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カゲヌシ  作者: ぽんこつ


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瞳がのぞいた先

挿絵(By みてみん)

目の前の慎哉は、組んだ両手の上に顎を乗せ、ニコッと笑った。

端正な顔立ちに不釣り合いな、子供のような無邪気な笑顔――。

けれどその不釣り合いさが逆に安心感を与えてくれる。

その笑みを見た途端、文菜の中で、スッと緊張がほどけた気がした。

「私に聞きたいことって……なんでしょうか?」

慎哉はふと瞳を細めて、まるで懐かしい思い出を話すように言葉を選び始めた。

「僕は山背日立やましろのひたて。36代目」

「……36代目?」

その響きに少し驚いて、眉が上がる。

慎哉は肩をすくめて、首を小さく傾げた。

「うん。父が三十五代目でね。陰陽師の家系……って言ったほうがわかりやすいかな。代々名前を継いできたんだ。歌舞伎役者みたいにさ。ただ一つ違うのは、男子が生まれた時点で、その名を継ぐ決まりがあること」

言葉の端に少し照れくさそうな笑みが混じる。

私は何かの映画で見たように、口元にそっと指を添えてみせた。

その仕草を慎哉が目を細めて見つめ、軽く頷いて、同じように指を添える。

思わず笑いそうになった。

「そうだね、基本的に僕の家は邪なものを封印したり、浄化したりするのが役目みたいなものでね」

慎哉は、フィクションの中の出来事が、当たり前のことのように淡々と語る。

「そんなの……実際にあるんですか?」

慎哉は、その問いに柔らかく笑う。

「もちろん」

その声はどこか寂しげで、同時に誇らしげでもあった。

「今の時代でも?」

慎哉はコクリと頷く。

「まあ、今の時代に関して言えば、そうそう大掛かりな封印を施すようなことはないけどね。ご先祖様が過去に封印した土地を巡回したり、あとは除霊みたいなことをする程度かな」

「……なんだか大変そうですね」

首をすくめて苦笑う。

陰陽師なる人物が目の前にいるという実感がありそうでなさそうで。

私は創造の中のことしか分からない。

連綿と受け継がれた家の伝統や習わし。

慎哉のどこか軽薄そうに見える仕草や物言いは、彼なりの背負うべきものに対する一種の緩衝なのかもしれない。

「最初は戸惑ったけど、慣れたよ」

今度は慎哉が苦笑する。

「陰陽師が本業なんですか?」

「仕事といいうより、使命に近いかな。本業は出版社だよ。たまにどっちが本業だか分からなくなるけどね」

また、慎哉は子供のように笑う。

「……さっき、諒くんの魂を見てましたけど、それも陰陽師の力なんですか?」

「言い伝えによると、そうみたいだね。血筋的なものがあるのかもしれない。ただ、この力に関しては個人差があるようで、父は魂を見る事しかできない。

僕に限って言えば、時にはその魂の中の記憶を呼び起こすこともある」

「それじゃあ、生まれつきその力を持ってたということですか?」

「そうだね。ただ、魂の記憶に触れるというのは危険でね、聡ちゃんには申し訳ない事をしたと思ってる……」

一瞬、慎哉のは顔を曇らせ、一文字に口を結んだ。

「……その魂の中の記憶っていうのを、呼び起こしたら別の人格になってしまうの?」

「いや、それは滅多にないと言っていい。ただ、あまりにその記憶、印が強くて、今の世に存在している人格がしっかりしていないと、その記憶に呑まれてしまうこともある。まあ普通に生活していて、そうそう起きないけどね」

「前世の記憶とは違うんですか?」

「基本的には同じと考えてもらっていい。ただその中でも印を持っている人は、前世の人格そのものも含まれている。性格形成にも影響することもあるみたいだね」

「性格にまで?」

「うん、全員がそうではないよ、もちろん」

「……慎哉さん、その魂がのぞけるって、具体的にどういことなんですか?」

「そうだね、その魂がどこから来たって言うと大袈裟だけど、分かり易く言えば、やっぱり前世ということ、その人がどんな人生を生き、どんな想いを抱いてきたのか――そんなものが魂には刻まれているんだ」

