表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
54/60

第五十三話 制止者

 所変わって、ここは王宮の中の大広間にて。何やら興奮したカーミラが、何を血迷ったのか、奈々心に攻撃魔法を放とうとした瞬間……


 ガスッ!


「がっ!?」

 彼女の掌から、魔法のエネルギーが放たれようとした瞬間に、その魔法が突然、発動停止された。横から強い衝撃が走り、カーミラが吹き飛ばされたからだ。

 数メートル宙を飛んで、床に転がり落ちるカーミラ。彼女の右掌からは、不発に終わった魔法の煙が、煙草のように上がっている。


「ちょっとは落ち着けお前! 妬むのは良いが、それでこれはないだろうが!」


 そこにいたのは、何故かこの場に現れたゲドであった。彼女が瞬足でこの広間に駆け込み、カーミラを横から蹴り上げたのである。


「ゲドっ!? 何故お前がここにいる!?」

「ついさっき、外から転移してきた。何か千里眼で除いてたら、お前がやばいことやらかしそうだったからな……」

「それでこれか!? お前が口出しする問題じゃないだろうが!?」

「口出しする理由ならあるぜ。こいつと和己を結婚させるのが、あいつとの約束だからな……」


「……くっ!」「……えっ?」


 ゲドの放ったその言葉に、反論できずに口ごもるカーミラ。そして何故か自分を指して、結婚という言葉が出て、困惑している奈々心。


「ええと……それはどういう……?」

「後で説明するから、今は黙っててくれ。話しがややこしくなる……」


 何か聞きたそうな奈々心を一旦制して、ゲドはカーミラに詰め寄るように問う。


「お前さっき、こいつを消すとか言ってたが……それは殺すって事か? まさか本気で言ってたわけじゃないよな?」

「半分ぐらいは本気だった……まああれだけの力があるんだから、魔法を一発や二発受け手も、死なないでしょうけど……」

「もし見込み違いで死んでも、別にしょうがないってレベルか? それだって充分やばいだろうが! もう中二のハッタリじゃなくて、本物の魔女の所業だぞ、それは!」

「うっさいわね! あんたに言われたかないわ! ジャックから聞いたぞ! お前が昔何をしたか!」

「過剰防衛やリンチは山ほどしたが……お前みたいな下らない妬みで、今みたいな事したことねえよ! お前なんかと一緒にすんな!」


 話を続ける内に、ゲドの声の怒りの感情が、徐々に強くなっていくのが判る。それは最後には、ゲドの強大な力が発散されるほどになる。

 カーミラを確実に越えるだろう、その力の一端を感じ取り、カーミラも反論せずに押し黙った。


「だいたい、そんなことして……もし和己に知られるようなことがあったらどうする? 只でさえ、簡単に殺しをするのをとやかく言われたのに……無抵抗の、しかも意中の女を殺したなんてんじゃ……嫌われるなんてレベルじゃなくないか?」


 ゲドの言葉に、カーミラは何も言い返さない。只静かに俯いて、その言葉を聞き続けている。


「少しは落ち着いたみたいだな……。今のことは和己には黙ってやるから、こういうことはもうかんべ……」


 ドゥウウウウウウウウン!


 ゲドの説教が、大分静かな口調になり始めたときだった、突然凄まじい爆音が鳴り響いた。外から聞こえてきただろうそれは、建物の深部からでもよく聞こえ、軽度の地震のように建物が揺れている。


「これは……まさか!?」


 この爆音を聞いて、奈々心が恐ろしい予感を持ち、叫び上げる。カーミラとゲドも、これには多少だが動揺しているようだ。


「爆音は軍基地みたいだが……和己が爆弾を召喚しただけだといいが……」

「そんな毒ガス弾を誘爆させるかも知れないこと、あいつがするわけないだろう。これは多分……」

「ああっ!」


 その場の全員の予想が当たったようだ。奈々心が絶望的な声を上げる。

 爆音から1分も経たない内に、その広間の中に、出入り口から紫色のガスが、まるで火事の煙のように入り込んできたのである。常識では考えられないほどの、異常な速度でガスが蔓延し始めたのだ。


「ぎゃぁああああっ!?」

「がぁがぁ……ぞんな……」

「陛下……助け……」


 奈々心の次は、別のものが苦しげな悲鳴を上げる。ただしそれは絶望とか精神的な悲鳴ではなく、肉体的な苦痛による悲鳴だ。

 広間の中や、廊下の方で、カーミラに気絶させられていた兵士達が、一斉に目を覚ます。そして悶絶して、次々と息絶えていった。

 その場にいる殆どのものが、あっけなく死んだ。ただし三人だけ、ガスを吸っても平然としている者がいる。


「ちょっとこれ……私達はいいわけ?」

「俺たちは、常人より遥かに身体が丈夫だからな。このぐらいの毒は平気だよ。多分、外にいる和己もな。……だがそれ以外の、帝国の人間は全滅だろうな」


 何もかもが最悪な事態が起きてしまった。カーミラはそれに呆然とした様子で、他人事のように平静なゲドの言葉を聞いていた。






 ガスが未だに濃く漂う、帝国中心部近くの、軍基地前の道路にて。


「ああ……やっちゃったわね。これで兵達も全滅か? 思った程に損害が大きいわ」


 防毒スーツを身に纏って、ガスの中でも無事であったハリエット。

 あの爆風に呑まれて、少し飛ばされたが、彼女は比較的爆心地から離れた距離にいたため、それほど深刻なダメージはない。スーツや身体に傷もなく、無事であったようだ。

 誰にいうでもない、独り言を口ずさんでいる。


「兵どころか、街の人間も死にまくってるんだが?」

「上流街の奴ら? ああ、そう言えばそうね。まあ、あいつら贅沢ばかり言って、帝国にたかるクズ共ばかりだしね。いっそ皆殺しにして、せいせいしたって感じ。これで帝国の出費も大幅に減るわ。とりあえずアンデット共が起き上がる前に、早いところここから逃げなきゃね」

