初めての蜥蜴人 回復魔法の使い手たる教国
大変お待たせさせています。いつの間にか文章、ストーリー評価に点が…ありがとうございます!
リザードマン達の歓迎の宴が終わり、朝が来た。
多いに騒いだリザードマン達は各々仕事に戻っていった。
俺はと言うと、あのあと戻った時にはドルゾィとルタラはまだ寝ていた。
起き始めるまで朝御飯の下拵えを済まし、彼等と朝食を共にする予定だ。
今日の朝は、癖の強い強い森林狼の肉と猪肉をミンチにして根気強く混ぜ合わせる。子供とはいえ、リザードマンの筋力は高く苦にもならない。
その後、この近くで採れる掌ほどの大きさでブルーの食用葉を手に取った。
この葉は真ん中に芯が残っているタイプで煮込むと煮崩れしにくく、繊維が豊富だ。ロールキャベツのように丁寧に巻いていく。
その後、集落のかがり火から火種を分けてもらい、窯に移し変える。川水を鍋に入れて熱で湯を沸かしたあと様々な骨や肉、小さな川貝等から作ったスープを、バリフェルから分けて貰った塩や胡椒などの調味料と野菜と煮込んで完成した。
料理と呼べる程の手間は余りかけてはいないけど、どんな味になるかはお楽しみだ。
因みにドルゾィ達はすっかり煮込んでいる匂いで起きていた。
この煮込み料理を調味料を分けてくれたバリフェル達のお礼に持っていくつもりだ。
他、こんがりブロック肉の肉焼きを朝食に添えて頂いた。
うん、ボリュームのある食事は最高だ。食後に星形フルーツを口に頬張り、甘く滴る果汁を堪能しながら俺一人でボルテッカ邸へと向かった。
ドルゾィはシディアンさんに稽古をつけてもらえるようで、ルタラも興味もあって付き添いで行くことにしたようだ。
昨日話し込んでいる内に、バリフェル達には口裏を合わせて貰っている。
間違いなく何らかの方法で俺がボルデッカの訓練を覗き見ていたことや、バリフェルに会いに行った事は気付かれている。
ボルデッカへの説明に対して、邸に忍び込んだのは、バリフェルが魔法を使えると聞いて教えて欲しくて堪らなかったこと。
考えている内に好奇心が抑えきれなかった事を理由にバリフェルから伝えて貰うになっていた。
俺はリザードマンの範疇から逸脱の多い不思議な子供なのだと判断されているようで、それらは全て魔法が関わっていると周囲に認知して貰うつもりだ。
実際にボルデッカはそんな風に考えて俺のことを見守ってくれている節があるように思える。
まだ幼く、強力な力を持ってしまったが為に心配してくれているのだと感じる。
本当にここのリザードマン達はイイ人が多いや。
そうそう、怪我をおった下位蜥蜴人のボンボンさんも命の別状はなく、2~3日の休養と安静で復帰できるそうだ。
宴会の残り物をお土産にバルザのじいちゃんから聞いていた。
ボンボンさんは助けてくれた事にかなり感謝してくれていて、今度の俺だけの食料探索時に秘密の食材場所を教えてやるよ…との事。
うんうん、期待して待ってよっか。
そんなこんなで到着したボルデッカ邸。
中へと招かれた先には豪快に切り取られた肉塊を咀嚼しているボルデッカと、ボルデッカよりは一回り少ない量だが肉と魚を食べるバリフェルの姿があった。
弟子のシーはそんな両者の姿に胸焼けを覚えているのか、タレ目はより一層下がり、げんなりした表情のまま手前の焼き魚を少しつつく程度で止まっていた。
「きたかイタズラ坊主よ。バリフェル殿から話は聞いておる。
それにしても儂に対してイラズラを仕掛けた元気な子は初めてじゃ。今度はバレないように精進するんじゃよ」
怒られると覚悟していが、何とも器の大きな言葉に自然と謝罪が口をついていた。
「はい、すみませんでした」
「いえいえ、魔法を使えるなんて将来が楽しみな子ですね。
私で良ければまたお話ししましょう」
バリフェルが許してくれたことでこの話は終わったモノとされた。
これ、お詫びですと持ってきていたロールキャベツもとぎを差し出した。
鍋を空けると興味深そうに覗いていたボルデッカが聞く。
「これは…なんじゃ?儂は余り食べんが青色葉でも茹でたものか?」
「昨日、そこの方に貰った塩と呼ばれるモノを入れて使ってみました」
「始めてみる煮込み料理だね、折角だから頂きますね」