慎哉は、話してる時はじっと目を逸らさない。

鳶色の瞳がじっと見つめている。

何かを知ろうと探ろうとしているようにも見える。

その目を見据えたまま、私はゆっくりと背筋を伸ばし、少し顎を引いた。

「私の魂って見えるんですか?」

慎哉の眉が、ぴくっと動いた。

「……見てもいいのかい?」

その声は、とても優しくて、幼い子供に話し掛けているような声色だった。

「……はい」

視線は逸らさずに小さく頷いた。

きっと、たぶん慎哉が望んでいる事だと思った。

そして私も知りたかった。

「じゃあ、失礼するよ」

慎哉は姿勢を崩さず、私をじっと見つめ続ける。

その瞳が大きくなったような気がした、でも、それは私を見ているようで――どこか、焦点が宙を彷徨っている。

まるで、目の奥の奥で、別の空間を覗いているみたいに。

その視線が一瞬、生気を失ったように感じて、背筋がぞくりとした。

「……うん、君は当麻言福たいまのときふくの印を持っている……」

慎哉の視線が、一瞬逸れた。

「ん?どうしたの?」

私は慎哉の目を覗き込むように身を乗り出した。

「あ、いや、聡ちゃんと同じ感じかな……」

初めて言葉が濁り、慎哉の瞳がチラチラと揺れて揺れて、落ち着きなく宙を漂う。

今しがたまでの鷹揚さはどこへやら、まるでいたずらが見つかった子供のようにソワソワしている。

誤魔化せないんだ。

正直な人。

「……あの、ほかにもなにかあるんですか?」

私はそっと声をかける。

「ん?」

慎哉は小首をかしげる。その動きが愛嬌があって、目尻が緩む。

「何かあるなら……教えて欲しい……」

笑みを湛えたまま、ゆっくりと言い聞かせるように言葉を投げかける。

「……僕も確実じゃないから、飽くまでも仮にという前提での話になるけど」

慎哉の声は少しだけ低くなる。言葉の先を探すように、視線が斜め下へ泳いだ。

「それでもいい」

私は真剣に、息を詰めて、慎哉の顔を見つめた。

「……君の中に、影のような印が見える。空洞というか、穴が開いているというか……それが何なのか、僕にも分からないんだ」

慎哉の瞳が一瞬、弱々しく揺れる。

声も少しだけかすれて、言葉が詰まる。

「そう……」

私は自然と唇を結んだ。慎哉は言い淀んだけど、それが言いにくい事なのか、本当に分からないのか――

影のような印……空洞ってなんだろう?

その言葉の響きが確かに残り、記憶に刻む。

その問いの余韻を胸に抱えたまま、私は慎哉の瞳を見据えた。

「ああ、でも気にしなくていいと思うよ」

慎哉はふっと微笑み、柔らかな声で続けた。

「君の魂はとても清らかで、しっかりとした芯がある。それはね、当麻のご先祖様の印、もしくは血が君の中にしっかりと受け継がれているからかもしれないね」

陽だまりのような笑顔が戻ってきた。

だけど、「空洞」という言葉は、まだその場にそっと横たわったまま。

そんな空気を和らげるように目の前の慎哉は、にかっと白い歯を見せた。

「……言福さん。人柱になったご先祖様だよね」

「そうだな……芯の強い人だった。自分が正しいと感じたことは決して曲げなかったし、信念を貫いた人物だよ。百々楚姫も同じだったけど、その怨念を鎮めるために、自らの魂を捧げたんだ」

百々楚姫という名前――

どこかで聞いたような気がしてたけど、恩師の畑先生が調査していた、あの人物のことだろうか。

「あの……百々楚姫っていうのはどんな人だったのかな、それと当麻言福さんは、どのような人物だったの?」

慎哉はうんうんと頷き、顔の横に人差し指を立てて宙を見た。

「じゃあまずは、百々楚姫のことから。先月のことなんだけど夢を見てね……」

慎哉の声は、どこか柔らかく遠い響きに変わった。

その瞳は少し細められ、何かを思い出すように微かに揺れていた。

その夢の中で、慎哉は神奈備百々楚姫の存在を知ったのだという。

それは初代、山背日立の記憶の残滓――。

慎哉は指先を組み、テーブルの上で小さく動かした。

「断片的な記憶を繋ぎ合わせると、百々楚姫は巫女の一族の末裔でね。都での災難から逃れて、夕凪島へ落ち延びた高貴な家の姫だったそうだ。自ら望んで人柱になったことも、そこに映っていた」

