エクレシア
『前回のあらすじ』
sin歴161年。後を任されたベーゼレブルは侵略・強奪目的の海賊から港町トワイライトを護る。
孤児の三人娘達は中央エリア六番倉庫内で合言葉を言い、未来の仲間と確かめ、始める秘密の会話。
彼女達の意識はsin歴171年から精神だけを飛ばした、未来の並行世界に住む自分自身。
秘密の会合に混ざる如月。ベーゼレブルに逢わせると話し合いの末に拠点に居座る事になった。
sin歴161年四月二十二日。前日はユイ達が行った秘密の会合、その内容を盗み聞きした如月。
更には渋々情報共有したベーゼレブルにも問い詰められ、彼女達が居た並行世界の話を聞いたのだが……
初遭遇からラストミッションまでの約十年間。本人達が関与せず、噂程度で見聞きした内容もあった為。
一日で情報が整理し、昨晩ひ遅れて合流した仲間への説明も含め、翌日の今日にまで日を跨いだ。
そして今──南区を消滅させる規模の爆発及び爆風で囲いが吹き飛んだ、人気の無い教会裏で一人。
ベーゼレブルがボロいサンドバッグの前に立ち、深呼吸。合掌し右拳を作り、表面に密着させ……戻す。
「ふむ。今はまだ、五秒の密着ですら精度の悪い六連撃が精一杯か」
直後。支える台の鎖に繋がれたサンドバッグが突然勢い良く衝撃を受け、宙に浮きながら暴れ出し。
呟いた言葉通り、六回の衝撃を受けたサンドバッグは空中で膨れ上がり炸裂。中の砂が四方へ散る。
残った支え台と鎖が軽い音を立て地面に墜落。己の眼でその結果を確かめるも、首を短く横へと振る。
練習故なのか。威力や精度こそあの技の足元にも及ばないが……確実に近付いてる感触を実感したのか。
右手で握り拳を作っては開く。を何度も繰り返し、倒れた練習器具を立て直し自身の右手を見つめる。
(一瞬かつ一撃に見せた、極めて精度の高い六連撃……これが最初に覚えた技だと?)
小刻みに震える右手と前腕。原因は筋肉の疲労や限界で起こる痙攣。それは誰にでも起こる事象。
しかし、問題はそこではない。ただの一撃に見えるが、全く同じ箇所に一瞬で打ち込まれる六連打。
銃の反動、拳の連打然り。当然発生する照準のブレ。その難題を越え漸く土台に立つ事を許される技。
達人が長い修練の果てに獲得したのなら分かる。が……彼は未熟ながら最初に覚え、共に歩み続ける。
見た目以上の破壊力と貫通力を、今も成長させながら。故に──口角をつり上げ教会へと戻って行く。
「コイツに呼ばれたから来てみれば……あの馬鹿ッ」
「貴女だけよ?私達百鬼夜行の長にして、旦那様を馬鹿呼ばわりするのは」
来客用の個室で机を囲み、向かい合って話すは長身で腰に届く金髪ストレート、鮮血の如く紅い瞳。
白い長袖の上に黒く丈の長いノースリーブワンピース、首には金で作られた桔梗の花ネックレス。
机に左腕を乗せる左薬指に金の指輪を嵌めた人喰い妖怪の桔梗が、右手で薄桃色の宝石を弄り。
三つ編み白髪セミロングで青い瞳のミニスカメイド、如月から現在の状況と情報共有を受けてボヤく。
そんな言い方をする彼女に呆れつつ、自身らを百鬼夜行。エックスを長であり私達の旦那様と言った後。
眼を細め、彼を馬鹿呼ばわりしているのは桔梗だけだ。と羨ましさ半分、呆れ半分に言い返す。
「私達を大切にする癖に自分は無関心。無理な笑顔作って心で泣く奴を馬鹿と言って何が悪い?」
「それは──あら?未来からのお客様が来たみたいよ」
「報告で聞いた、あの馬鹿を撃ったガキとその孤児仲間?」
だが。悪癖とも言える事実・問題を突き付けた上で、それを理解しつつも一向に改善しようともしない。
そんな奴を馬鹿と言って何が悪いのか?逆に呆れ顔を見せ、言ってのける桔梗に反論し始めた時。
