーサから聞いたことがある」
「はい、そうです。ですから、森の中でけだまに敵と認識されたら、助かりませんね」
「けだまに護衛を頼んで良かった~。…………僕はもう少しマージの傍にいるから、買い出しの方は任せるね?」
森の中で夢中になって薬草を探していると、ハヤは自分の周りに誰も居ない事に気付く。慌てて周囲を見回すが、人の気配が感じられないので急に不安になってくる。
「リン姉ーー!!、何処にいるのーー!。…………リン姉ーーー!!」
ハヤは大きな声で叫ぶがリンからの返事はなく、代わりに足元から猫の声が聞こえてきた。
「!?、けだま、いなくて心配した」
突然現れたけだまを不思議そうに見ていると、ハヤの足にじゃれついてくる。身をかがめて撫でていると、けだまがハヤを先導するように歩き出す。
「待って!、リン姉はそっちにいるの?」
「ミャ~」
けだまは振り返ってハヤを見ると、道案内するようにゆっくりと歩く。
歩きずらい森の中をしばらく移動すると、ハヤを探している大声が聞こえてくる。
「リン姉--!!」
「!?、ハヤ--!!」
ハヤを呼ぶ声と共に、森の中からリンが現れると、泣きそうになったハヤがリンに駆け寄っていく。
リンはハヤを強く抱きしめると、少し怒った声で話しかけてきた。
「ハヤ、何処にいたの?、すごく心配したんだから!」
「薬草探してたら、…………誰もいなくなった。…………探したけど、いなくて…………」
元から言葉数が少ないハヤは、必死に思いを伝えようとするが、うまく伝わらなくてしどろもどろになる。それでも、姉のリンには気持ちが伝わって、不安な妹を落ち着かせるために、優しく頭を撫でた。
しばらく頭を撫でていると、足元から呼んでいるような鳴き声が聞こえてくる。
「けだま、ハヤを連れて来てくれて、ありがとう。帰り道の案内もお願いできる?」
「ミャ~」
けだまは、すぐに2人を先導するように歩き出したので、リンたちも慌てて後を追う。
「リン姉、はぐれたのは残念。…………でも、危険な魔物がいなくてよかった」
「そうね~、確かに森の中で危険な生き物に、出会わなかったような気がする。もしかして、この森は危険が少ないのかしら?」
リンとハヤの会話を聞いたけだまは、不機嫌そうな声で鳴くとリンの足を甘嚙みする。
「痛い!、けだまどうしたの?…………もしかして、森の中に入ってから私たちを守ってくれていたの?」
「フミャーーー!!」
「ごめんね。けだま、ありがとう」
リンが足元にいるけだまを撫でると、上機嫌でのどを鳴らす。
翌日、意識を取り戻したマージは、予想通りお腹を空かせていたので、フランと話をする前に食事が始まる。
次回予告
「先輩、マージ様まだ食べるんですか?」
「そうだね、料理を作るメイドさんが心配だよ」
「あれ、ツークシー様も大量に食べ始めましたよ?」
「食料が足りなくなる~」




