表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
36/60

第三十五話 街の召喚

「何か凄いことしてわね……種族を変えるとか、そんなゲームみたいなこと、簡単にできるわけ?」

「カーミラの世界には、そういった魔法はなかったのか?」

「えっ? ああ、そうだ! これは私にとっても未知の魔法だな!」


 高台の方から、一連の出来事を見学していた和己達。最初は唖然として静かだった、難民・町民達も、しばし時間が経ってから、騒ぎ始めている。

 その内容を彼らの超聴覚で聞いてみると、どうやら難民側が攻勢に入っているようだった。ホタインになったんだから、受け入れても良いだろうと。彼らにとっては、もはや安住の地が手に入るならば、純人でなくなっても良いようだ。

 彼らの問いに、町民達もあまり強く反論ができずにいた。


「この様子だと、あいつら全部に町に入れることになりなんだが……どうすんだ? あいつらを住まわせる家は無いぞ?」

「なければまた喚べば良いさ。俺たちの家を喚んだみたいにな。とりあえず今は……栄養補給と休息だな」


 メガの問いに答える和己は、たった今喚んだ焼き鳥をモリモリ食べている。これが栄養補給というやつらしい。


「ちょっと和己! あんたさっき、あんなに力を使って倒れたばかりじゃないの! それなのに……」

「別に今からやるとは言ってねえよ。さっきも言ったが、しばらく休憩してからだ。流石に今は……疲れて歩くのもけっこうつらいし……。それまでの間は、あいつらにはトラックの上で我慢して貰うか……」






 翌朝のこと。場所は変わって、帝国領のある市街区画。そこは昨日和己達が訪れた場所である。食糧配給停止が命じられたことで、人々は完全に女帝に見切りを付けて、町民の殆どが、遥か南部の町へと移住してしまった町である。

 元々活気のない町だったが、人が完全にいなくなったことで、活気どころか人気の欠片もない。そんな完全に死んだ街にて。


 あれだけ盛大な引っ越しをした街にも、まだその中を歩いている者がいた。帝国警官達である。あの騒ぎの後、とりあえず現場検証と言うことで、他の区画からも警官が派遣されている。

 元々この区画にいた警官には、あの日和己達に、車の運転で攫われた者達も大勢いる。彼らの安否も、今はまだ不明のままだ。


「本当に誰もいなくなっちまったな……あいつら大丈夫かな?」

「どうだろうな? その魔道士達って、案外女帝陛下より頼りになるかも……」

「バカッ!」


 一人の警官が、危うく女帝の悪口を言いそうになった同僚の口を、必死で塞ぐ。そして無言で、何も見つかるはずもない街中を歩き始める。

 突然現れた異邦人に、警官隊が追い返された上に、住民達を全員連れて行かれる。警官隊からすれば、とんだ大失態である。

 だが彼らには、それに関して、悔しいとかそういった感情はなかった。むしろ、あの貴族出の、傲慢な上司が一人殺されたことで、むしろ清々しい限りだった。


(いっそ、署長も殺してくれれば良かったけどな……。ああ、いっそ俺も誘拐されたかった……母ちゃん達大丈夫かな?)


 ある警官は、そんな風に昨日町から出て行った家族を想っていたときだった。誰も気づかないうちに、この街に大きな変化が起きていた。

 そしてしばらく見てみると、古ぼけたり壊れていたりした家が、新品同然の状態になっていたことに気づき始める。


 ……この日、帝国領の一つの街が、領内から丸ごと消滅する大事件が起きた。






「おいおい嘘だろ……?」

「本当に街ごと喚んじゃった……」

「これって本当に私達の街? 何か……綺麗になってるんだけど?」


 湖の岸辺にある先住者達の町から、少し離れた区画にある荒野にて。難民・先住民が混ざり合った、大勢の人々が、昨日の種族転移に続いて、またもや信じられない光景を見て唖然としている。

 そこで和己が、またもや今までにない、大規模召喚の新記録を達成したからだ。さっきまでは何もなかった、平らな荒野の中に、突如街が出現したのである。

 コンクリート造りの単純な建築物が建ち並ぶ、質素な街。それは昨日、和己が訪れた、あの帝国領の一区画の市街地であった。


 和己がその大型召喚を見事成功させて、少々疲れながらも意気揚々と、見学していた人々に声を上げた。


「どうだ見たか、俺の力を! これでお前らも、住むところにも困らないだろ!? ただ喚んだだけでなく、召喚の際に、汚れたり壊れたりした家も、全部綺麗になってるはずだ! さあ、喜んで入れ!」

