レッドクイーン
『前回のあらすじ』
別次元に住むティンダロスの混血種との戦いに挑むエックスとベーゼレブルだが……圧倒され。
不思議な感覚にも襲われ、危機を抜ける為にラルヴァ・リンクスを倒したワールドダブルロードへ。
だが……簡単に腹と胸を貫かれ敗北。間に割って入った副王が戦っている相手の名を言う。
曲がった時空を司る自身と対立する尖った時空の支配者、ティンダロスの大君主・ミゼーアと。
東区最南端・地下研究所の一室。其処で一人、薄暗い天井寄りの壁を見上げるは──肩に届く紅い髪。
頭の上にある馬耳の左耳には、挟んで付けるタイプの十字架銀イヤリング。彼女が着ている服は。
足首まで丈のある白い入院着。彼女の赤と青の瞳は何かを探す、又は何かを視ているかは不明。
余程深く集中しているのか、後ろで屈んでいる母親・ペガを気にも掛けず、ただ壁を見つめる。
其処にあるのは五月五日と記された、何の変哲もない四角形のカレンダーが自ら捲れ上がって行くだけ。
「……死んだ。逃げなきゃ」
「咲姫──えぇ、そうね。逃亡先に目星はある?」
「……時の娘、集う場所」
ポツリと不穏な言葉を呟く少女。それが独り言かどうかはさておき、ペガは少女を咲姫と呼ぶと。
逃げなきゃ発言に同意するも、逃亡先が決まっていなくてはその場凌ぎか、行き当たりばったり。
故に尋ねれど、返って来た言葉は曖昧な内容。ペガは右中指を額に押し当て、意味を理解しようと。
懸命に考え、眉間に皺が寄るも明確な答えは出ない。時の娘、その者が集う場所とは何処なのか?
全く分からない中、咲姫は一人母親を置いて何処かへと小走りで向かう為、慌てて追い掛けた先は……
「今から逃げよう。行き先は──貴女達に任せる」
「……?」
「お姫様、どうする?」
同じ地下研究所内に居るとは言えど。突然やって来て、今から逃げようと言われても。
主語が無く、結論だけを言われても何が何やら。時を遡って来た子らでさえ、理解が出来ず首を傾げる。
しかし。目の前で逃亡を求める咲姫の真っ直ぐな眼に嘘偽りは無く、猫紙皐月は隣の姫ことユイに相談。
尋ねられても言葉足らずで、何から逃げるのかも分からず、返答に困り目を閉じ右人差し指で頬を掻く。
ただ……気になるワードがあった事にふと気付く。だが……もしそうだとしても、協力者が居ない以上。
方法は無い。だからこそ困る。提案されても、動力源が無くては何も出来ないし動かせないのが現実。
「大丈夫。流れが来てる」
「「……!」」
それすら見越してか、悩むユイに安心する様促す言葉を続ける咲姫。然れど何の根拠も見当たらず。
何を基準に大丈夫だと言っているのか?逆に不安と不信感が募る。それは至極当然の反応なのだが……
ユイと皐月の二人は感じ取り、咲姫が言う曖昧な発言の『流れ』と言わんとする意味を理解する。
言葉を交わす時間も惜しい二人は視線を合わせ、アイコンタクトをするや否や同時に目を閉じ。
意識を見えるんだけど、見えない『流れ』に集中。すると周囲が長い波長の様に歪み、波打てば。
その近場に居る保護者のペガや如月をも巻き込み、歪んだ空間が元通りに戻れば五人の姿は消えていた。
場所は代わり、東区・中央都市部にある東洋の城・内部の大広間。其処では数人の女側近が頭を下げる。
「俺の国に裏切り者だとぉ!?」
「「ッ!!」」
静かな部屋に響く年老いた男の怒号に側近達は酷く怯え、肩を震わせ自身に飛び火が無い事を。
畳に頭を擦り付ける様、顔を強ばらせながら必死に、何度も内心願い続けながら歯を打ち鳴らす。
赤い座布団から立ち上がる灰髭の老人は、手に持っていた瓢箪を口に付け、喉を鳴らし液体を飲み。
空になったのか。逆さにして中身が無くなったのを確かめると、一番右手前の側近へ投げ付ける始末。
「酒だ!!早く酒を持ってこい!」そう叫び、地団駄を踏む老人。すると横から流れ込む様に寄り添い。
老人の右手に深紅の盃を持たせ、先程と同じ瓢箪を両手に持ち、透明な液体を小さな注ぎ口から注ぐ女。
「おぉ……お主か。相変わらずワシの事をよく理解しておるわい」
「えぇ、えぇ。あなた様は実に……分かり易いので」
視線を酒を注ぎ終え、微笑む女の方へ向けば……荘厳で美しい、威厳に満ちた人間の女性で。
服装は鮮やかな真紅のドレスや衣装を身に纏い、高価な宝石や装飾品を首へ身に付けており。
他の和服を着た側近達とは全く異なる立場や存在、会話からお気に入りであると示している。
老人は先程の癇癪等何処へやら。怒りは解け、盃へと注がれた液体を一気に飲み干せば上機嫌になり。
顔も赤く染まる。微笑む女も貴方は分かり易いからこそ、次に必要な物が何か即座に分かると返す。
「うぃ~っ……それで?裏切り者とは誰じゃ」
「奴隷製造研究所の研究員が一人。武田創大……でしたっけ?」