そう言ってバリフェルは口に入れると、シーも野菜だったらと口をつけてくれた。
「見た目はアレだけど…美味しいかも」
シーが呟くと、バリフェルも頷きを返してくれていた。料理は独り暮らしの時の名残で専門ではない。
元の料理の味とは大分違うが、ロールキャベツもどきだと自覚しているが、ボルデッカも興味深そうに食べてくれたし。
概ね好評な評価を得られたようで何よりだ。
そして、俺が魔法を使えるリザードマンである説明をボルデッカに伝えた。
説明するのは第1階悌である【異種族間言語】と第2階悌の【重穿】の2つだ。
バリフェルのアドバイスもあり、この2つは必ず人前で使う魔法であると。
それならば先に説明しておいた方が余計な誤解や手間は無くなるはず…だと。
実際に【重穿】はシディアンさんの前でも使っているし、バリフェルと話せるのも魔法の力があってのことだ。
確かに要らぬ誤解等は避けた方がいいに決まっている。
それに、俺たちの事を可愛がってくれているボルデッカを信頼している。
この世界に召喚されてようやく、信頼出来る人達と出会った気分なのだ。
そういう訳でバリフェルの仲介のもと2つの魔法の特性を話して貰った。
実際に【異種族間言語】はリザードマンの翻訳指輪を持っていないシーと話せていることで解決している。
ボルデッカは実際に見て魔法の便利さと厄介さを同時に感じていた。
なんせ、この魔法があれば弊害なくどの種族とも交流出来るのだ。喉から手が欲しい者達がいるはすだ。
…特に欲のはった人間共が危険なのだ。
長年この集落を守ってきたボルデッカは、人間種の冒険者と呼ばれる武装集団が如何に厄介だったかを身をもって知っていた。
昔、リザードマンが貴族の奴隷兼護衛として人気を博した時期があった。その時は金を積まれた数多くの人間が大森林へと徒党を組んで押し入り、集落を傷付け女や動けなくなった戦士、果ては子供を狙って昼夜問わず襲撃を受けてきた。
いくら個体として武勇に優れたリザードマン達であっても、再現なく続く襲撃者と数の差にはいずれは負ける。
白の集落を守れたボルデッカとて同胞に怪我人こそ出たものの、子供達を守りきって味方に死者も出なかった。
後に訪れた耀翔の勇者達にリザードマン狩りと称されたこの行為について聞かされた時は、腹立だしさよりも人間の恐ろしさ、欲深さを思い知った。
事実、他の離れた同胞の集落では子供達が生け捕りとして連れ去られ、少なくない犠牲者が出て、大集落へと組み込まれた氏族もあったのだ。
バリフェルのような尊敬すへき者達がいるのも事実なのだから、人間全てが悪いわけではないと今では思うようになっていたが…若き時は苦い記憶が迷いとして剣に影を指し、昇華出来るまでスランプの時期が長く続いた。
その苦い教訓としても、余り人前で使いすぎないように注意する必要があり、バレれば幼体ゆえに特に狙われる危険性があることを心配された。
俺も気を付けますと変事をする。
そしてもう1つの魔法【重穿】については実地で見たいと言われ、俺とボルデッカで4日後の夜に魔法の威力を試しに行く事に。
「うむ、最近処理しようと思っておった相手がおる。頃合いを見て4日後に出発するゆえ楽しみにしとく…の」
ニヤリと嗤うボルデッカ。
あらら、どんな相手の前に連れてかれるんでしょうね、俺は。
さて、そこでボルデッカとバリフェルと別れた俺は、シーを連れて外へと出た。
これはシーのお世話係として唯一話せる俺が当面担当となり、食糧の調達などを含めてここの面倒見をする事になったからでもある。
彼女は孤児だったらしく、リザードマンに対して余り偏見は無さそうなものの、流石に全く未知の異文化に慣れるまではストレスがカナリのかかるだろう。
これはガス抜きと現実にワンクッションを置くためにも、師匠であるバリフェルがボルデッカに頼んだ処置の1つだ。
「えーと、シーさん?宜しくお願いします」
「シーで言いわ」
素っ気ない態度だけと、俺の差し出した手を繋ぐ事はしてくれているから悪い子じゃないよな。
食糧調達のため、彼女を連れて近場の森へと入る。
行く最中に話を聞いていくと、シーは好き嫌いなとはないが肉よりもどうやら野菜が好きなようだ。