木造扉を軽く二度叩く音が室内に響き、話を一旦区切り未来からの来客。ユイ達が来たと言う。
如月の報告で聞いていた為、具体的な内容を口にし、扉が開くのを待つ桔梗と──入室を許可する如月。
すると扉が開き、堂々と中へ入って来るユイと怯え、俯いて背に隠れている見知らぬ子が一人。
「……桔梗。例の件は──」
「調査済みよ。ただ、この話はまた後で」
身を乗り出し、小さな声で訊ねる如月に調査済みだが、まだ信用出来ないユイ達へ聞かせたくない。
故にまた後で……如月に返し、揃って席を立てば横に並び立ち、入室した孤児二人と向かい合う。
身長差は小学一年生と女子高生や成人男性程。見上げる側と見下ろす側だが、ユイは一切眼を逸らさず。
真っ直ぐ桔梗の紅い瞳を視る行為に対し、挑発的に少し口角を上げ、睨み返す桔梗から放たれる威圧。
隣の子はアッサリと圧倒され、怯えて尻餅を着けば、部屋の隅に這いつくばったまま移動し背を向け。
身を丸くして震え、その行動は小動物にも似ている。反面、ユイは両手で強く握り拳を作り、堪える。
「ふぅ~ん。ま、百鬼夜行に入る気ってんなら──度胸だけは及第点」
「そうね。特に私達は戦闘特化型だから、受け入れるとしても支援系かしら?」
「いやいや……止めろよ突っ込めよ!!子供相手に威圧するな!って」
「──あぁ。そう言えばそうね」
痩せ我慢をするユイを見て百鬼夜行入りには度胸だけ及第点と評価を下し、腕を組む桔梗の言葉に対し。
怒るや嗜めるでもなく、肯定し仮に受け入れても後方支援だろうか?そんな予想を組み立てる如月に。
右手を額に当て、小さく首を横に振りつつ否定的な言葉を呟き、自身が求めた当然の言動で説明すれば。
少し間を空け、成る程。とばかりに手を叩き、言われた通りだと納得した様子の如月に頭を痛める桔梗。
置いてけぼりを受けたユイは唖然とし、頭の中で整理が纏まらない様子。しかし意を決し、口を開く。
「お初にお目にかかります。ナズナ・イクス・ユイと申します」
「あら、丁寧な挨拶ね。私は月夜如月、宜しくね」
「……人喰い妖怪の桔梗。まあ、今は喰ってないけど」
ユイはカーテシーと言う、両手でスカートの裾を軽くつまんで広げ、膝を曲げてお辞儀を行う。
すると如月は礼儀・礼節を知る王族か貴族の娘と見抜き、自身も同じ動作で挨拶を返す。
妖怪かつ貴族・王族の礼節を知らない桔梗は、不慣れと恥ずかしさから右手で後頭部を擦り。
照れた顔を隠す様にそっぽを向きつつ、不器用ながら自己紹介をし、現在人喰いはしてないと話す。
挨拶と自己紹介を交わす三人。なのだが、未だ部屋の隅で震えている子だけは会話に参加出来ずに居る。
「あの子はタカト。猫と人族のハーフ」
(ハーフ?にしては魔力と霊力が均一じゃない上、これは……)
(海岸に波が打ち上がっては戻る様に、不安定過ぎるわね)
ユイが代わりに紹介するも、桔梗と如月は最初こそ興味が無く、気にもしなかったタカトの歪さ。
魔力と霊力の不安定から何かに気付くも、此方には一切顔を見せない為、推測の域を出ない。
ただ耳を澄ませれば「助けて神父様」と、壊れた録音機さながら延々と呟きを繰り返すだけ。
そんな時。再び扉がノックされ、返事をする暇も無くドアノブが回ると開き、入って来るベーゼレブル。
「呼ばれて飛び出た訳だが。ふむ、やはりまだ人前に出るのは厳しい様だな」
「此方からの返事も無く入って来るのは失礼じゃないかしら?」
「一理ある。が──助けを求める者を救うのに返事を待っていては、見殺しも同然ではないかね?」
白い鶴の首の様に細長い頸、ふっくらとした丸い胴の瓶を左手で持ち、某大魔王の台詞に似た。
