表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
34/60

第三十三話 大移民

「さて他の奴らはどうする? まだ相手をしようという、勇気がいる者がいるなら……」

「うわぁあああああっ!」


 カーミラが言葉を発したとき、一気に現実に戻った警官達。彼女が言い終える前に、彼らは一斉に町の方へと逃げ出した。どうやらまだ相手をしようという、勇敢な者はいなかったようだ。


「ふははははっ! 腰抜け共め! この大魔女カーミラの……」

「カーミラ! お前なにやってんだ!」


 またもや台詞を途中で阻まれるカーミラ。今度は和己であった。明らかに怒った風の彼を見て、カーミラは今自分がしたことを思い返して、「しまった!」と後悔の表情を浮かべた。


「何も殺すことないだろ! いくら悪党だって、あれじゃ只の殺人だろうが!」

「うっ、うむ……そうだったわね。私としたことが、うっかり調子に……」

「「「うぉおおおおおおおおっ!」」」


 三度目に言葉を阻まれるカーミラ。今度は悲鳴でも怒声でもなく、何と歓声である。放ったのは、今まで唖然として、様子を見ていた、帝国の市民達であった。


「やったぜ! ありがとうよ、魔女様!」

「くはははははっ、超受けるぜ! 何だよあの腰抜けっぷり!」

「もう二度とくんな! 腐れ女帝の犬共!」

「な~~にが偉大なる女帝陛下よ! カーミラ様と比べれば、そっちの方が児戯じゃないの!」


 とても既視感のある光景。これは以前のホタインの町の時と、同じような状況であった。数人の市民達が、前に出て、倒れた指揮官の死体を踏み始めている。その光景に、和己は微妙な表情である。


「皆喜んでるし、いいんじゃないの?」

「いや、そういう問題じゃ……」

「そんなことより、これからどうするつもりですか? この地区の配給停止が、女帝陛下の命で発令されてしまいましたよ。まさかこのまま、何もせずに帰るつもりじゃないでしょうね?」


 和己に声をかけてきたのは、中年の白人男性。彼の言葉に返答する以前のことで、和己とカーミラは首を傾げる。


「誰だよお前? どこかで会ったか?」

「何者だろうと、私と和己との会話に割り込むとは、いい度胸だな。少しお仕置きが必要か?」

「いや……今まであなたらに捕虜にされてた帝国軍人ですよ! 貴方たちは、私達を届けにここに来たんじゃないんですか!?」


 大慌てで、自分の身元を口にする男性。彼の周りにも同じような表情の仲間達が、何人もいた。


「ああ……そういやそんな奴いたな。すっかり忘れてた。うん……確かにこれはどうしよう?」


 ゲドからの依頼で、市民達に食糧を提供したのはいいが。それで市民達がますます飢えるのは洒落にならない。当然これは和己の責任問題である。そうなると、彼にやるべき事は、一つしかなかった。






 それから間もなくして、先程の農業区から、さほど離れていない帝国領の街の中。そこに一つの要塞のような、石造りの建物がある。

 敷地には広い駐車場があり、沢山の警察車両が駐車してあるそこは、この辺一帯を統括する警察署であった。そこに突然の襲撃者が現れた。


 ドォオオオン!


「敵襲だ! あの魔道士共が現れたぞ!」

「うわぁああああっ!」

「なっ、何してる、戦えお前ら!」

「冗談じゃねえ! 戦いたきゃ、お前だけ行けよ!」


 突然放たれた爆発魔法で、警察署の頑丈な壁の一室が破壊された。それに驚き、逃げ惑う警官と職員達。煙が撒き散らされる壁の穴から、警察署内に入りこんだカーミラ。

 外にいた警官達は、殆どカーミラの放った麻痺魔法で戦闘不能状態だ。彼らに向かって演説的な高い声を張り上げた。


「私はカーミラ! この国に闇をもたらす、異界より来た偉大なる大魔女だ! 私達の前、あれだけの事をしながらも、無様に逃げるのは勝手。ただし許可はしない! この私の許可なく、この場を離れた者は、この私が速やかなる死を与えてやるぞ!」


 この言葉で一気に静まりかえり、動きが止まる警官達。彼女の口にした“大魔女”という言葉を間に受けて、恐怖で震えている。


「貴様ら! 何をしている! さっさと行け!」


 いや一人だけ、何やら騒いでる者がいた。何やら階級が高そうな制服を着た、30~40代ぐらいの一人の警官である。


「しょっ、署長……」

「こいつは女帝陛下の意思に背いた大罪人だぞ! さっさと行け!」

「しかしこいつは私達が敵う相手では……」

「それがどうした、この腰抜け共! 勝てなくても、陛下の為に戦って死ね! 行かなければ、私がお前らを殺してやる!」


 拳銃をあちこちに向けながら、他の警官達を脅す男。その時呼ばれた名前に、カーミラが強く反応した。


「成る程お前がここの署長か……生憎こんな頭の腐った豚は、捕まえても役に立ちそうにないな」


 ビリッ!


