1-1-4:小さな学院長「ああ、また誰か禁句を言ったな~」
「しかし、君が此処に戻ってきたのは嬉しいから良いんだが、なぜ魔法師の『魔法科』でなく、教導官の『教導科』なんだ?……それに、その髪と腕はいったいどうしたんだ?左耳のやつって魔導器だよな」
デュオ・レルクザード・アーサーがアシュレイの今の、2年前と変わった姿に対して疑問に思った事を聞いてきた。
アシュレイの今の容姿は、以前より薄くなりほとんど白に近い朱色の髪に、左耳にはイヤリング型の魔導器が付いており、両腕には腕と手を覆うような装具を着けていたのだ。以前は着けていなかったのと、アシュレイの魔法適正を知っているレルクザードは前線から離れ下級生の多い新規小隊を教え導く教導官になっているのに疑問を持ったのだろう。
アシュレイはレルクザードに旅先の事件に巻き込まれてこうなった事を伝えた。
そう告げた時、初音の表情が一瞬悲しみが浮かんだ。
【教導官】とは、上級の魔法師が魔核獣と言う存在に対抗できるように下級の主に新入生の魔法師のチームを指導し、魔核獣の脅威から人々を、そして自分自身を守り撃墜されない力を与える者達の名称である。
レルクザードはアシュレイから一連の話を聞いて、複雑そうな顔をしていたが一応納得したようだ。
レルクザードは「一緒にチーム組めないのかぁ」と名残惜しそうにしていた。
あと少しで教員室に着く前に、
「ああリーダー。ここにいたんだ」
「ん?どうしたんだ皆」
レルクザードの現在組んでいる小隊の面子が現れた。
総勢4名。
一目見て中々良い魔法師だと分かった。
「どうしたってこれから巡回任務じゃないですか」
「あぁ…あれ?そういえばそうだった、け?」
「そうですよ。私たちだってサボりたいのに隊長だけ忘れてサボるなんてなんていけないよ」
「そうですよ。また学生会長に小言を言われますよ」
「いや、サボる気はない、し、確かに彼女の小言は嫌だけど…けど」
レルクザードがアシュレイ達に目を向ける。
小隊メンバーもアシュレイの存在に気付いたようだ。
若干首を傾げていたりする面子。
「あれ?どことなく違和感があるけど、えっと、もしかして、アシュレイ・バークレイン?」
「ああ。そのアシュレイだ。と言うか巡回任務は大事な任務だろ?俺達よりも――」
「わあ!まじっすか!帰ってきたんすか!」
目を輝かせながら声にする4名。
なるほど似た者同士の小隊だなとレルクザードと4人の男女を見て思った。
レルクザードは物凄く渋々と言った様子で、何だか飼い主に見放された犬のような感じがしつつ小隊メンバーに苦笑されつつ連れて行かれた。
「変わった人ですね…」
「そうだな。まあいい。もうそこが目的の場所だし、行くか」
「はい」
レルクザードと別れた後、初音と共に歩いていく。目的の教院室に辿り着いた。
「失礼する」
「失礼し…ます?」
扉を開けて中に入るとなぜか他の教員の姿はなく、代わりにそこにはこの場にいるのが不自然だと思える小さい子供が1人だけ居た。
身長は130㎝位で長い黒髪に額には宝石の様なものが見え、和服といった容姿をしていた…。
はっきり言って子供である。子供と言われても仕方ない。所謂ロリである。
アシュレイはその目の前の女性の変わらない姿に(相変わらずだな)と苦笑しながら心の中で呟いていると同時に、初音も「なぜこんな所に子供が?」と疑問に思っていた。
教院室に入ってきた存在にその少女?も気付いたようで、こちらに近づいて来ると満面の子供ぽい笑みで初対面である初音にとって衝撃の発言をした……アシュレイは当然顔見知りなので知っている。
「…おお!やっと来たかぁ…連絡貰ってから随分遅かったではないか。おっと、まずは初対面の相手もいることだし挨拶をしよう。初めまして、童がここエアリーズ魔導学院を統べる学院長である。名は“黒姫チハヤ“と言うのだ。よく当学院に来た初音・ヒュードリッヒ。…そして1年ぶりだな“一なる全”よ!……よく戻ってきた!」
そう、この幼い外見の女性の“黒姫チハヤ“こそが、このエアリーズ魔導学院の責任者である学院長なのだ。
この人がいたからこそ、魔導学院に入り2,3年前の魔術競技会にアシュレイは個人で参加する事が出来たのだ。
「えぇ~! こんな子供が学長なの!?」
「あっ…」
「!?――」
目の前の、どう見ても子供にしか見えないチハヤに、初音が驚き、思った事をそのまま口に出していた。
アシュレイも初音に言い忘れていた、と思った。
目の前の人物において言ってはならない禁句について。
だが今さら遅かった。
そして初音が口にした瞬間、満面の笑みだった目の前の学院長から物凄い威圧感やら重圧感が、教院室から学院の周囲に拡散され充満した。
……この瞬間、学院にいる全ての人間が理解した(“誰かまた言ったんだ~”)と。
「ホォー…今。この童に、今、“子供”と……言ったのかな…君はぁ!!…」
「ヒッ!?」とチハヤの重圧感に小さく悲鳴を零すと初音はアシュレイの背中に隠れた。…
全く、変わらないな。アシュレイは僅か1年間ではあるが懐かしく思った。
だがこれでは進まないと思い、チハヤに声をかける。
「おい。威圧するのはそのくらいでやめろ、チハヤ。本当の事なんだから…今更-」
「うぅ、煩い!! こ、こう見えて童は、お前達の倍は生きているんだ!なのに…なのにィ―!!…」
なんか涙目になった。…相変わらず面倒でほんとに困った人だ……
泣きの入ったチハヤに、仕方ないので2人で謝り続けて、ようやく機嫌を直す事が出来た。……ほんとメンドイ人だ。変わってないな。
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【キャラ情報】
黒姫チハヤ
○推定年齢:不明…少なくともアシュレイが子供時から外見は変わっていない。
○性別:女性
○外見:130㎝の身長でよく子供に間違われる。そして周囲に物凄い重圧感を相手に向ける。周囲の人間はこの際に「ああ、また誰か禁句を言ったな」と認識するのが恒例化している。額には菱形の宝玉があり、腰より下くらいの長さの黒髪をしている。好んで和服を着ている。
エアリーズの重鎮であり、学院の最高責任者である。子供ぽいので初見では信じてもらえない。キレます。
○好きなもの:チョコ。ケーキが好き。食べてる姿はやはり子供。
○能力:固有技能【千里眼】。遠くの光景を視認したり、少し先の未来を垣間見えることが出来る。
○アシュレイとの関係:アシュレイの家族が消息不明となった頃から後見人として共に過ごす。