今回は植物系の食材を中心に、大森林のいまの時期に生っているアケビを探してもいだり、キノコを探すことにした。
木々を避け、道なき道を行くことは慣れなければ大変な作業だが、どうやらこの年代の子にしては体力は相当あるらしい。2時間は経過しても息切れなどない。バリフェルが幼少からきっかり鍛えている証拠だろう。
一緒な作業をして、話していけばお互いの距離も縮まる。
シーの話を聞いていると、ゆるふわな外見に見会わず、結構過酷な環境で生き抜いてきたみたいだ。
言葉の端々からもシーはバリフェルの事をとても信頼していることが良く解る。
いや、これは信頼ってよりかは…親愛のような感情に近いと思う。
バリフェルに認められる事が彼女にとっての生き甲斐になっている節があるように思えた。
シーの方からは俺が元人間だと言うことが解っているので、勇者時代の話をせがまれる。
と、言ってもたいした話は出来ないので、雇っていた傭兵団の連中の話をした。
彼等の体験談は非情に為になることが多く、様々な戦場を経験している。勝った戦もあれば負けた戦もある。
どんな状況からでも生き残る術を獲得している彼等の勇姿は、娯楽話に餓えていたシーにとってはとても楽しいものとなったようだ。
そして、シーがふとした表情で俺に問う。
「そういえば、勇者から解放されたアナタはこれから何をするの?」
その問いに俺は即答えることが出来なかった。
俺は前世では普通の人間であり、この世界に召喚されて初めて戦闘などの荒事を経験した。
リザードマン種に転生してから、種族特性なのか前よりは好戦的な性格になっていることは否定出来ないだろうと思う。
他人に教えて貰った情報やニュースの情報などは鵜呑みにしないようにしてきた。
ちゃんと自分の眼で見て、聞き、情報を捉え、その中で物事の善悪を判断する。まずはその事を受け入れる事が大切なんだと思っている。
だからこそ気に入った人には好きなだけ信頼と愛情を注ぐ俺は、変わり者なんだと友人や家族さえにも言われた。
まぁ、なんだ。性分なんだから仕方ないだろう?
まぁ、普通に暮らしている分には問題は無いんだろうけどね。
シーには自己啓発の良い機会を与えてもらった。
今は素直に解らない。と正直に答え、答え出たらまた教えるよ…と話を切り替えた。
取り敢えずは、この生命の死が身近なこの世界を生き残るだけの実力をつけることが必要だ。
俺は彼女の使う回復魔法に興味がある。基本的に希少な使い手に間違いないのて、少なくとも俺の勇者時代には見たことはなかった。
回復魔法は普通の魔法の習得とは違う。魔力の才能は元より、更にそれを扱う理論が必要なのだ。そして、ルミナス神の信徒である…其処が一番重要な所だったりする。
少なくとも回復魔法と呼ばれる概念は魔法使い社会には、例外はあるものの理論と概念から基本的に回復する魔法の立証は不可能とされていて存在など無かった。
書物には様々な諸説があるが、この回復魔法で有名なのはルミナス神教徒に伝わるこんな伝説があった。
それをシーに尋ね、思い出してもらいながら話して貰った。
遥か昔…それこそ何万年も前に魔王カタストロフが猛威を振った時代から少し前まで遡る。
その時代の一部の実力ある魔術師達は地上よりも空に拠点を移動させ、幾つもの空中庭園と呼ばれる浮島を改修して使っていた。
そこでは様々な魔法研究や術式、魔力を用いた理論で従来よりも画期的な分野に力を入れていたジャンルの空中庭園。
人口の殆どは魔法を扱う魔術師や見習いで占められており、200人近くで他に魔力の持たない人種と魔力を持っていても魔法を使う才能が無い者達が倍の400人以上と大勢暮らしていた。
そこに住まう空中庭園にとある魔術師がいた。
父親が魔術師で母親も魔術師で、両親の才能を受け継ぎ、魔力量も大きいエリート魔術師だった。
空中庭園にて幼き時から英才教育のお陰で他者からも一目置かれる人材に育っていた。
魔法、魔術の理論を組み立てながら新しい魔法体系を探して過去の文献を紐解き、実験を行う毎日の研究に勤しむ事が幸せだった。
しかし、このような平和と思われた環境でも戦いは起こる。
空中庭園には研究成果として強力な魔物避けの結界があったが、それをも破って乗り込んでくる亜竜種などや魔鳥の群れなどの強力な魔物に襲われることも希にあった。
