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四方総界縁起  作者: くろよ よのすけ
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07.襲来、蒼穹の女主人②

「そういえばどうして二人ともあんなにも急いで帰ってきてたの? スッゴク切羽詰まってた感じだったけど。びっくりしちゃった」

「………げほっ」

「…………そ、それはですね。その、そのぉお…?」

 食事も終わりに差し込む中、皆方が思い出して欲しくない記憶を掘り出した。土被り数センチ、掘り返すともいえない記憶は、手で払うだけでピカピカの鮮明さ。

 他人を誤魔化すということが特に苦手なシエというと、おかしな語尾の上がり方を披露すながら、目線はあらぬ方向へ。

 あの後のゴタゴタで記憶ごと流されちまえばよかったのに随分と記憶力のいいことで困る。主に俺が。


 情けなくもオロオロと狼狽える俺たちを横目に「ふっ」、と息をつくと喋り出すリア。

「うん? ああワタシと出会った時のことだね。アレはね彩音、ワタシが来ることを伝えていなかったんだよ」

「確かに二人ともすごくびっくりはしてましたけど。でもやけに私をかばおうとしてたような…?」

「ぐ……」

「ぅ……」

「ハハハ、そう言ってあげないでほしい。実はこの家には防犯装置がつけられているんだ。自分たちがいない間に誰かが侵入したら知らせてくれるのさ。で、一人だけなら彩音が来たと思うが、それが二人だったからね。強盗でも来たと思ったんだろう」

「あー……、ああ、まあ、そういう事だから。うん、連絡しないコイツが悪い」

「リ、リア様と、ヨナギ様のおっしゃる通りですハィ」

 そうか、そういえばよかったのか。

 襲撃者が来ていたのもあって、どう誤魔化すかばっかり考えていたが普通に考えて見るべきだった。


「へぇ、やっぱりいいマンションだとそういうのもついてるんですねぇ。二人ともありがと、心配してくれて嬉しいな。でも、そういうことなら早く言ってくれればよかったのに」

「あぁいやそんなに言うようなことでもないだろ? そういう事だから」

「ヨナぁ、なにを照れているのー? 可愛い女の子を救おうと努力したんだからお礼は受けておかないと」

「か、可愛いだなんてそそそそんなっ!?」

 リアはなぜか皆方の手を取りながら目を合わせて喋っている。

(…アイツ顔は良いからなぁ……。慣れてない相手によくやるよ。ホント)

「ううん彩音。君はとっても可愛いよ、これから成長すればもっと美しくもなるだろうね。ワタシが確約してもいい。だからそう下手に否定しないで。……自信をもって接すればヨナなんてイチコロで君の魅力の虜さ」