「部下すら見捨てて、トンズラかよ? そもそも上流街どころか、この国中の人間が、今のガスで死んでるんだが?」

「そんな筈ないわ。あの弾に、そこまでの量のガスが……てっ、えっ!?」


 独り言のつもりが、何故か誰かと会話していることに気づいて、驚愕するハリエット。

 徐々にガスの煙が晴れる中、彼女の目の前に現れたのは、五体満足の和己・メガ・セイラ・ジャックであった。

 かなりのガスを吸っているはずなのに、どこも苦しんでいる様子はなく、平然として立っている。


「ちょっと!? 何でお前ら、生きている!?」

『俺はロボットだから、毒なんてそもそも効かねえよ。それにこいつらは、この程度の毒ガスで倒れるほど、軟弱じゃねえし。多分溶岩に突き落とされても、泳いで出れるんじゃないのか?』

「くうっ、化け物め!」


 ハリエットは即座に逃げようとするが、セイラが駆け出し、一瞬で距離を詰めて、彼女の腕を掴み取る。


「くそっ! 離せ、この蛮族!」


 パン! パン! パン!


 右手を掴まれて、身動きが取れなくなった。素早く左手で、もう一本持っていた拳銃を抜き出し、至近距離のセイラに発砲する。

 だがそれは全く無意味であった。あれ程の近距離で当たった弾丸は、まるで巨大な鉄塊に当たったかのように、相手に殆ど傷つけられずに跳ね返る。


「こんな状態で撃たない方がいいですよ? 跳弾して、そのスーツに穴が開いたら大変ですし……」


 ギシギシギシギシッ!


「ぎゃぁあああああっ!」


 口調は優しいが、目はとても冷たいセイラ。そのままゆっくりと、彼女を握りしめる手の握力を強める。スーツを纏った腕が、細く締め付けられて、腕が潰れそうな痛みで、ハリエットは絶叫した。


「悪いセイラ。しばらくそいつを捕まえておいてくれ!」

「はいっ、判りました!」

「ガイデルの奴は……いないな」


 セイラがハリエットを羽交い締めにして、熱い抱擁で苦しめている中、和己とメガが、鋼狩人に目を向ける。

 あれほど大暴れしていた鋼狩人は、今は微塵も動かない。しかもあのヘルメットのような大きな頭が、パックリと割れていた。見たところ、外部からの破壊されたわけではないようだ。

 乗り物のハッチを開くように、その頭部が開閉式に開き、内部が露出している。その頭部の内部には、何やら精密そうな数々の機械やメーター。そして人一人が乗る分の、一つの椅子らしきものがある。どうやら鋼狩人の操縦士は、この頭部の中に搭乗していたらしい。

 その席には誰も乗っていない。一番捕まえねばならない者は、もうこの場から脱出してしまったようである。


「あいつ……一足先に逃げやがったか? 居場所は分かるか?」


「ガスのせいで匂いは判んねけど……車の音が聞こえるな。あっちの方に、軍基地から車が走るエンジン音が一個分、こっちから遠ざかってるぜ。多分あいつじゃないのか?」


 和己の召喚による能力強化のおかげで、以前より増して強化されたホタインの感覚能力を持つ二人。それであっさりと、ガイデルの逃走方向を言い当ててみせる。

 国中の人間が死に絶えている中、防毒対策をして生きている人間など限られている。ここから逃げるその気配が、そいつで間違いないだろう。


「これだけのことをして逃げようとは、そうはいかないぜ!」

「ちょっと待て!」


 メガがガイデルを追おうと動き出すが、すぐに和己が静止をかけてきた。何故か止められたことに、不思議そうにメガが和己に向き直る。


「確か……この毒ガスで死んだ奴は、グールって言うゾンビになるんだろ?」

「うん? ああ、そういう話しだったな」


 うっかり忘れていたその設定。この毒ガスが恐ろしいところは、それにある。

 例え毒ガスの範囲外にいて助かっても、それによる生まれ出たグール達が、一斉に人に襲いかかる。まさに国一つを滅ぼす大災害だ。

 まあ、そんな二次効果がなくても、最初の一発でこの国は滅んでしまっているんだが……


「てことはよ……もうすぐこの国は、ゾンビだらけのバイオハザードになるんじゃないか? それで街中に走るのは……かなりまずくね?」

「うわっ……確かに……」


 それで納得するメガとセイラ。今人が大勢いた街に飛び込むのは、かなり危険である。そうでなくても、ガイデルを捕まえた状態で、国内を移動するのは、無駄な荷物を抱えてますます危険だ。


「じゃあ、この人も解放します? どうせこの人もガイデルも、グールの餌になるでしょうし……」

「いやっ、それはやめて! 捕まえたままで良いわ!」


 さっきまで捕縛された状況に藻搔いていたハリエットが、一転して捕虜になるのを求めてくる。どのみち、あまりこの国に長居するのは不味いだろう。


「ガイデルは放っておけ! どうせ勝手に死ぬし。とにかくカーミラのいる王宮に行くぞ!」

『でも一応様子は見た方がいいぞ! 目目連を使わないか?』

「そうだな。目目連……あいつの後を、とりあえず追ってくれないか?」


 いつの間にかその場にいた、探索係の目目連達が、その頼みを聞いて、数体がそっち方面へと飛んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