その時の戦闘に繰り出されるのは、魔力を持たないが戦闘術などを見込まれて傭兵の役割の2級戦闘市民と呼ばれる兵士達と、指揮をとる1級市民と呼ばれる貴族階級の一部の魔術師達。
元々研究以外に興味の無い魔術師達はプライドだけが高い貴族達とは違い、使える者は使えると認めた上で魔力のある者無い者をスカウトして空中庭園へと招いているので、多少の傲慢はあっても横暴さはない。
そして1級と2級と市民格差があるものの、同じ釜の飯を食い、共に同じ場所を守る者達として彼等は仲が良かった。陽気な彼等とその魔術師も関わっていく内に自然と仲は深まっていく。
ある種の理想の形がそこにはあった。
両親は戦闘を得意とする魔術師だった。その為、彼が成人してから何度目かの襲撃で致命傷を負い、手当てのかいなく帰らぬ人となった。
戦闘の度にその度に親しい人達の生き死にを眺めてきた魔術師は、次第になぜ回復出来る魔法が無いのだろう…それがあれば…と考えるようになっていった。
それは密かに慕っていた幼馴染みが戦闘に巻き込まれて死んでしまった事で、より顕著に思うようになった。
全てを救うチカラが欲しい。
あるとき、魔術師は夢を見た。
その内容は光り輝く空間に綺麗な白銀の髪を靡かせ、この世のモノとは思えないほどの美貌を備えた女性が白衣を纏って立っていた。
圧倒的な美。それは畏れを抱くほど鮮明に心に刻まれた。
そんな美貌の女性から教えを受けた彼は、全く新しい魔導理論を兼ね備え、詳細で美しい理論と術式が描かれた紙切れを手渡される。
《再現してみなさい》
そのチカラを含む美しい声で目が覚めた魔術師は、アレは夢だったのかと落胆したのだが、彼の手には1枚の古びた紙を握りしめていた。
そしてそこに描かれていた僅かな魔法理論と構成術式図はあの夢の通りに思えた。
その一言で目が覚めた彼はとり憑かれたかのように、描かれた術式の再現に慢心した。
実はその握りしめていた紙だけでは再現が不十分だったからだ。
仲間達には寝ぼけて書いた落書きに何を執着していると馬鹿にされ、友人には最初は応援されていたが次第に何の成果もなくただ時が流れていく内に誰もいなくなってしまった。
しかし、魔術師はそんな世間の評価を気にもせずただただ研究に没頭していく。
もしかしたら彼は、そこに書かれたものを理解、解明すれば夢で会えただけの女性に会えると信じていたのかも知れない。
会いたい一念だけでここまできたようなものだ。彼にとってまごうことなき、初めての一目惚れだったと言われている。
理論と研究を重ね、それから15年の月日が経っていった。
魔術師は青年から中年へと変貌し、蓄えていた金も底を尽きかけていた。
それでも彼は諦めなかった。15年の月日は術式理論は完成することが出来ていた。
何千回も失敗してきた試作術式は、諦めない怨念にも似た情熱で遂に完成の目を浴びることになった。
それは偶然の過程で生み出したという。
失敗したと思われた術式は、魔力を込めると他にない淡い光を放ったと言う。それはどの属性にも属さない色の光だった。
そして、その日の内に彼はまた夢を見た。また光り輝く空間に今度は荘厳な雰囲気の神殿がそびえ立っていた。
そしてその中央の台座には再びあの女性が鎮座していた。
至福の感情に包まれた彼は初めて名を問い、神の如き美貌と神秘的な雰囲気を持つ女性はルミナスと名乗った。
そして、彼はその女性から褒美としてチカラの宿った剣を授かる。
そして空中庭園にてその魔術師はルミナスを神として教えを作り、開祖となる。
人類として史上初の回復魔法を使う彼は、あらゆる病や怪我から多くの人々を救い、またルミナスの存在を世に知らしめ光の御子として君臨した。
そして魔王カタストロフ戦の際には更に多くの人々を癒し、人間世界に大いにルミナス神教の布教が民に広がった。
その為、膨れ上がった信徒は教団を作り、国を作るまでに成長した。宗教として国が建国されたのは此の国が歴史上初めてであった。
とまぁ、そんな感じの伝説が残されており、彼の握りしめていた紙こそが聖遺物としてルミナス神殿に厳重に保管されている。