「———~~~っ!」

「ふふっ」

「?」

 最後の方はよく聞き取れなかったが、何か耳打ちをした途端に皆方の顔が赤くなって頭からは湯気が出ている。

「おい、また変なこと言ったんじゃないだろうなオマエ」

「当たり前の、周知の事実を伝えただけだよ。決しておかしなことは口にしていない」

「はいその通りです。確かにアヤネはかわい———」

「ちょちょちょっと待ってシエ! それ聞こえてる、聞こえてるから!!」

「むぐぐ——っ、……ぷはっ。なぜ口を押えるのですアヤネ。私はただ事実を伝えようと……」

「うぐ…っ、そんな捨てられた子猫みたいな顔してもダメ。今のはダメ。特に夜凪くんの前で言っちゃダメ!」

「おいテメェ皆方に何を吹き込みやがった!?」

「だからありのままの真実だよ。シエも同意していたんだからおかしなことじゃないでしょ?」

「シエをウソ発見器みたいに使うのおかしくないか? …いや間違っても無いけど。じゃなくて——」

「ハイっ! ここまで! この話はしゅーりょーぉ! これ以上はダメだからね! これ以上は私怒るからね!?」

 そこまで進んで皆方からの強制終了が告げられる。顔は真っ赤でゆで上げられたタコにしか見えん。


 ようやく落ち着き、仕切り直しとシエがお茶を淹れてくれる。全員でそれをすすりながら食後のティータイムと相成った。

 しかし俺としても何となく納得いかないもので、疑問は残る。

「ったく、何をそこまで———」

「ふふ……っ、良いじゃない、乙女の秘密というやつで。ヨナも男の子なんだからその思いを掬ってあげないと、まぁまだ早いかもだけれど?」

「良い話した最後の最後に挑発かましてくんじゃねえ。……はぁ、分かった。この話はここで終いだ」

「ふぅ…、はぁ……、うん、ありがと夜凪くん、お礼に明日も来るねっ。あ…っ、その……みんなが良ければ、だけど……」

 みんなとは言ってるが、実質の所リアだろう。

 一応、俺たち二人の保護者という立場だし、正確な年齢はともかく年長者であることに違いはない。まっとうな人間性を持った皆方としては気を遣うところらしい。


だが——。

「ん? もちろん構わないよ?」

「えっ、本当ですか? リアさんからしたら久しぶりに会う二人と一緒に居られる方がいいんじゃ……」

「久しぶりに会うといっても二人のことはよく知っているし、彩音のような可愛い子が来てくれるなら大歓迎さ。それに、ずっと三人というのも変化がなくて寂しいし」

「は、はぁ……」

 なんだかリアの空気に呑まれ始めた皆方は生返事、言っていることは理解できるけど本当にいいのかな? といったところ。

 疑おうにも嘘なんてついてません。というかその辺何考えてるか分からないから厄介なのだ。このリアという女主人は。


「それに、今日作ってくれた料理もおいしかったしね」

「アハハ……、とはいっても今日の料理は殆どシエが作ってくれたんですけどね」

「…スミマセン、アヤネ。一緒に作ると言っていたのに私一人で空回りを……」

「ううん、いいの。今日の御飯、すっごく美味しかったもん。私が手伝ってたらこんなにおいしくはならなかっただろうしね」

「アヤネ……」

「もう、そんな顔しないでってば。だからまた明日から教えてね、シエせんせっ」

「せ、先生……! そ、その通りです。私が教えるという立場である以上、確かに先生。……分かりましたアヤネ。シエ・ジンリィ、リア様とヨナギ様の従者としての誇りを掛けてアヤネにすべてを伝えきれるよう———」