慎哉の声はどこか優しげで、同情と敬意が入り混じっていた。

彼女の願いを叶えるために、この島を訪れたのだと――。

「でもね……」

小さく息を吐くと、慎哉は軽く笑う。

「家に伝わる古文書や資料にも、百々楚姫の名前は一切残っていないんだ。いろんな伝を当たってみたけど、結局は徒労に終わっちゃってね」

その表情が少し寂しげに曇った。

「古代の巫女は、神様と交信して人々にお告げをしていたようなんだ。それは血筋によって何代にも続き、時の権力者や名家の妃に引っ張りだこだったようなんだ」

ちょっとだけ、祖母と高太朗のことが思い浮かんだ。

家の事情で結ばれなかった二人。

いつの時代も、誰かの都合や意志でいくつもの悲恋があったのだと思うと、胸の奥がきゅっと痛くなった。

けれど、それでも――そうした悲しみの中で、きっと誰かが誰かを想い続けていたのだろう。

どんな理不尽な運命にあっても、ただひたむきに大切な人を守ろうとした人がいたのだと思うと、その想いだけは決して絶やしてはいけない気がした。

「その力が、魅力だったってことなんだよね?」

慎哉は小さく頷く。そして組んだ両手に顎を乗せた。

「聖徳太子。知ってるでしょ?」

「はい」

「その娘なんだ。百々楚姫は」

「え?」

「じゃあ、聡さんは聖徳太子の末裔……でもある訳ですね」

「そこはちょっとはっきりしないんだ。一族ではあるんだろうけどね。上名部の姓を辿ると神奈備に繋がるんだ。でも資料には百々楚姫の名前すら残ってなくて……結局、僕が知っているのは夢の中で見たことだけなんだ」

慎哉は、文字通りのお手上げのポーズで首を傾げた。

「そうなんですね……」

そっと頷きながら思った。

たとえ夢の中で見たことでも、慎哉がそう話すのなら信じたい。

彼は嘘をつかない。

だからこそ、少し戸惑いながらも、言葉をそのまま受け止めようと思った。

きっとその曖昧さの中に、私たちが探している真実が隠れている。

そんな気がして、そっと胸元に手を置いた。

慎哉は一呼吸おいて、表情を引き締めた。

「次は当麻言福、僕の家に伝わる話と、今見せて貰った記憶。さっきの資料と突き合わせると、当麻氏はもともと朝廷の祭祀を司る家だった。でもどうやら彼、言福は武人であったみたいだね」

「武士ってこと?」

「端的に言えばね、まだ武士という言葉や概念なかった時代なんだ。将軍という立場で朝廷に反乱を起こした豪族や賊徒の討伐に当たって功を成した人物だったようだね」

その説明を聞きながら、胸の奥にひっかかる疑問があった。

「でも……羽代氏の天皇家簒奪の企みを密告したって、資料にあったけどそれは事実なのかな?だってそんな因果があるのに、怨霊封じの人柱になるって、ちょっと不自然な気がする」

「そうだね、言福は時の当麻一族の総領だった。だが実際に密告をした人物は別の人間だね。我が一族も嵌められたと言っている――詳細までは分からない。ともかく同じ渡来の一族だった羽代氏の怨霊を鎮める為、自ら名乗り出たそうだ」