彼の夢に出てきた女性こそルミナス神として崇められており、白銀の髪を持つ女性は教徒にとって尊ばれる存在なのである。
そして、この光の御子となった魔術師の名はルミナスと名乗る女性より授かりし名前を生涯呼ばれることとなる。
その名も【ファウスト】。
実際に回復魔法が実在しており、非常に特別な例外を除いて人類は未だに回復魔法にはたどり着けていなかっただろう。
人間性としては穏やかで余り争いには向いていない性格だったが、戦闘になれば苛烈を極めたと言う。
他には魔術師であるが故に攻性の属性魔法をも操り、授かりし剣を持てば敵う者なしの国を興した人間特有の超人として描かれていた。
光の御子と呼ぶにふさわしい人間であり、次第に人々からはルミナス神の意向を伝える為の騎士として 神代騎士 と呼ばれていくようになる。
現在のルミナス教団においては各国に支部である教会を置かせてもらい、回復魔法の恩恵を代わりに奉仕しているようだ。
魔法に頼らないと治らない病気や、重傷の怪我などを担当している。
少なくない寄付金さえ積めば、殆ど病気や怪我が治ることが可能となった。
そして教皇を頂点として、抑止力と自衛の名の元に戦力として名高い使い手達を筆頭に纏め上げられていた。
その中でも教えて貰った特に有名な3名に絞られるだろう。
ルミナス教団に迫る数々の侵略者達を退けてきた屈強な教団戦士団に所属している男性でハイセ・グロッケンと言った。
元は冒険者であり、たまたまルミナス教団近くの村が盗賊に襲われている所を発見した彼は、背中に担いだ槍をぐっと握りしめていた。
そのルミナス教団近くの村は教団から派遣されている自警団が20人ほどが常駐していたが、盗賊達は其れを承知した上で魔法使いを雇って襲いに来たのだ。
実は村からの内通者がいた。村が貯めている金品は税収前でありカナリのモノであると知っていたからだ。内通者の手引きで入った村は混乱を極め、分断された自警団の兵士達は盗賊側からくる攻撃魔法の前と盗賊の数の多さに翻弄され、一人また一人と倒れていった。
その阿鼻叫喚の光景を見れば普通の人間ならば逃げ出すだろう。誰だって命が惜しいはずなのだが…彼は一人村の方向へと駆け出した。そして背後から盗賊達を襲い、真っ先に魔法使いを討ち取った。その後、ようやく混乱から回復した自警団と協力して数だけは多い烏合の衆化した盗賊達を掃討したのだ。
ハイセは重傷を負い、武具が半壊しても戦い続け、全員を鼓舞した姿勢は村の人々と自警団に勇気をもたらした。
その武勇の活躍を教団の幹部に認められ、教団戦士団のスカウトを受けたハイセは更に活躍を遂げることとなる。
遂には教団が保有する強力な武器の中でも稀有な魔槍ゲイホルグの使い手として選ばれ、【雷聖】と呼ばれる称号と共に教団内でも凄腕の使い手となった。
所属する人数こそ戦士団に劣るが、重装備に身を包む最高戦力たるルミナス聖騎士団。戦場においては敵には絶望を、味方には希望を与える。
そのルミナス聖騎士団は銀を基調とした荘厳な意匠を凝らした鎧兜がズラリと並ぶ姿は壮観の一言に尽き、騎士団を束ねる聖騎士長だけは代々伝わる黄金鎧ゴルドマインを着込んでいる。
戰場で巨大な戦槌を操り、誰よりも敵を殲滅するグライアス聖騎士長は【地聖】の名を欲しいままにしていた。
最後に紹介する人物は信仰心の象徴たる聖人、聖女の称号を与えられた若き女性である。
聖人・聖女の称号はバリフェルのような勇者のお供に選ばれる程の優秀な才能の持ち主や、回復の担い手として数々の癒しや偉業を成し遂げた人物のみに与えられるモノである。
その女性はなんと15歳の時に教団から聖女の認定された。各国で治らない難病とされた病気を解き明かし完治させ、戦争があると聞けば自身の回復魔法で戦場を渡り歩き敵味方を問わず傷付いた者達を癒し続けた。遂にはその女性が仲介となり戦争を終わらせた過去を持っていた。
アリエル・バレンタインは【癒聖】の聖女である。
彼等は聖の称号持ちである。その【~聖】の称号とは、授与される者達の特性をも考えられていた。
そして授与の条件としては大司教や枢機卿などの推薦人から成り立ち、教皇を含めた全員の認可がなければ滅多な事では授与されない。勿論国内においては税の免除や邸の無料貸与、上記において特別なアイテムや装備品の授与など特典は計り知れない。
