13話 囁き少女のクリティカルボイス
騒動に幕が閉じ、安寧な学校生活を再スタートさせた響は頭を悩ませていた。
「おはようございます!」
「今日も居たのか…」
「だから前も言ったじゃないですか!ご近所さんが一緒に登校…」
「一緒に登校するのは当たり前じゃないですかーだろ」
「さすが道…響さん、私が認めただけの事はありますね!」
「慣れないなら下の名前で呼ばなくてもいいんだぞ」
「いえ!これから慣れていくので!響さんも忘れてないですよね?」
「あ、菖蒲…さん?」
「『さん』はいらないです!」
「…菖蒲、行くなら早く行かなきゃ間に合わない」
菖蒲は慣れないながらも響のことを下の名前で呼び、響も菖蒲のことを呼び捨てにする。しかし、学校ではまだ苗字で呼び合うことにお互い納得した。
「そういえば本当に行くのか?」
「私のことを助けてくれた方たちとの打ち上げのことですよね?もちろん行かせてもらいます!お礼もしっかりしたいですし…」
「まぁ、みんな良い奴だと思うしそこまで気負わなくていいからな」
「ま、まぁ?響さんが?円滑に話を回してくれたらありがたいです」
「…尽力する」
菖蒲を救おう同盟with佑馬との打ち上げをすると話の流れで伝えた結果、菖蒲も自分の気持ちを直接伝えたいと参加を希望した。打ち上げは今日の放課後に行われるため、体育祭の準備を軽くした後にみんなでファミレスに行くことになった。
教室へ着くとソワソワしたクラスメイトが覚悟を決めた顔で響に話しかける。
「な、なぁちょっとツラ貸せよ」
響はまだ何か言いたいことでもあるのかと、菖蒲に聞かれないように教室の外へ移動した。
「で、要件はなんだ?」
「……すまんかった!!!笹倉の言葉を何の根拠もないのに信じて罵詈雑言吐いて!」
「お、おう。悪いのは笹倉と蓮央だし、何もそこまで謝ることも…」
「いや!暴言を吐いたのは俺自身だから謝らせてくれ!」
「もう済んだことだし、反省も伝わったからもう気にするな。後で購買でも奢ってくれたらチャラにするよ」
その後も一人目の謝罪を皮切りに、大勢のクラスメイトが謝りに来た。響は毎回『購買でも奢ってくれたら』と言ってしまったので、しばらくはお昼に困らないだろう。
一日はあっという間に過ぎ、体育祭の下準備は終わったので玄関でみんなが来るのを待った。
「あやっち!元気になった!?」
『お陰様で!!』
「ほんとに筆談なんだ!」
『声が小さいので!!有咲さんは声が大きくて羨ましいです!』
「うち声がうるさくて褒められたの初めてかも、あやっちは可愛いなー!」
菖蒲がみんなと打ち解けられるのかと、少し心配していたが見た目と声が静かなだけで、性格は明るい菖蒲には余計な心配だった。有咲に抱きつかれながら器用にノートに『くすぐったいです!』と書いていたが有咲は全く気づいていなかった。しばらくすると、佑馬と透子も到着し、鍵を返しに行っていた一華も来たので揃ってファミレスに向かった。
ファミレスに着きドリンクバーと軽い軽食を頼み、コップを掲げるとコツンと小気味良い音を奏でながら乾杯をした。菖蒲は響の隣に座り、長々とノートに文字を綴っていた。準備が完了したのか響の横腹をチョイチョイとつつく。
「えぇ、源さんから話があるそうだ」
『皆さん今回は私のために色々と動いていただいたようでありがとうございました!!私一人だけだったらとっくに心が折れていたと思います!皆さんの優しさのおかげで胸がいっぱいです!!おこがましいお願いかもしれませんが』
菖蒲はみんなへの感謝を綴った後、区切りの悪いところでノートのベージをめくる。そこには二ページに跨いで、デカデカとお願いが書かれていた。
『お友達になってくれませんか?』
菖蒲は恥ずかしいのかノートの裏に隠れ、みんなの反応をプルプルと待っている。響はみんなの顔を見ると微笑し、菖蒲のノートを取り上げる。
「ちょ、ちょっと返してください!」
「みんなの方見てみろよ」
「へぇ?」
そこには温かい目で菖蒲を見る顔が並んでいた。
「あやっちとうちら、もうズッ友じゃん!」
「右に同じくー」
「源さんと友達になれるなんて、響に唾つけておいて良かった良かった」
「菖蒲ちゃんと仲良くなれて嬉しいな!」
「だってよ?」
菖蒲は頬に伝う涙を拭いながら、ノートに書かれた『寄ってください!』という文字をみんなに見せると身を乗り出し、みんなの耳元で精一杯の声で言葉をひねり出す。
「ありがとうございます!」
今までは話しても伝わらなかった言葉が、安堵や信頼することができる友人が出来たことによるものなのかは知る由もないが、確かにみんなの耳には届いた。
「あやっち聞こえたよ!声めっちゃ可愛いじゃん!!」
「右に同じくー」
「役得だねぇ」
「今日は記念日にするべきだね!」
菖蒲はみんなの反応に目と鼻を赤くしながら笑っていた。響は菖蒲に友達が出来たことを自分のように嬉しく思っていると同時に、自分だけの特権が失われたようで侘しさを感じていた。すると横にいる菖蒲がノートで響と自分自身の顔を隠しながら囁く。
「一番落ち着くのは響さんの隣ですよ」
響は頭から煙を出しながら机に突っ伏した。