「自ら………名乗り出たんだ」

慎哉の言葉を反芻するように口の中で繰り返した。

その運命を引き受ける覚悟――。

もしそれが事実なら、どれほどの決意を持って言福はその役目を担ったのだろう。

この世に未練はなかったのだろうか。

悲しみはなかったのだろうか。

「……そうしたら、私にも、記憶に呑まれる……それは起こりえるんですか?」

芽生えた少しばかりの不安を口する。

慎哉は少し黙って、眉根を寄せた。

「んー断言は出来ないよ、可能性はゼロではない……ただ、もし百々楚姫のような強い怨念を抱えているなら、そういうこともあるかもしれない……でも、大丈夫、聞こえた」

「聞こえた?」

慎哉はしっかりと頷き、組んでいた手をゆっくり解いて背筋を伸ばした。

「我が一族の末裔よ……幸せに現世うつしよを生きられたし、我、加護仕かご つかまつらんってね」

その言葉を慎重に口にする慎哉の瞳は、ほんのり潤んで見えた。

「それって……ご先祖様。言福さんが言ったの?」

私は信じたい気持ちを抑えきれずに声を上ずらせた。

慎哉は一瞬微笑み、そして真剣な顔でコクリと頷いた。

ご先祖様からのメッセージに、驚きと安堵と戸惑いが交錯する。

でも、心の中で、ありがとうと呟いた。

ニコッと笑う慎哉の瞳から、今度は私が視線を逸らす。

確かめたいことがあった。

大きく息を吸い込み、呼吸を整える。慎哉の真剣さに負けないように、覚悟を決めた。

「……えーと、諒くんの魂が、事故で変わったっていうのは、どういうことですか?」

声が少し震えたのが自分でもわかる。

「んー、言っていいのかな……」

慎哉は中指で額をポンポンと叩いている。

ちょっと迷っている様子が可笑しくて、だけどその目は、真剣で優しかった。

「お願いします……」

思わず身を乗り出して頼み込むように頭を下げた。

ふうっと息を吐いてから、慎哉は少し肩を落としながら話し始めた。

「……事故の衝撃か何かで、元々の魂が眠った。そこに別の魂が彼に入った。さっきも話したけど、ごく稀に魂が入れ替わる事例はあるんだ。ただ、彼の場合は元の魂が完全に消えたわけじゃなくて、今も眠って残ってるんだ。その眠ってる魂は、僕が覗いてもはっきりとは見えなくてね。でも、さっき話したみたいに、彼の先祖である羽代の魂ではあるように思う。そして事故で入り込んだ魂は――君と縁のあった人のものだと思うよ」