「気合入れすぎだろ、もっと普通に教えてやれよ。先生とかじゃなくて友達だろ、お前たちさ」

「あぅ」

 熱暴走を始めたシエの頭を軽くつつくと、珍妙な声と共に熱が放出される。熱しやすく冷めやすいとはこのことか。


「ま、シエも明日には落ち着いてるだろうから置いといて、だ。コイツの発言を真に受けるなよ。数秒後にはひっくり返ってるような女だ」 

 皆方とまではいかないまでも頭から湯気を上げるシエを落ち着かせ、もう一人。一番の問題児へと目を向ける。

「ふっ、まさかまさか。そんなに私に信用はないかな? 悲しいなぁヨナ、昔は一緒にお風呂に入った仲なのに。あの頃のヨナは素直で可愛かった……」

「ふぇ———!? オフロ!? 一緒に!?」

「ええ、懐かしいですね。私もよく洗っていただき———」

「あ———」

 話題を振った瞬間に殺意のこもった一撃を放ってきやがった。しかもシエが乗ってきたからもうどうしようもない。

 嘘をつけないシエが口にした時点でこの話は事実だ。


「………」

「よーなーぎーくんっ、どうしてこっちを見てくれないのかなー?」

 迫る声、ゆっくりと膨れ上がる怒気。

 なんで俺が怒られなきゃならないんだよ。だが、女相手にそんな言葉が聞くわけもないことはリアの相手で重々承知。

 つまり、俺の取れる行動は逃げの一手で……。

「……偶然にも壁を見たい気分なんだよ」

「へぇ~、そっかぁ、珍しい気分だね~?」

「……っていうか、別におかしなことじゃないだろ。ガキの頃の話だし、もはや時効みたいなもんだ」

「むぅ。で、でもシエのこと洗ってあげてたって!」

「ぐっ……。それだってガキの頃の話だ、一人で入れると風呂場でコケるやら、ずっと浸かってたかと思ったらのぼせて沈んでたりとかな」

「ヨナギ様……、そう言われては恥ずかしく……」

 うるせぇ、ここまで来たらお前も道連れだ。

 さっきとは別の理由で顔を赤くするシエを流しつつ理由、もとい弁明を続ける。

「同じ女のコイツが入れてやればいいのになぜか俺に任せっきりだしな。おかしなことしたわけじゃないんだから無罪だ無罪、冤罪だ」

「そ、そう言われちゃうと私も強く言えない……。というかシエって子供の頃から、なんというか、その……」

「アヤネも、それ以上は……。いえ…私自身の拭えない過去ではあるのですが……。そう口に出されては……そ、そのぉ…」

 恥ずかしさからか顔は真っ赤で涙が滲み、制止しようと伸ばした手はプルプルと震えていた。


「あ、あーうん! 大丈夫、大丈夫だから、これ以上は何も言わないから! ね、だから落ち着いて、ね!? ほ、ほらっ、夜凪くんも謝って!」

「シエ、悪かった、ちょっと言いすぎた。だからほら、お茶でも飲んで一息ついてくれ」

「はい…、申し訳ありません……」

「いやぁ、仲いいことは美しいことだねぇ」

「お前の発言のせいだろうが!?」

 震えるシエ、介抱する皆方。

 文句を言う俺と、どこ吹く風といった様子のリア。

 皆方の料理教室だったはずの夜は喧しくも賑やかに、その一日を終わろうとしていた。


「ありがと、送ってくれて」

「いいさ。手も空いてたしな」

 ごたごたしてる間に夜も更けてしまった。感知用の結界しかない帰り道に皆方を一人にしてしまうのも危ないから、俺が送り届けることとなった。

 家の敷地内であれば、シエの助力のおかげで以前よりも質の上がった罠が仕掛けられている。

 以前侵入してきた奴程度の実力なら問題なく撃退できる。まったくもって、自分の力の無さが恨めしい。


「それじゃあまた明日。そうだ、宿題持っていくから一緒にやろうよ」

「ああ、そりゃいい。俺の考える手間が省ける」

「もう、そんなこと言ってたら万年ブービー賞だよ?」

「…そこまでは酷くねえ。そこまでは」

「もう、仕方ないから教えて差し上げましょう。却下は禁止」

「きゃ…、………」

 先手を打たれてしまったから言葉が詰まって出てこない。

「ふふっ、それじゃあそういう事で。観念してお勉強することっ。じゃねっ、今日はありがと!」

「ああ」

 手を振りながら家の中に入っていく皆方を見送り、俺も帰路に着く。



 夏の夜、生ぬるい風が肌を舐めとっていく中で考えることはあの女。俺とシエの主人でもあるリアのこと。

(しっかし、アイツまでココに来るって何考えてるんだ? 本末転倒も甚だしい……)

 俺が一人でここに来させておいて、それ自体を否定するかのような言動には頭が付いて行かない。そもそも、彼女本人がやってくるということはあってはならなかったことだ。

 ラゥルトナー家の象徴、ただ一人残された血族の象徴が途絶えることなど決してあってはならないというのに。

「聞いても答えないだろうな……ったく、ふざけてる」

 あの女のことだ、理由を問いただそうとしてものらりくらりと躱されて、最終的にはあっちのペースに呑み込まれている。

 だが、今回ばかりは聞きださなければ意味がない。これまでの俺の努力自体が無に帰す可能性も大いにある。


(……今日のこと自体、ヤバかったのかもな…)

 今になって考えると、リアと皆方の接触は危険なことだったのかもしれない。

 アイツが気まぐれに皆方に“真実”を語った時、何が起こるのかは俺にも分らない。それこそ——。

「いや、流石にそこまで馬鹿じゃない。…様子見、だな」


「おかえりなさいませ、ヨナギ様」

「ん、ああ、……ただいま」

 シエの出迎えの言葉によって、いつの間にかドアを開く自分を自覚する。考えているうちに目の前の景色はぼやけていて、認識すらしていなかった。

 彼女は玄関で膝をついていた。まさか俺が帰ってくるのを見計らって待ってたのか?

「汗をかかれたでしょう、日が落ちたとはいえ気温は依然高いままですから。お風呂の準備は済ませておりますのでどうぞお入りください」

「まさか、ずっとここで待ってたのか?」

「いえ、ヨナギ様がアヤネを送りに出た後は食器を片付け、リア様を入浴させておりました。待っていたのはその後になります」

「…そうか、ありがとう。でも別に、待ってくれてなくていいんだぞ? お前だってリアの相手は疲れるだろ。それに、もっと一人の時間を満喫してもいいんだ」

 シエは他者に、特に俺とリアに対して無償で働きたがる。

 尽くしたがりといえばいいのか、自分の事よりも俺たちを優先しようとするのだ。

「気真面目過ぎるシエらしいけど、それでも自分の為に時間を使ってくれた方が俺も、安心するんだけどな」

「そ、そのようなお言葉、私のようなものには恐れ多いですっ。リア様とヨナギ様に尽くすことこそ私の本懐、お二人の幸せこそ私の幸福なのです」

「…………、……そうか、分かった。とりあえずはそういう事にしとく」

 決して揺るがぬ不動の忠誠。

 彼女のそう言った心は嬉しい反面、危うさを感じてしまって心配にもなる。

(けど、本人が口にしてる以上はとやかくいうのも野暮、か……)


