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囁き少女のシークレットボイス  作者: うみだぬき
体育祭と一騒動
12/232

12話 呼び捨てはお預けです!!

 その日は一日中、慌ただしい日が過ぎていった。しかし、事件が解決したおかげか、その慌ただしさすら心地よかった。

 放課後になると教室に四郎がやってきて、蓮央を除いた同盟に透子を含めた四人を空き教室に呼び出した。


「お前らとりあえずお疲れ様だな」

「ホントですよー、うちなんてなんて二重スパイみたいなことさせられてもうくたくたー」

「私も疲れたー、でも菖蒲ちゃんがこれで元気になってくれるといいな」

「その件なんだが道元、お前源と仲良かったろ?住所教えるから様子見てきてくれ」

「勝手に生徒の住所教えていいんですか?」

「俺に常識を問うな、まともに考える能力があったら教師なんてしてないからな」

「………」

「ま、とりあえずそういう事だ。じゃ、解散」


 四郎はやっと肩の荷が下りたのか、軽い足取りで去っていった。残されたメンバーで菖蒲が元気になってから打ち上げでもしに行こうと口約束をし、長いようで短かった騒動に幕を閉じた。



 四郎に教えられた住所を頼りに、菖蒲の家に向かうと響の家から思っていたよりも遥かに近い距離に家があった。菖蒲の家は一軒家の二階建てで、少し大きめの庭が印象的だった。表札にはしっかりと『源』と彫られており、他人の家に行くことなど人生で数える程度しかない響は、緊張しながらチャイムを鳴らす。少し間が空いたあと『はい…?』と疑問と不安が入り交じった菖蒲の声が聞こえた。


「俺だけど、今いいか?」

「ど、道元さん?!なんで…というか家よく分かりましたね?」

「言われそうな気がするから先に言っておくがロリコンだから家が分かったとかじゃないからな」

「そんなこと知ってますよ、概ね先生が道元さんに教えたんですよね?」

「その通りだ」

「今玄関開けるのでちょっと待っててください」


 菖蒲を待つ間、改めて家を観察していると玄関でバタバタと音が聞こえてきた。気になったので玄関に耳を当てようとすると勢いよく扉が開いた。


「道元さんお待たせしました!あれ、道元さん?どこ行ったんですか?!おーい!!」

「……足元を見てくれ…」

「なんで玄関に這いつくばってるんですか?!……ロリコンなんじゃないですか?」

「全くもって違う…」


 洋太に顔面を殴られ、次は扉にビンタをされた響は地面に顔を擦り付けていた。自分が原因で響が倒れていることに気づいた菖蒲は、大慌てで保冷剤を持ってきて響の顔を冷やした。


「立てますか?」

「あぁ、もう大丈夫そうだ」

「良かったです…あ、とりあえず上がってください」

「別に玄関で済む話だからわざわざ上がらせなくてもいいぞ?」

「そう言わず入ってください」


 そう言うと菖蒲は響を引っ張り家に迎える。二階の部屋に通された響は何度も思考を巡らせ、菖蒲に問いかける。


「源さん」

「はい源さんですよ?」

「ここは?」

「私の部屋です」

「なぜに?」

「お友達をもてなすのは当たり前ですっ」

「なるほど…なのか」


 元々家に上がることは想定しておらず、家に上がることすら想定外なのに、上がった先が菖蒲の部屋だとは想定外の遥か彼方だった。


「そろそろお話と言うものを聞きましょうか」

「あぁ、そうだった。源さん、今は大丈夫なのか?」

「はい、先生から道元さん達が解決したと教えていただきました」

「俺は出汁にされただけであんまり活躍してないがな」

「いえ、解決に尽力してくれただけで私は嬉しいんです。公園で天乃さんが猫ちゃんを……見てしまった時とても怖かったんです。その後壊されている私の物を見た時、()を思い出してしまってとても不安でした」


 菖蒲は先程の態度とは一変して表情が曇っていた。響に心配をこれ以上かけないために、気丈に振舞っていたのであろう。


「源さん」

「………」

「…()()()()!!」

「!?今なんて…?」

「いや…『源さん』って呼び方長いと思って…」


 響は菖蒲に元気になってもらおうと喋りかける際、勢い余って下の名前で呼んでしまった。いきなりのことに菖蒲は顔を赤くしながらしどろもどろになっていたが、響も負けないぐらい赤面し、変な言い訳をしてしまっていた。


「……っん、あははっ」

「笑うなよ!!」

「なんですかその言い訳っ」

「言い訳じゃないし、笑うことでもないだろ?!」

「さっきまでセンチな気持ちだったのに、道元さんのせいで台無しです!」

「くぅっ……はぁ、でもちょっとでも源さんが元気になって良かったよ」

「………」

「源さん?」

「………」

「……菖蒲さん?」

「……もう一声…」

「あ、菖蒲…」

「はい!菖蒲さんです!何か用ですか?!」

「もしかして源さん呼びは禁止ですか?」

「禁止です!次源さんと呼んだら学校中の壁に『道元さんはロリコン』と言うチラシを貼りまくります!」

「それは止めていただきたい」


 響の『菖蒲』呼びにご満悦な菖蒲は、いじらしい顔で響にニヒルに笑いかける。このまま負けたままではいられないと響も抵抗を見せる。


「あ、菖蒲…は、俺の事は今まで通り()()()()呼びなのか?」

「……きさん」

「なんですって?」

「響さん!!今はまだ呼び捨てはお預けです!」


 菖蒲はそう言うとクッションを響に投げつける。程よく反発性があるクッションは拳と扉のダブルコンボを受けた響には大ダメージだった。

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