 カーミラがそう口にした直後に、彼女の突き出された人差し指から、一筋の細い電光が放たれた。それの直撃を受けた署長は、そのまま罵声を浴びせる醜い顔をさらしたまま固まり、そのまま気絶して倒れ込む。


「本当は殺してやりたいが……それで和己に嫌われるのも何だしな……だがお前らには、私と来てもらうぞ」


 不敵な笑みを浮かべて、逃げられずに固まっている警官達を、カーミラが見渡す。警官達は、これから何をされるのかと、ますます震えていた。






 和己が通った、湖の町と、帝国領の道筋にある、広大な荒野。そこを帰りのトラックが走っていた。ただし数が増えている。行きは一台だけだが、帰りは何と千台以上に増えている。


 多種多様の車両が、大きな排気音を幾つも重ね合わせて、荒野の大地を騒がしく走る。まるでヌーの大群のように、荒野を突き進む巨大な金属塊の集団には、ある意味ドラゴンより圧倒させられるのではないだろうか?

 それらは大きなコンテナを乗せたトラックや、後ろに大きな荷車を牽引している車であった。そしてそれらの荷台に入っているのは、人であった。

 和己達が食糧を施した、あの帝国領の一区画の住人達、総勢六万人。そんな大集団が、この機械車両の大群に乗って、荒野を進んでいるのである。


「ねえ、ママ……本当にあっちに行けば、お腹いっぱい食べれるの?」

「勿論よ! あの魔道士様達の力を見たし、きっと大丈夫よ!」

「でも……確かホタインって、人殺しが好きな怖い人達だって……」

「いいえ! 女帝陛下の言葉なんて、本気にしちゃ駄目よ!」


 牽引される荷台の上で、そう言って子供を宥める母親。彼らだけでなく、多くの人々が、これからの事に不安を抱えていた。

 あの時、警官達に罵声を浴びせた者達も、頭が冷えてくると、やはりこれからの事に不安を感じ始めていた。何しろ彼らは、管理された帝国領の外に出たことが一度たりとてないのだ。

 何しろ帝国領の外は、これまでは何もない死の大地だっただけに……






 さてそんな車両の大集団の、先頭を走るのは、和己達が乗っているあの大型トラックであった。目目連達の通信網で指示を受けて、目的地まで真っ直ぐ走る。


「………」


 運転しているカーミラは、何も喋らず静かに運転していた。何か言葉を発しようにも、会話をする相手がいない。彼女の相棒である和己は、助手席でぐっすりと眠っているのだ。


(和己……本当に大丈夫よね?)


 あの騒ぎの後和己は、市民達を早い内に帝国領から逃すために、大量の乗り物を一機に召喚した。それがこの大量の車両である。

 幸いあの都市には、捕虜だった帝国兵を始め、車の運転がそこそこいた。足りない分は、あの時逃げた警官達の、本拠地である署を攻め込んで、誘拐して脅して運転させている。

 だが和己は……


【悪い……力を使いすぎた……。しばしギブアップだ……】


 それらの召喚の直後に、そう言って倒れてしまった。幸い怪我はなく、ただ眠っているだけであった。

 食糧の召喚で、結構堪えていたのに、さらにこれだけの量を召喚したのだ。疲れるのも当然であろうが。


(魔法の使いすぎで疲れただけ……だといいんだけど……。もしこれで和己に何かあったら……。とにかく早くジャックに診察させないと!)


 カーミラが、和己を気遣いながら運転する。幸いこの一団に、帝国の追っ手が来る様子はない。しばしして、一団は目的地である湖へとが見え始めた。

 既に日が沈み、すっかり暗くなった時間。だが空に雲が全くなく、月と星の光に照らされた湖は、ここからでも視認することができた。空に浮かぶ、満月よりやや欠けた大きさの月が、湖面に美しく映っている。


「何だあれは!? 土の地面と何か違うが……まさかあれが全部水か!」

「すごすぎ! あれも和己様の力なの!?」

「あれならもう、飲み水に困らないな。もっと早く移り住めば良かったよ……」


 巨大な湖を見て騒ぎ出す人々。その様子に、カーミラは疲れた様子で嘆息した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