『夜凪くんはシエに甘い』

 そんな言葉を思い出すが、あぁ確かに。そうかもしれない。

「ヨナギ様? どうされましたか? 御風呂に入られる前に休憩されますか?」

「その前にリアに話を聞きたい。何考えてるのか分からないが、いや分からないからこそ聞いておかないと。これから先の信頼にもかかわる」

 靴を脱いでリアがいるであろうリビングに向かおうとすると、シエが気まずそうに声を上げた。

「あ、あの、ですね……。リア様、なのですが……」

「…まさかアイツ、いなくなったのか———?!」

 確かめる為に室内を駆ける。騒音なんてものを気にしてはいられない、今はアイツがどこに行ったのかを——。


「………ぅ、ん…。ヨナ、ぁ……んん……、すー」

「…入浴された後すぐにお眠りになられ、……その、気持ちよさそうでしたので起こすわけにもいかず……」

「……………コイツ、一回本気で殴ろうかな」

 リビングに入った俺を待っていたのは、ソファで横になり、クッションを抱きしめながらぐっすり眠るリア。

 その表情はシエの言う通り満足気で気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立てている。

「……はぁ、俺は何でこんな奴の口車に乗っちまったんだ……」

 過去の俺自身を恨みつつ脱力してしまって、握りこぶしもどっかにいった。

「もういいや…、俺も風呂入る。どうせ聞いても答えないだろうしな……」

 今日になって呆れてばかりのような気がするが、考えること自体面倒になってきた。コイツ、俺がこっちに来る前よりヒドクなってるのは間違いない。

 そしてその原因の片棒を担っているのがシエであるのは間違いない。

 またシエにも俺がいない間、どう生活していたのかを聞く必要があるな。


「分かりました。では、今日の所は私の部屋にお運びいたします。部屋はあと一つ空いていますがベッドがありませんので。明日にでももう一つ用意しなければなりませんね」

「ん、じゃあお前リアと一緒に寝るのか?」

「まままさかその様な恐れ多いことはできませんっ。私のような下等な従者はソファで、いえ床でさえ十分な———」

「アホウ」

「ひゃぅっ」

 片手で頭を掴んで軽くゆする。少なくとも俺たちに抵抗する気が皆無なのか面白いほどに無抵抗だ。ただ為すがままにされている。

「シエ、お前がそこまで卑屈になる必要はないんだ。それこそ、お前の努力は俺なんかよりもずっと認められて当然だし、そこで寝てるバカにとっても必要不可欠なんだ。

 だから、自分はこの程度でいいだなんて言うな。望みがあるなら———」

「ヨナギ様」

「………どうした?」


 真っすぐこっちに向けられた表情に曇りはない。静かに、されど満たされたように。

「ありがとうございます。そう言っていただくことこそ、私にとっては何にも代えがたい賛辞であり、報酬なのです。先ほど口にしたとおり、お二人に尽くすことこそが幸福なのです。

