第三十六話 帝国の真相
「署長の命令だと? あれは女帝陛下直々の命令だったのではなかったのか?」
「陛下の命令なんて……俺たちの間じゃ、そんな話し、間に受ける奴なんていねえよ……」
最初は興味なさげだった和己も、この言葉を聞くと、カーミラ同様に首を傾げる。
「どういう意味だよ? 配給中止とか、それって女帝が決めたんじゃなかったのか?」
この言葉に、今まで喋っていた警官だけでなく、他の者達も一斉に首を横に振った。
「そんなわけないだろ……最近の陛下は、恵みの魔法に全力を注いでいて、政治とかは全部軍部に任せてるって話しだ……。多分和己様達のことも、まだ知らないんじゃないのか? 恵みの魔法の柱である陛下は、王宮から全く出れないからな。それを良いことに、あちこちで陛下の命令を平気で捏造しているって言う話だ……。市民も大概は、陛下の命令って言えば、どんなことでも簡単に従うからな……」
「じゃっ、じゃあ私達の追放命令も嘘なんですか!?」
急に叫び声を上げたのは、セイラである。詰め寄るような彼女の問いに、警官はゆっくりと首を縦に振った。
「確証はないが……多分そうなんだろうな。あの頃は、うっかり俺らも、命令を信じちまったが……」
「そうだったんだ……やっぱり……」
「セイラ、お前何か知ってたのか?」
メガがますます不思議そうに、セイラに問いかける。和己とカーミラも同様だった。思い起こせば、セイラは最初に会った頃から、女帝に対して敬意を持っているように見えた。
「ううん、何も知らない……。でも父さんと母さんが言ってたの……皆女帝陛下を恨んでるけど、私達だけは陛下を信じようって……」
「何でだよ? おじさん達は、捏造を知ってたのか?」
「どうなんだろ? でも父さんは言ってたの。陛下は昔から、純人でない人達にも、ずっと気を遣ってくれていたって。私達は皆、あの人の優しさに救われていたはずだって。それなのに、今のガイデル元帥が就任してから全部変わっちゃった……。きっと元帥が、陛下を騙して、こんなことをしてるに違いないって……」
「それも有り得るな……。確かに陛下の命令が、ねじ曲げられるようになったのは……思い起こせば、前の元帥が変わってからだったし……」
聞きようによっては、単なる過剰な愛国心の妄想とも受け取れる、セイラの両親の発言。
だがそれに警官達が、同意見を口にしだした。これには和己もカーミラも、当の被害者の人であるメガも、信じられないと言った風に、呆然としていた。
「おいおい……それじゃあ、今までの女帝の暴政は、全部嘘だったってのか? 何てこった……」
今まで和己が、ラスボスのように見ていて女帝の存在。だがその意外な事実に、何やらややこしい事態に巻き込まれそうだと、深く息を吐いた。
『それでどうするんだこいつら? カーミラの提案通りに、荒野に放り出すか?』
「いや、さすがにそれは非道いだろ……でもだからって容易く解放できないし……目目連、こいつらの監視を頼めるか?」
和己がそう言うと、そこにまるでお化けのように(実際にそうだが)、そこにポンと複数の、空飛ぶ目玉が出現した。今までも、監視や情報収集で活躍していた、目目連達である。
『了解した。我々の目が黒いうちは、こいつらには怪しいことなど何もさせん』
「うわっ!? 目が浮いてる!?」
突然現れた目玉のお化けに動揺する警官達を、メガ達が縛っていた縄を外していく。
とりあえず、仕事が決まるまで、どこかに拘禁しておうかという話しになったとき、カーミラがふとあることを思いだして、問いかけてきた。
「そういえばさ、北方の魔女って何?」
「えっ?」
「昨日のお前らの上司が、私のこと北方の魔女かと言ってたわよ。前に帝国兵達も言ってたけど。この世界には、私やゲド以外にも魔女がいるのか?」
「ああ、まあ、そうらしいが……」
特に隠すような話しでもないようで、警官達は迷わずその問いに答える。
「帝国領のずっと北方に、ちょっと変な土地があるらしくてな……」
「ちょっとじゃないだろ? 俺あそこの写真見たけど、あんな化け物が山ほどいるなんて、どう考えたっておかしいだろうが!」
『化け物? 人妖か?』
ジャックも興味深そうに聞くが、警官達にはそれがよく判らないようで、彼らの首を傾げる。
「さあ? 違うんじゃないのか? その土地には、全身が水晶みたいなものでできた、ゴーレムみたいな巨人が山ほどいるそうだ。そいつらは普段は大人しいらしいが……人を見つけると、見境なく襲いかかるんだと。そんなのが、帝国領より遥かに広い土地に彷徨いているそうだ……」
「何よその進撃の世界? 何か面白そうね……」
「進撃? ていうか思しそうって……まあそんなわけ、謎の土地なんだよ。それで色々噂が広がっててな。そこにはゲドよりも恐ろしい魔女がいて、巨人を放って宝物を守っているとか」
「宝物ねえ……それって本気で信じられてるのか?」
「たまに信じてる奴もいるらしいぞ。最近では、魔女に会えれば、願いを一つ叶えてくれるって話しが出来上がって、マジでそこに行こうとしてる奴もいるみたいだし」
『願いを一つか……まあ絶望に立たされてる民なら、食いつきそうな話しだな。しかし謎のモンスターが彷徨いてるのは、間違いなく事実なんだよな?』
ジャックの問いに、警官は全員首を縦に振る。どうやらこの世界は、ただ枯れているだけでなく、思った程、謎が散らばっている世界のようである。




