表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
59/60

第五十八話 最後の纏め

 さて和己達は、特に全く問題なく、無事奈々心国(以後、紛らわしいので、湖の国と呼称)に帰還していた。

 奈々心国の農地がすぐ目の前にある荒野にて、無事転送完了した。


「おおっ、凄いぞ! これが噂の恵の湖か!?」

「何て水だ! もっと早くここに住めば良かったよ……」

「私の家族にも早く見せたいわ。今無事だと良いけど……」


 そこに渡ってきた人々が、和己達にはすっかり聞き飽きた、感嘆の声を上げ続けている。その中には、ついさっきまで女帝であった奈々心も含まれていた。


「綺麗な湖……こんな風景があるなんて、すっかり忘れてたよ……」


 奈々心にとっては、百年ぶりに見る大自然の風景である。初めてではないにしても、相当感慨深いようだ。


「やっぱ和己様だ! お~~~い!」


 そんな中、農作業をしていた先住者達が、陽気に声をかけてきた。突然この場に現れた、500人にわたる大集団。

 そんな彼らを、湖の国の民達は、実に馴れた様子で、あっさりと受け入れていた。


「和己さん、その人達は新しい移民かい?」

「ああ、そんなところだ」

「へえ、今回は意外と少ないんだね」


 街の方に入り、移民達がこれからの自分の寝床について、先住者達と話し合い始める。

 周りに人が集まり始める中で、ある先住者が、和己の傍にいるいつもの面子の中で、見慣れない女性がいることが気がついた。


「あんれ? 和己様、この娘は?」

「えっ、私は……」


 突然を自分を指されて、奈々心はすこし返答に迷った。現時点で、女帝と名乗るは不味いだろう。ではどう名乗れば良いか。すると奈々心より先に、和己の方が口を開いた。


「この人の名前は、雨宮 奈々心さんだ。俺と同じ世界から来た」

「奈々心? それって……」

「この国のことじゃないぞ。この国の名前の由来となった、俺の愛する人の名前さ!」


 時間移動のことは曖昧にして、和己はそう迷いなく口にする。それを言われた奈々心は、またもや驚きで呆然としている。それはこの国の民達にも、驚きを与えた。


「マジで!? この人が奈々心様!?」

「へぇ~~結構可愛いんじゃないの?」

「はははっ、お二人ともお幸せに!」


 まるで交際宣言されたかのように、人々はわいのわいの祝福の声を上げ始めた。

 それらこの言葉を浴びながら、奈々心は顔を真っ赤にしながら、和己と共に拠点である彼らの自宅へとついていった。






「本当に平和なんだね、この国って……」


 さて民達から、多種多量な声を上げながら、農地を越えて街の中に入り、そこから反対側の彼らの自宅に向かう。

 どんどん街が大きくなる中で、自宅の方も、最初の時のような、集落から離れたところではなくなった。拡大する街は、既に彼らの自宅の目の前まで来ているのだ。

 帝国に負けない高度な建築物が建ち並ぶ街。その七割方は、和己が召喚したものであるが。そんな万単位で人が暮らす街を見て、奈々心がそう口に漏らす。

 帝国にはない活気があるその街は、飢餓と暴政で壊れていった帝国とは大違いである。奈々心はずっと王宮に閉じこもっていて、もう百年近くも街というものを見ていない。

 だがこれまで聞いた話しや、目目連が見せた映像から、それがどれほど悲惨な状態か、ある程度察していた。


「まあね。和己が作った国は、あんたの国なんかとは格が違うわ」

「うん、そうだね。うらやましいよ……」


 皮肉の入ったカーミラの言葉に、そう率直に認める返答をする奈々心。それを聞いたカーミラは、ややばつの悪そうな顔をして、それ以上口を開くのをやめた。


「水原さんは、この国の王様なの? ガイデルさんの話だと、いまいち立場が判らなかったけど……?」

「いんや、政府とか代表とかは別の奴がやってる。俺は契約で、あいつらの面倒を横から見てるだけだし」


 和己はそう正直に答える。最も、契約にあった彼の願いが、ほとんど達成に近い今の状況では、これからどうするのか判らないが。


「私の時みたいに、力で皆を纏めようとかしないんだね」

「何だ? そうすれば良かったのか?」

「ううん! それは絶対にやめて! まず碌な事にならないから!」


 体験者の意思として、奈々心がそう力強く口にする。彼女が対面した、多くの異民族が混ざり合って暮らし、混沌していた当時の帝国と、今の湖の国とは、大分状況が違う。

 その点を理解した上で、奈々心ははっきりとそう口にした。


「まあ、そうだよな。そんなことしても、後でどんな反乱が起こるか。俺も伝聞だけで理解できるわ」


 その伝聞とは、アニメやゲームの知識なのだが、誰にも異論はないようだった。


「ちょっと図々しいけど……私も何かこの綺麗な国の助けになりたいよ。水原さん、私のこと仲間に入れてもらえるかな?」

「ああ、そのつもりだ! 皆で頑張ろうぜ!」