また、国外においても大事なゲストとして扱われる事が多いなどと影響の強い称号だ。
因みに、ルミナス教における輝翔剣クラウソラスに選定されし最強の一角である【天聖】輝翔の勇者の所在地は明らかにされていない。
耀翔剣クラウソラスは教国が保有する魔力武具の中でもトップクラスの秘宝で、意思を持つと言われるほど神秘的な雰囲気を持つ美麗な剣である。
その意思を持つと言われる由縁は、自身で使い手を選ぶと言われる伝説が絡んでくる。
必ず選定される訳ではなく、今回の使い手が現れるまでの間は実に五百年近くの年月が過ぎていた。
巷では耀翔の勇者は役目を果たした後に既に死んだとされていたり、神より新たな啓示を受け、未だに魔物に脅かされている民の為に剣を振るい続けているとも言われている。
バリフェルはこの事に関して詳しく話したがらない。歳はバリフェルよりも少し若い程度だそうなので、実際には結構なお爺ちゃんになっていることだろう。
そして、開祖であるファウストが開発した回復魔法の取得方法は教団でも秘匿されていたものの、近年使い手の減少から少しずつ回復魔法の使い手を増やすため重要な魔法以外の制限を解き、一般の信徒にも才能有る者へは伝授が認められたそうだ。
聖人であるバリフェルには初期の回復魔法の伝授について資格を許されていたが、教えられる側には教団の厳しい審査と許可、莫大な寄付金が必要だった。
上記の理由からその両方が無くともよくなったお陰でシーは晴れて使い手になり、新しい道を歩き始めているから人生とは不思議なもんだ。
と、言う訳でルミナス神の限られた信徒しか使えない貴重な回復魔法を是非一度見せて貰いたいもんだと思っている。
そんなこんなで様々な色のキノコとアケビ、木の実で一杯にした籠を背に帰った。
そうして集落につくと、下位蜥蜴人と蜥蜴人が出迎えてくれた。そして背の籠一杯の食料に喜び誉めてくれた。
シーは言葉がわからなくとも、目を細めて笑うリザードマン達の姿や声を掛けてくれている様子を見て喜んでくれているのがわかったのたろう。
ぎこちなく笑顔を浮かべなからも籠を差し出していた。
さて、お昼ご飯を済ませた俺はルタラやドルゾィをシーに紹介した。
ドルゾィ達は生で見る初めての人間に興奮と好奇心が押さえきれないようで歯軋りを盛んに鳴らすほどだった。
最初こそおっかなびっくりな様子だったが、言葉が解らなくとも無邪気に誘いに来るドルゾィ達に次第に打ち解け始めた。
日々の食料探索と組手など、一緒に行動するようになるのはそう不思議な事ではなかった。
俺は短槍と魔法、ドルゾィは格闘と遠距離武器に背負うボウガン。ルタラは訓練によって前よりも銅製のハルバードを巧みに操れるようになった。
そして族長より褒美として森林狼の毛皮を使った厚手の胴体鎧を頂いた。軽く動きの邪魔になりにくいし、モコモコなさわり心地は鱗越しにもかなり気持ちいい。
防御力が上がるのは単純に嬉しいもんだ。
俺達はそんか感じの武装。シーについてはこんな感じだ。
武器は樫で出来た硬い木材の先端に魔石がついた杖だ。
ルミナス教のシンボルが入っていて、此れはルミナス教の中でも魔法が使える者に正式に支給される杖で微量ながらも回復効果を高める効果が祈祷してあると教えて貰った。使っている素材はありふれたものであり、通常級何だそうだ。
回復魔法にしか発動せず魔力を閉じこめるための処置を行っていない為に通常級の由縁であり、材料は魔力などを込められる魔導触媒ではないので、俺の【重穿】は使えそうにない。残念です。
防具には薄手の布の貫頭衣とその上に軽い革のレザージャケットとズボンを着込んでいた。身軽で動きやすさを重視している装備だった。
時々揉んでくれるシディアンのお姉さんとの組手にヒィヒィ言いながらも必死についてくる彼女に、集落のリザードマン達も微笑みながら見守ってくれていた。
シディアンにとって野菜好きなシーは同胞のような感覚であるようだ。
通訳を介してここら辺で採れる植物の美味しい食べ方や食べ時を教えてくれた。
お返しにと魔力を扱える俺とシーは、魔力の初歩訓練として体内魔力の知覚について説明した。