「ええ、あんたら和己に感謝しなさい! お前らのような裏切り者の愚民共に、ここまでしてくれる神のごとき優しい者など、そうそういるものではないのだからな!」


 和己とカーミラの言葉に、落ち着いてきた人々は、次々と歓喜の声を上げ始めた。そして次々と、町の中に流れ込んでいく。


「うん?」

「あら?」


 その時に、超人的な感覚能力を持った和己の耳に、街の中からある声が聞こえてきた。


「おいっ! どうなってんだ!? ホタイン達が何でここに!?」

「お前らこそなんだ!? ここは俺たちの街だ!」

「何言ってんのよ! ここは帝国領よ!」

「ここは俺たちの国の土地だ! もう帝国の中になんかねえよ!」


 街の中で、住人達と騒ぎ立てているのは、この街ごと召喚に巻き込まれた、警官達であった。

 内部を観察しに来た目目連達が、その謎の声の正体について報告してきた。


『武装した警官達が、百人ほど、この都市内にいる。どうやらこの召喚に巻き込まれたらしいな』

「ああ、そうか……人間は除くって、指定しなかったからな……。しかし武装してるとは厄介だ」

「確かにこれでは、街の者達も、安心して移れないな。この私が、少々黙らせてこようか?」

「ああ、頼む。でもあまり人殺しはしないでくれよ」


 和己に頼まれて、街の中に入っていくカーミラ。住人達も不安げに、彼女を見送っていく。

 その後、幾つもの銃声と、何発かの爆音が聞こえた後、警官達の騒ぎ声が聞こえていた街は、あっというまに静かになった。






「すごい、この家こんなにボロボロだったのに……」

「故郷を捨てたつもりだったのに、まさかこんな風に帰れるなんて……」

「すげえぜ、あの魔道士達! 女帝なんかとは大違いだ!」


 帰れるとは思っていなかった、おのれの故郷への帰還に、大勢の難民達が喜びの騒ぎを起こしている。早速持ってきた荷物を、自分の家に戻すために、あちこち動き回っていた。


「皆喜んでるわね……何だったら、先に住んで者達の、住まいもくれてあげたら?」

「それもいいかもな。今なら廃都市一つ、丸ごと召喚できそうだし……それはともかく、まずはこっちだな」


 街の外から、この様子を見ていた和己達。とりあえず話題の方を、今自分たちの近くにいる者達に向けた。

 それはロープで身体を縛られた、百人近い帝国の警官達である。その者達は、ある者は怯えて和己達を見ているが、何故か希望を寄せた表情をしているものもいる。


「まさか一緒に召喚されるとは、災難だったな。……それでお前らをどうしてくれるか?」

「いっそのこと、身ぐるみ引っ剥がして、荒野に放りだし……」

「頼む! 俺たちもここに住まわせてくれ! ホタインにでも何でもなるから!」

「「!?」」


 捕まっている者達からの、意外な懇願に、和己とカーミラはやや困惑した。


「帝国はもう駄目なんだ……。もう俺たち警官や軍人ですら、満足な配給がされてない。このままだと、間違いなくあの国は飢餓で滅ぶ。もうまともに住めそうな土地は、ここしかないんだよ」

「おっ、俺も俺も! 悪い事なんて何もしないからよ!」

「ここに私の娘達もいる筈なんです! 住めなくても、どうか子供達に会わせて下さい!」


 一人が懇願すると、他の警官達も次々と、それに続いて、移住の許可を求めてきた。それにカーミラが、不愉快そうに声を上げる。


「ふざけた奴らね……自分達が被害者のつもりか? 前に罪なき市民に、引き金を引いた外道の分際で……」

「あれは署長の命令だったんだ! やかましい奴らは、皆殺させば良いって、酷いことを……。でも命令に従わなきゃ、俺が反逆者にされて殺される! 俺の家族だって、どんな目に遭うか……」

「そんな言い訳が通用するとでも……うん? 署長?」


 今にも魔法で焼き殺さんばかりに、怒気を含めた声を上げていたカーミラ。だが途中で、気になる発言が聞こえて、不思議そうに眉を潜めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