 さてさて色々と注目を浴びながら、自宅に戻った一行。だがここに来て、今度は一行がある人物に注目を浴びることとなった。


「よう、さっきぶりだな!」

「さっきぶり?」


 それはゲド達だった。いつもは一人とウリ坊だったが、今回は大森林で復活させた仲間達と一緒である。しかも全員まるで遠足のように、自宅前の草むらに座り込んでいる。

 彼女が姿を現すのは、別にもう驚くことではなかったが、ゲドの発した言葉に、和己は当惑している。


「さっきぶりって……俺今日あったか?」

「多分水原さんじゃなくて、私とカーミラさんだと思う。さっき王宮で会ったの。グールポイズンでおかしな事になってるのを、色々教えてくれて」


 カーミラとの間で起きた一悶着をない事にして、奈々心がそう和己に伝える。ゲドも承知のようで頷いていた。


「ごめんなさいね。黙って家に上がり込むのも駄目だろうって。ゲドは勝手に入ろうとしてたけど……」

「そうか……まあ、何の用があるかは知らんが、とりあえず上がれ」


 かくして和己達だけでなく、ゲド一行も自宅に上がることとなった。いつも以上の大所帯である。






「とりあえず……俺の方からも説明しようと思ってな。お前を虹光人に選んだ理由とか」


 居間に上がり込む一行。ゲドの仲間達は、黙って彼女の隣のソファに座り込み、ゲドがここに来た理由を話し始めた。


「おお、そうだな……まあ、ここまでいけば、大体見当はつくけど……。俺を選んで、過去から召喚したのは、雨宮さんを助けるためか?」

「まあな。こっちの勝手で力を押しつけるからには、ちゃんとした報酬を用意しないといけないし。それで一番簡単に、十分な報酬を与えられる立場の奴がお前だったんだ。まあ、それとは別に、そこの奈々心があまりに可哀想でな。だからこいつを、いざこざの後も面倒見てくれる奴がいいと思ったんだ」

「二回目にあったときは、雨宮さんのこと、ボロクソ言ってた気がするけど?」


 あの時は、ガイデルがねじ曲げた女帝の請願の内容を、ゲドはそっくりそのまま口にしたのである。

 誰もが怒るであろう、無茶苦茶なゲドに対する要求。この話を聞いたとき、和己達も女帝に対して、かなりの悪印象を与えたのである。

 だがゲドは、実際は女帝は無実であることを知っていたはずだ。


「あの時は……とりあえずああ言っておいた方がいいと思ったんだよ。あそこで女帝を庇うような事言ったら、変に思われるし。だからって、いきなり本当のことを話したら、色々面倒なことになりそうだしな」

「そりゃそうだよな。あの時知ってたら、すぐに帝国に乗りこんで、雨宮さん攫ったし。そうなると、お前の頼みを聞く理由もないしな。要するにそっちの都合だろ?」

「まあ、そんなところだな。一応お前は、精神面でも肉体面でも、虹光石に適合しやすかったってのも、理由としてはあるけどな」


 ゲドが告白した、和己召喚の真相は、実に呆気なく明かされ、当人も納得してくれた。すると今まで黙っていたゲドの仲間の一人、ライアが口を開いた。


「何かゲドさんが、色々ご迷惑かけたみたいだけど……これから皆さんはどうされるんですか?」


 さらりと放たれた、和己達の現段階での最大の問題。和己がゲドと契約したのは、奈々心との結婚と、元の世界への帰還である。

 前者はともかく、後者は実現不可能に近い。何しろこの世界こそが、和己が元いた世界であり、彼が暮らしていた世界は既に滅亡して別物になっているのだ。


「ああ、そうだな……どうしよ?」

「ちょっとゲド……あんた元の世界に帰る約束もしてたんでしょ? これって詐欺じゃないの?」


 ステラがゲドに叱りつけるように問い詰める。それにゲドは、何故か余裕がある様子である。


「それなんだがな……実は俺にアテがあるんだ。お前、今の日本がどうなってるか、知ってるか?」

「どうなってるって……世界が滅んだんだから、日本だって全滅なんじゃないのか?」


 和己が召喚される直前に見た、あの空に浮かぶ空間の穴。前にジャックに聞いた話しだと、どうやらそれが、人妖出現の現象であるらしい。

 もしあの場で、ゲドが召喚されていなかったら、自分は間違いなく人妖の餌食となっていただろう。

 そしてあの学校にいたもの、自分の家族や知り合いも、人妖の餌食になっていたと考えると、和己は今更になって背筋に恐怖の悪寒を感じていた。


「まあ、そんなところだな……。それで話しは変わるが、お前の召喚の能力、まだまだ成長する可能性があるぜ」

「そうか……でもお前にはもう関係ないだろう?」


 仲間を生き返らせる目的が叶った今、ゲドに和己の成長を促す理由はない。このやりとりには、ゲドの仲間達も怪訝に思っている。


「ちょっとゲド……はっきり言いなさいよ! なんか私らも、ちょっと苛ついてきたんだけど!」

「ああ悪い、そうだな。じゃあ、結論を言うぜ。お前の召喚の力は、でっかくやれば国一つを召喚できる。この前街一つを召喚したよりも更に大掛かりな術でな。お前それで、日本を過去から召喚してみないか?」