「は、はい!殿がこの国を鎖国したにも関わらず、外へ助けを求める手紙を送ったとか」
余程強烈だったのか。足はふらつけば、隣に居る真紅のドレス女に両肩を掴み支えられ、側近に対し。
裏切り者とは誰か?そう問えば、奴隷を作る研究所の職員だと返す。更に鎖国国家としたのに。
寄りにも寄って外へ救援を求め、手紙まで送った旨を聞いた途端。老人の赤い顔は赤い意味を変え。
「即刻その痴れ者を捕まえ、燃料にしてしまえ!!」再び怒りに身を任せて叫び、蜘蛛の子を散らすように。
側近達は怯えた声で戸惑いつつ了承し、大広間から立ち去り、老人は怒り疲れたのか座布団の上へ座る。
赤服女もその場で座り、盃へ酌を続ける。側近達も一般的に顔は良いが……この女はそれより上。
更に「でしたら、周囲へ見せしめの意味も込め、一家丸ごと燃料にしてしましょう」と耳元で囁く。
「それは良い!先ずは裏切り者を処刑し、絶望を植え付けてやろう!」
「えぇ、えぇ。その後、徹底的に絶望を広める為に、X獣巣窟へ放り込むのもありかと」
「ヌワッハッハ!!まっこと美しく、実に恐ろしき女よ!」
囁き終えて離れると、老人は悪魔が如き提案に大きく口角をつり上げれば、肯定し見せしめだと笑う。
赤服女は二度肯定した後、二度と同じ愚か者が現れないよう、絶望を広める方法を提示するのだが……
それは余興として見る側には面白く、体験する側としては生を投げ棄て座り尽くす程の絶望に次ぐ絶望。
自身が思い付く恐怖制裁を否定せず、寧ろ更に上を提示する赤服女に恐怖と感服しながら笑う老人。
「それから、カーミラ様から次の入浴液を寄越す様、伝言を承っております」
「またか!二日前に送ったばかりだと言うのに」
「ふふっ。女の美に対する意識は……えぇ、えぇ。それは末恐ろしく、惨めで醜いものですから」
機嫌を良くした頃を見計らい、聞き手にとってよろしくない報告・伝言を伝える辺り、分かっている。
余程頻度が多いのか。右手を額に当て、愚痴をこぼす。顔にも面倒臭いと書いてある程出ているが。
だからと言って止める。とは考えていないのが、呆れも混じった深い溜め息が物語っているのも事実。
赤服女も老人が逆らえないのを理解している様子で、女性が抱える美の追求に対する意識は恐ろしく。
惨めで醜い。顔は微笑みを浮かべるも、言葉は美を追求する世の女性を嘲笑う、上から目線の物言い。
「けれど……ずぅ~っと、付き従うつもりはないのでしょう?」
「無論。あんな侵略者なんぞに、ワシらの星を好き勝手にさせる訳がないわぁ!」
玉を転がす様に話題を変え、血の伯爵婦人・カーミラに従い続ける気は無いんでしょ?と問い掛ければ。
老人は肯定し、侵略者呼びをしつつ反逆の時に備えている。確かにカーミラは東区を奪い取った侵略者。
だが、当時ホームレスだった自分を国王へ任命。昔と今とでは正反対の豊かな生活をしている為。
普通に考えれば、侵略者を倒してこの国を得る。又は空いた貪欲の席に入る等が考えられる。
然れど常識的に考えれば、良くて一矢報いる程度。普通なら即死、最悪不死にされてからの永久処刑。
「勿論、この老体では一矢報いるのも敵わんじゃろう。じゃが……」
「えぇ。あなた様には、わたくし から差し上げたこの献上品が」
「うむ。一か八かの大博打ぞ!」
当人もこのままでは敵わない、一矢報いるのも無理だと理解しており、決して無謀でも蛮勇でもない。
赤服女が指を擦り合わせて鳴らせば、突如として大広間に現れるは一人の女性を入れた大型展示ケース。
内側に居る女性は紅に燃えそうな真紅のボサボサな髪と瞳を持ち、腰からは紅い鱗を纏う尻尾がある。
センスの欠片もないが、最低限の尊厳として膝丈まである白色のキャミソールワンピースを着て。
両手で懸命に硝子を叩き、口を動かすも外に音は漏れず、ケースは振動を受けても微動だにしない。
「だからこそ、裏切り者や不法侵入者と言った不適格要素を取り除かなければならぬ」
「承知しております。生け贄も此方で既に何人か見繕ってますので」
「後の準備は時間が解決する。作戦決行日時は五月五日の十時……燃料とワシの全てを使い尽くす」
「畏まりました。このレッドクイーン、必ずや破滅を届けましょう」
打倒カーミラを掲げる老人は、目的達成の為には妨げとなる小石一つすら取り除き、完璧にすべく。
不適格要素は全て排除すると語れば、赤服女も理解しているらしく、更に必要となる生け贄も発見済み。
後は時間が解決する為、改めて作戦決行日時を伝え、文字通り全てを使い尽くすと力強く宣言。
すると赤服女は礼儀正しくお辞儀をし、自らをレッドクイーンと名乗れば、破滅を届けると言う。
老人が座る座布団の左隣に置かれた小さな三角形のカレンダーの日付は四月三十日。その頃と言えば。
エックス達と言えばまだ──南区港町トワイライトで体を休めて、武田創大らの依頼を受けた頃である。




