やり過ぎたと怒られる
魔法により傷はふさがったが失った血は戻らない。
そのためタツミの足取りはおぼつかないものだった。
傷を数えてみれば中々に酷いもので、脳内で状態を確認する。
「千鳥足になってるよ」
「当たり前だろ……腹を刺されてその程度で済んだんだから御の字だよ」
腹に【ライト・ガンズ】を五発。首を浅く斬られていた。蹴られた横腹は腫れ上がり青紫に変色していて、ここはアカネの【トリート】で治してもらったが、腫れが引いた程度である。
怪我したもののトウドウの武器と防具を手に入れたからよしとしよう。
「魔物使い……逃げた。不味いな、殺さなきゃ」
ダガーがどうのと言っていた。
後々に害をなす存在となるだろう。
だとすれば遺恨は絶たなければ。
「殺さなきゃ、後で俺たちが殺されるかもしれない」
目を細めたアカネが赤い尻尾でタツミの首を撫でる。彼女はまた、タツミの頭の上に乗っかっているのだった。今のは怪我した首の具合を確認していたのであるが、傷口はふさがり血も止まっている。汚ればかりはどうともならないため、アカネは尻尾で乾いた血のカサカサを感じていた。
「ほっときなよ。どうせタツミの名前を知らないんだし、変な武器を使ってる程度しか報告できやしないぞ。それより怪我を控えるように戦うって、あたいと約束するんだ」
「可能な限り善処する」
「ふざけんな」
茶番をしていると、静かになったからか村人がぞろぞろと戻ってきた。
惨劇に目を覆ってい三十人のバラバラ死体に加えてパンツと靴下状態にされたトウドウの死体を目にした村人たちは、タツミが普通の神経をした少年ではないと悟っていた。普通なら顔色一つ変えず、人間を殺し道具を剥ぎ取るなど出来はしない。
「あ、あなたは勇者なのか?」
誰かがそう尋ねた。大人が雁首を揃えて、状況が理解できていないらしい。
「そう見えるんだったら、精神科に行ってらっしゃい」
「やり過ぎだ!」
「俺たちはこんなこと頼まなかった!!」
「うるさいなぁ」
こういった反感を買うのは初めてではないし感謝されたいわけでもなかった。
ただ文句を言われっぱなしでいるのは面倒くさい。黙らせたくなっていた。
「俺がやりたかったからやったんだ。あなた達がそこのトウゴウだっけ?」
「トウドウだよ」
「ありがとうアカネ。トウドウに平伏したいから平伏して飼い慣らされていたのと同じ。俺はやりたいからやっただけ。別に助けるとか、御礼が貰いたいとかそういうのじゃない」
「ふ、ふふ、ふざけるなよ!」
「わたしたちの生活をめちゃくちゃにしたのに!!」
タツミは背を向け歩き出す。罵倒を全身に受けながら、夜食に何か食べたいな、と考えだす。
「感謝されたかったりした?」
「感謝されたい人間が、死体から物品を剥ぎ取ると思うの」
「それもそうか。聞かなかったことにして」
最後に視線を感じ、背後を振り向いた。
村人を庇うため前に出た子供たちが目に映る。
そしてその親だろうか? 子供を抱きしめた者やそばに立っている大人が結構な数いる。罵倒してくる村人と違い彼らは複雑そうな目でこちらを眺めていた。感謝したいような、恨んでいるような、変な目つきだった。
依然として人殺し、鬼畜生、くそったれ、そんな罵倒が跳んでくる。
「まともな意見だよ。何しろ俺は無法者だからね、好意を寄せると怪我しちまうぜ」
「キザっぽい台詞を吐こうとしたのか? 似合わないぞ、てか滑ってる」
「そんなバカな。俺だってかっこ良く決めたい時があるんだ」
「はあ? 無理無理、絶対に無理~。あんたカッコよくないもん」
「相棒にカッコ悪いと言われてしまう。ひどい話だ」
「……悪い、とは言ってない」
アカネの微妙な台詞の意味を考えるも、何も浮かばなかった。
「夜食は何を食べようかな」
「タツミは食べることばっかりなんだから……すこし、あたいの心配を考えてくれよ」
「はーい」