言葉の最後に見せた優しい笑顔。

でもそれ以上に、私はどうしても気になることがあった。

「……もし、その眠ってる魂が目覚めたらどうなるんですか?」

恐怖と不安がせめぎ合い、声がか細くなる。

「例えば、聡ちゃんに起こった事象を考えると、その人格に乗っ取られる、という事かな」

想定通りの答えにギュッと胸が苦しい。

考えたくもない。

「……諒くんであって、諒くんじゃなくなる……」

零れ落ちた言葉に、ゾッとした。

「……そうだね、つまりはそういうこと」

慎哉は静かに、でもはっきりと頷いた。

「慎哉さんの力で、諒くんの眠っている魂を目覚めさせないようにできないんですか? あるいは……封印するようなことは……」

焦りで声が早口になるのを自分でも感じた。必死だった。

慎哉は、目を伏せ、少しの間黙っていた。

それからゆっくりと首を振った。

「どうして……?」

責めるような口調になって唇を嚙んで俯いた。

「……それがどういう作用を起こすか分からない。もしかしたら彼自身の魂に影響しかねない。理由は、魂を二つ持っているという状況が特例で、少なくとも僕は知らない」

小さく吐息が漏れた。

どうしても諦めきれない願いが、確かに残っている。

「その……事故で魂が変わるみたいなことって、誰にでもそういう事が起こるの?」

「いや、それはないと思う。たぶん、運命的な物か使命か、そうそう起こる事じゃない」

「……そうなんだ」

「分からないからこそ、その眠っている魂が絶対目覚めたりすることがあるって断言も出来ないでしょ?仮に目覚めたとしても、何も起こらないかもしれないよ」

慎哉は私の目を真っ直ぐに見つめ、静かに言葉を続けた。その声には私に対する配慮が垣間見える気がした。

「そう……ですね……」

私は視線を落とし、膝の上でそっと両手を握りしめた。

「ふーん、どうやったら、彼を助けられるかを知りたいんだね」

慎哉はいたずらっぽく口元を上げた。

とっさに両手を胸に当てた。

見透かされた。

そう感じて、肩から力が抜けていく。

この人は、心の中が見えるんだった。

「……ああ、本当に心の中、見えるんだ……参っちゃうな」

慎哉は、少しだけ申し訳なさそうに笑った。

私は瞼を閉じて、大きく息を吸う。

そして、ゆっくり目を開ける。

一縷の望みに縋るように口を開いた。

「……それで、万が一……その魂がおかしくなったとき、諒くんを助ける方法ってあるんですか?」

私の問いかけに、慎哉は真っ直ぐ見つめ返してきた。

ほんの僅か見つめ合った後、慎哉は息を吸いながら視線を上げた。

「……これは、ある人から聞いたんだけど、この世のすべては振動しているんだって」

そう言って、軽く身震いをしている。自ら振動を表現しているのだろう。

そんな慎哉の仕草に笑みが零れたけれど、逆に大切な話の前触れのようで、自然と慎哉の口元に視線が吸い寄せられる。

「振動……原子ってこと?」

私は少し首を傾げた。

「うん、すごいな君は。例えば、生物の細胞もそうだし、良く馬が合うっていうのも、原子レベルでの波長や周波数が同じ、もしくは近いという事らしいんだ」

慎哉は少し前のめりになって、身振りを交えて話してくれる。

「……共鳴、共感」

「その通り。物でも、一目惚れして買っちゃうことがあるでしょ?その物と自分が共鳴したってことなんだ」

慎哉の声はどこか楽しそうで、少し柔らかい光を帯びている気がした。

「じゃあ……もし魂が共鳴したなら、助けられるかもしれない?」

口にした言葉が、霧の海の向こうに、小さな灯台の光がぼんやり見えたような気がした。

慎哉は、一瞬目を伏せたあと、真剣な表情で私を見た。

「飽くまで可能性だけどね。ただ……代償が伴う」

少し苦しそうに眉を寄せる。

「ああ、聡さんのように……乗っ取られる。記憶が失われて、その人じゃなくなってしまう……」

「明察だね……最悪、死ぬことだってあり得る。少なくとも僕や父さんは知らないし、前例も聞いたことがない。手段さえ分からない。だから変な事考えちゃだめだよ。カゲヌシさえ突き止めれば、いくらでも対処できると思うし、ほとんど仮定の話だからね」

慎哉は、どこか不器用に微笑んだ。

きっと私が何を思ったのか慎哉は分かっていて、希望を見せてくれているんだと思う。

「……ありがとう」

声を少し震わせて、目を伏せた。

「ほんとに、だよ。君の“彼”への想いは――切ないほど、はっきり見える。これは……純粋な“愛”なんだ。僕には到底わからないような……だからこそ、変なことは、絶対に考えちゃダメだ」

慎哉の瞳と言葉は真っ直ぐで、光を放っているようで、その熱が心に届いた。

「……はい」

でも、言葉にされると、少し恥ずかしくなって俯いた。

諒のために、私も何かしたい。

できることなら、助けてあげたい。

会話の中で大きくなっていた私の想いであり、願い。

でも――この慎哉という人。

軽い物言いとは裏腹に、本質にある確かな優しさがある。

根底にある優しさが、かえって慎哉自身を苦しめているのかもしれない。

人知れず備わった法外の力と向き合うために。

だから道化のような人間を演じているのだろうと思う。

「でも……そんなに気軽に覗かないでね」

少し冗談めかして、両手を胸の前で軽く抱えるようにしてみせた。

「気をつけるよ」

慎哉は少しだけ肩をすくめて、困ったように笑う。

でも、次の言葉は、まっすぐで力強かった。

「そして分かったよ――僕もできる限り、力になる。彼のために」

「あー、また見た」

覗かれるのは恥ずかしい。

けど、心を見られても、傷つけるようなことは言わない人――そう思えて、少しだけ、安心している自分がいて、可笑しかった。

「……ごめん。勝手に、また覗いちゃってた」

目をそらしながら、慎哉はふっと苦笑する。

「こういう家に生まれた宿命、って言えば聞こえはいいけど。ほんとは、ちゃんと“線”を引くべきなんだろうね」

一拍置いて、慎哉は私をまっすぐ見た。その瞳に、一瞬の陰が差した気がした。

そうだよね、苦しいよね。

なまじ分かってしまう、知ってしまうって。

「でも……それでも、君を助けたいって思った。だから――もし嫌だったら、本気で止めてくれ」

慎哉の声は、真摯で、まるで祈るようだった。

本心だと思った。

茶化すような子供じみた表情は消え、そこには陰陽師の末裔たる。36代山背日立がいた。

「ううん、慎哉さん、ほんとに、ほんとに、ありがとう」

胸が熱くなって、深々と頭を下げた。

顔を上げると、嬉しそうに、少し恥ずかしそうに頬を掻く慎哉がいた。

諒のために、自分に何ができるかなんて、まだ分からない。

私も――きっと、力になりたい。

諒の心に、少しでも光を灯せるように。

その背負っているものを、少しでも軽くできるように。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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