「はいっ?」


 和己は一瞬、ゲドの言ってることが理解できなかった。何しろ、過去から日本の物を喚ぶのではなく、日本そのものを喚べというのだ。


「日本列島そのものを、今の時代に召喚するんだよ。そうすりゃ、お前らの国は、人妖から救われるし、お前らも故郷に帰れるぜ」

「おいおい……何だよそのぶっ飛んだ話し。だいたいこの世界のどこに、召喚しろっての? その辺の海に適当に浮かせるのか?」


 列島丸ごとなんて、適切な場所に置かなければ、どんな地形災害が起こるか判らない。魔法そのものもど派手だが、その辺も大変である。

 だがその話しに、意外な人物が、肯定的に割り込んできた。


「元々日本があったところに喚べばいいと思う。元々あったところなら、パズルのピースみたいに、しっかりはまると思う。だって今あの海に、日本は消えちゃったから……」

「……雨宮さん?」


 何故かゲドのぶっ飛んだ提案に乗り気な発言の奈々心。そしてその提案の内容にも、和己は未だに話しが読めなかった。


「そうか……和己にはまだ話してなかったな。さっき私も奈々心から聞いたのだがな……」


 カーミラが、王宮で奈々心から聞いた、人妖出現直後に日本に起きた、あの不可思議な現象の話しを始める。最も、今の話題からして、それはもう不可思議現象ではないのかも知れないが。


「日本が消えた? マジかよ……」

「うん、マジなの……ゲドさんも、その辺の所判ってて、今の話ししてるんだよね?」

「ああ、まあな。俺も日本が消えたことに関しちゃ、全くちんぷんかんぷんだったんだが……カーミラが過去から召喚された辺りで、もしかしたらって思ったんだ。こいつなら、国一つ召喚も出来るかもってな」


 過去日本に起きた出来事は、もしかしたら未来での、今の和己がしたことかもしれない。想像を絶する大きな話しに、和己は未だに絶句していた。


「まあ、今すぐ出来るってものじゃないの確かだな。もしやる気になったら呼んでくれよ。それまでに俺の城に、いつでも来れるようにしてやるからよ。俺たちもできるだけ協力するぜ。何なら召喚した日本に、俺の作った森を貸してやっても良いぜ。仲間も帰ったし、無理にあの森を持ち続けることもないしな」


 そう言ってゲドはソファーから立ち上がる。そしてそこで転移の門を造り出した。どうやらもう帰るつもりらしい。


『もう行くのか? 相変わらず、言うことだけ言って、さっさと行っちまうんだな』

「ああ、俺はそういう難しい話を長くするのは嫌いだからな」

『あれだけの計略をして、自分からあんなぶっ飛んだことを言っといて、そんなこと言うのかい……』

「おう、それじゃあまた会おうぜ和己!」


 それだけ言って、ゲドはさっさと転移の門を潜り抜けてしまった。彼の仲間達も、それに続く。


「じゃあね少年。無事故郷を喚べると良いわね。それと結婚、おめでとう♫」

「頑張ってください和己さん! 俺に出来ることあるかは判らないけど、応援してますから!」

「私もカイと同じよ! 何か出来ることあるなら、いつでも言ってね」

「じゃあさよならです。俺たちを蘇らせてくれたこと、いつか恩を返します!」


 それぞれそう言って、ゲドとその仲間達は、全員あっというまに、その場から退場してしまった。


「ええと……これはどういうことになったんだっけ?」


 ただ好きな女性と一緒になりたいという願いで、面倒事を引き受けていた和己。だがそれは実は、この世界の命運に関わることであり、更に今故国を救う唯一の希望になっていた。

 見ると奈々心が、和己に向けて希望の眼差しを向けていた。同じく同郷であるはずの、カーミラの方は、故国のことなどどうでもいいような感じではあったが。


「和己さん……さっきあんな頼みした後で、またこういうこというのもなんですけど……。お願いです! 私達の国を助けてください! 私は、また自分の家に、父さんや母さんに会いたいんです! 我が儘ですけど……結婚でも何でもしますから……お願いします!」

「おう、任せろ! 俺が全部救ってやるよ! 絶対にお前を家に帰らせてやるよ!」


 一時困惑していた和己だが、その奈々心の言葉で、一瞬で決意を固めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