もしも、ヨナギ様が言うように私が望むことがあるのならそれはお二人の幸福。そしてもう一つ、新たに望むことは、アヤネにも笑顔でいてほしい。本当に、それだけなのです」


 曇りもくすみも一切ない、透明にさえ感じるほどの純粋な言葉。

 幼い頃から変わらぬその姿、全身全霊をもって今の道を歩み続ける姿を見せつけられてしまえば、俺にはもう何も言えない。

「……そうか、そうだよな。すまなかったシエ、俺はお前に対して馬鹿なことを言った。許してほしい」

 頭に置いた手をどけると、頭を下げて謝罪する。これは彼女の誇りを理解しきれなかった俺の落ち度だ。

「そんないけませんヨナギ様っ、私などに頭を下げるなどおやめください。頭を上げ……えぇっと、どどどどうすれば……っ」

 彼女は俺に“許しを与える”、などということができるだなんて思っていない。

 だからこの謝罪自体も俺の自分勝手な行動だ。けど、これをしておかないと自分の中で区切りを付けられなかった。

 どうすればいいか分からず、俺の頭の位置よりも下からのぞき込んで、頭を上げてほしいと懇願するシエ。

その困り顔を見て反省、頭を上げる。俺だってシエを困らせたいわけでもないんだ。


「ヨナギ様ぁ、もう私などの為に頭を下げることはおやめください。その……、本当にどうしていいのか分からないのです…」

「あぁ、困らせて悪かったよ。ただ、これからも力を貸してもらうことになるから、その時は頼む。…これだけはちゃんと言っておきたかった。」

「———、ハイッ! ヨナギ様のお力になるためならばこの身を犠牲にしようとも惜しくはありませんっ!!」

「はは、そこは惜しくあってほしいところだけど……。それはその内、か。

それじゃ困らせた詫びに、俺もコイツを運ぶとするか。ったく、ぐっすり寝やがって…、よっ、と」

ソファに寝かせといたままでいいと思うが、それはきっとシエが嫌がるだろうから仕方ない。

「あ、あのヨナギ様? そちらはヨナギ様のお部屋で——」

「コイツは汚い方のベッドで十分、お前は綺麗な自分のベッドで寝ればいい。俺はソファで寝るからいいんだよ。こっちの方が俺のベッドよりも綺麗なまであるしな」

「そ、その様な真似はさせられませ——」

「じゃあ命令ってことで。シエは自分のベッドで寝ること。そもそもさ、家事全般してくれてる相手の体調崩すような真似させたくない」

「そのように言われてしまっては…、う、ぅぅぅ……」

「そういうことでな、まあ今日だけってことで頼むよ。明日すぐに布団なり準備すればいいだけだ。じゃあ俺は風呂入るから」

「そ、そういうこと、でしたら……。はい、はい……むむむ、これは良いのでしょうか…?」


 一人悩みにふけるシエを置き去りに風呂へ向かう。

 多分シエは俺たちに気を使って最後に入ろうとするだろうから、さっさと入ってしまって交代しよう。

シエがガキの頃は湯船に浸けて放っておくと、それこそずっと入ってたしな。

(いや、アレは意味が違うか)

 何はともあれ、さっさとシャワーだけ浴びて出よう。夏休みに入ったおかげで考える時間はある。夜は嫌いだからさっさと寝ちまいたいところもあるが、これについては我慢するしかない。

(侵入者も俺が戦った奴以降は何の反応も無い。やっぱりナイギの連中は自由に出入りできるのか? それともあの女が能力の制限関係無しに弱かったか———)


「ヨナギ様、シャワーだけで済ますのではなくキチンと浴槽に浸からなければ———」

「っ!? ………なんで、いる」

「? それはもちろんお背中をお流ししようかと」

 なんでお前はそこまで、『私は何かおかしなことを言っているのでしょうか?』みたいな目が出来るんだ。

  考え事の最中現れたのは服を着たままのシエ。とはいえ、袖は水に濡れないようにまくってはいるが。


「シエ、お前は俺が一人で風呂にも入れない人間だとでも思ってる? というか俺裸だぞ?」

「まさかそのようなことなどありません。ですが一人では洗い残しがあってはいけませんし、身体を洗うくらい私にお任せいただければと。

そ、それに主たるヨナギ様のお姿のどこにも汚らわしいところなどはなく———!」

「そこまで目線を外しながら言うくらいなら無理しなくていいから。さっさと、出てけっ!」

「ひゃっ」

 襟首掴んで放り出すと、ドアを閉める。

「ヨナギ様、きちんと耳の裏も洗わないといけませ——」

 扉の向こうでは何やら抗議の声が聞こえてくるが無視だ無視。


 どうにもこうにも、俺の静かな日々と言うものがここにきて本格的に壊れ始めてきたらしい。

(マジでこれから先、どうすればいいんだろう。俺)

 当初の計画から色々と破綻し始めている気がするが、もはやどうしようもない。


 このどうしようもない日々を……、ナイギ家に狙われる皆方を、どのような手段を取ってでも護ることができればいい。

 そのために、俺は“ココ“に来たのだから。





シエは幼少期からリアの食事、身の回りの世話をしていたので味の好みなどは把握しています。

ただヨナギ相手では離れて暮らしていたこともあり、再会後は距離感を測りかねている部分があります。


皆方からの指摘されている通り、ヨナギからすれば妹のような存在でもあるために対応が甘くなるところがあります。しかし、皆方視点ではどう受け取るべきか悩ましい部分でもあります。

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