俺はいつも体内魔力を活発に活動させ、自身に身体負荷を与えて魔力を鍛えている。
この訓練は勇者時代から名残で、欠かさず続けていた。この訓練によってお陰で魔力に対してより親和性を高め、微細で緻密なコントロールへと繋げていくのだ。
今回はまず知覚からという入門編。体内に魔力が存在しているかどうかから確かめていこう。もし、魔力に目覚めれば非常に大きな恩恵がある。
シーも毎日の魔力を使った瞑想トレーニングにて魔力の知覚と親和性に努めている。
魔力の扱いに長ければ自身の扱う魔法もそうたが、いずれ物質に魔力を通す事が出来たりと効果を高める作用がある。これは地道に行うしかない。
リザードマンには魔力を扱う訓練等ない。と言うか、魔法を使える者がいない。
魔法と言う概念や魔力を知っていても、教えれる者がいないことが大きな理由の1つに上げられた。
《時空間収納扉》を開いて、中から特殊な製法で作られた塗料の入った小瓶を取り出した。
これは体表に塗ることで体内に秘めた魔力を僅かながらでも感じることが出来る代物だ。魔力の無いモノにとっては全く反応がないが、魔力があるモノに対しては塗った部分が僅かに発光し、むず痒さが発生する。
どんな魔力で属性があるかはこれだけではわからないものの、初期に魔力があるかどうか知覚するだけならば充分な代物である。
人間社会の一般常識として、まずはこの方法で試したあと、高額だが金を積めばどの属性に適正があるかなど調べてくれる機関が王都にはあるらしいので、そこで判明してくれるそうだ。
取り出した液体を試しに俺の腕に塗るとむず痒さと共に発生した。
うん、正常に働いてるな!
ドルゾィ、ルタラ、シディアンさんと順に塗ると、案の定ドルゾィは直ぐに発光し、慣れないむず痒さに笑い転げている。
ルタラとシディアンさんに関しては発光こそしたが、とても弱々しい光具合だった。これは魔力は持っているが弱い…と言うことなんだろうか?この差は何なんだろう。
そしてむず痒さはないそうで、むしろ暖かい気流のような感覚があるそうなので不思議そうに顔を見合わせていた。
何はともあれ、3人とも魔力があって良かった。
腕に塗って知覚している魔力を瞑想によって感じるところから始めよう。慣れてきたら指先に集め微細な魔力操作→魔力発生の元である心臓に魔力を集める→活用が可能出来るよう魔力を循環させていくと順序ごとにトレーニングしていく事を説明する。
シーも俺と一緒に先生側についてくれることになった。実際助かる。
本日はこれまでとし、しっかりと知覚するまでこの液体は使っていくつもりだ。各自に魔力のイメージを忘れぬように瞑想だけでも毎日空いた時間に行うように声がけて解散した。
そうして俺達はトレーニングしながらシーとの仲を深めていき、3日が経過した頃、怪我から復帰したボンボンさんが小屋に訪ねてきた。
兼ねてからの約束であった秘密の場所へと案内してくれると言う。
バルサの爺ちゃんに頼まれていた薬草類を朝早くに納めたあと、午前中の内に俺、ドルゾィ、ルタラは準備を整えてボンボンさん案内の元出発した。
シーも行きたそうにしていたが、今日はバリフェルより頼まれたお手伝いがあるそうて残念そうな表情を浮かべながら見送ってくれた。
大丈夫、お土産に君のお気に入りのスターフルーツ持ってくるから楽しみに待っててね。
「しかしよ、俺はお前達のような2年も経たない内に戦闘もこなす同族を始めてみたよ。普通は3才程までは武器を持てない奴が多いってのにな」
移動の最中、魔物も出ずに話し込んでいたら、ふとボンボンさんが俺達に話しかけた内容に素直に驚く。
まぁ確かにおかしいなぁとは思ってたよ。人間でも1歳の子から武器なんて持たないしね。でも、俺以外にルタラやドルゾィも一緒だしリザードマンってそんなもんなんだと思ってた。
うん、傍目から見たら明らかに普通じゃないリザードマンでも、俺以外にドルゾィやルタラもその範疇らしいので少し安心だ。
集落から離れ、小山を突き進み、川を渡って3時間の所にそこはあった。
周りは砕けた岩だらけで各所に草は膝下辺りで延び放題。それ以外何にもない場所にしか見えない。
こんな所、秘密の場所には見えないが…??
どんな食材があるのだろうか。そんな思いが正直に顔に出ていたのか、ボンボンさんは得意気な顔で大きな岩をどかすとその下の湿っている土を爪で掘り出す。
1mは掘り進んだら、下から真っ白な細長いモノが取れた。
それを丁寧に取り出したボンボンさんは3等分に折って、俺達に渡してくれた。食べろと促されて口に運ぶと、シャキッとした牙触りでシャクシャクと心地よい音が響く。
掘ったときからもしやと思ってたけど、これはやはりヤマイモだった。
ボンボンさんはこれを食べると身体に元気が湧きてでくる感覚が強く、お気に入りなんだと言う。
これまで食材集めで色んな食材を見てきたがここでしか今のところ見付かっておらず、また魔物が近寄らない場所なので秘密にしているとのこと。
俺は気に入ったのだが、ドルゾィやルタラは気味悪そうに食べていた。どうやらこのシャクシャク感に戸惑いがあるようなのだ。
折角なので俺も挑戦して1本GETしてみた。久しぶりに土を掘る感覚は農作業を収穫する時の喜びに似た感覚が味わえ、折れないように掘り起こす事は大変だったけど、おおいに楽しませて貰った。
《時間収納扉》に収納して、いつか米を見付けたときにとろろ芋として食べるために!と新しい野望を持てた。
しかし、芋があるならジャガイモとかありそうだな…ああ、ポテチも良いけどじゃがもちとかも食いてぇ…。
料理人ではないけど、これも再現してみたいと固く心に誓った俺だった。
因みにボンボンさんとシディアンさんは同じ年に生まれた幼馴染みのような存在なんだそうだ。
この度、シディアンさんが種族進化したことを誰よりも喜んでいた。
もしかしたらボンボンさんも種族進化しないのではなく、経験値自体が足りていないから何だろうか?と俺は考えた訳ですよ。
一度調べてみて、LVがMAXだったり存在値を吸収出来ないような表示ならば無理だけど、そうじゃないならボンボンさんも《種族進化》できるはずだ!
そう思い、怪訝な表情を見せるボンボンさんを説得してステータスカードに触って貰うと、光と共に文字が浮かび上がった。
name【ボンボン】
下位蜥蜴人 Lv59
normal skill
〈探知〉 〈半水棲〉〈釣り初級〉
流石に俺達よりもLvは上だったボンボンさん。初めて見た釣り初級skillに才能を感じさせられた。
うーん、カードにはLvストップも無さそうだし、これは〈種族進化〉の可能性はあるかも知れないな。
俺は明日から4日目へと突入するため、最長老のボルデッカと共に出掛けなければならない。
ボンボンさんにお願いして、空いた時間を魔物との戦闘訓練と称して、ドルゾィ、ルタラと組んでもらい、少しでも存在値を蓄積させていけば…あるいは蜥蜴人への道が開けるのかも知れない。
ボンボンさんにドルゾィ達のことをお願いすると、快く引き受けてくれた。
戦闘タイプじゃないけど、森林狼を命懸けで倒した所を見ると、俺達の中じゃやっぱり優しい兄貴分って位置付けだ。
集落へと帰り、夕食を共にしながら今日起こった出来事を思い出
しつつ、眠りについた。
少し加筆修正入ります。