お馴染みの言葉を吐き、瓶を机に置くと部屋の隅でうずくまり震える子の背を優しく叩き。
自身が来たと認識させれば、抱き付く子を抱き抱えたら……如月に礼儀知らずだと言われるも。
逆に真っ当な返答を返され、何も言い返せず部屋の外へ出て行くのを見送るしか出来ない中。
ベーゼレブルは部屋から一歩出た所で振り返り、客室内に残っているのが女性陣だけと改めて認識後。
「私は席を外す。女子会を楽しむが良い」
「女子会って、アンタ……」
「百合を踏み荒らす行為も大変興味深いが、花園は花壇を分けて愛でるものだ」
自身は会話に参加しないから女同士で楽しめ。と微笑んで言い、桔梗は後方腕組みな言い方に引く中。
助平な同人誌を指定した様な発言をベーゼレブルがした為、顔こそ笑えど目が笑ってない如月。
刹那──無数の多種多様のナイフが一斉に奴の顔へ迫るも、早急に閉じられた扉に阻まれ突き刺さる。
ユイだけは桔梗に両手で耳を塞がれ、視界は闇で阻み物騒な場面を見せずに済んだと溜め息を吐く桔梗。
兎にも角にも、仕切り直しとばかりに三人は席に座るが……身長差的に子供からの事情聴取である。
「話だと他に二人居るんじゃなかった?」
「それが……二人とも、高熱で寝込んでて」
ユイが話し易い様、桔梗が我先にと真っ先に訊ねれば、あの二人は高熱で寝込んでいると言う。
目線で如月に確認を取ると、小さく頷き肯定。心配の余り眉と首が下がり、不安の表情を見せるユイ。
しかし彼女の顔がやや赤く、先程の発言も一言ずつ区切る言い方に疑問を持った如月が消えるや否や。
ユイの左隣に現れ、右手で彼女の額に触れ左手は体温の比較として自身の額を触った結果……体温が高く。
彼女自身も高熱に耐えつつ、対話に望んでいた。桔梗と如月はお互いの顔を見合うと深く頷き──
ユイを客室のベッドに寝かせ、消えては水の入ったガラスポットやコップ、梅粥を持って現れる如月。
「ごめん、な……さい。折角の、集会を」
「別にいいのよ。貴女達が元気になってからでも」
「そうそう。あの馬鹿が此処に居たら絶対に如月と同じ事言うしやるから」
折角の集会を台無しにしたと謝るユイに、元気になってからまた行おうとフォローする如月。
桔梗も肯定し、エックスが居たら同じ事を言い、無理矢理にでもベッドへ寝かせてるから~と発言。
如月の介護や二人から赦して貰えた為か。熱はまだ引かないものの、先程よりは安らかな顔で眠るユイ。
見計らったかの如く扉をノックする音が鳴るも、リズムがおかしい。手早い三連続では無く──
まるで音で強度を確認する為、金槌でゆっくりと叩くリズム。警戒する二人は扉に向け、身構える。
「重大な話がある。教会の裏へ来い」
扉の向こう側から聞こえる声の主は、ベーゼレブル。重大な話があると言われ、顔を見合わせる二人。
執拗に何度もエックスや自身らへと策を講じて挑み、多かれ少なかれ被害を出し続けた仇敵であり怨敵。
桔梗はエックスと殺し合う羽目になり、如月は過去改竄から自身の存在を抹消され掛けた経験もあり。
素直に従いたくない。が……行かなければまた面倒臭くなると言う予感がした為、渋々教会裏へ行く二人。
「重大な話って何かしら?」
「あの三馬鹿娘の高熱は──テラー粒子に振れたのが原因だ」
「X獣を生み出す粒子の名前だっけ。けど、それが何なのよ」
自身らに背を向け、一人待っていたベーゼレブルに重大な話とは何なのか?と問い掛ける如月に対し。
彼は振り向き、X獣を生み出す粒子に最悪な触れ方をした為、高熱に苦しんでいると話す。
テラー粒子に関しては、桔梗も調査をしていた如月からどんなモノかは知っており、それの何が問題か?
そう問い返せば、彼は「微量だけ触れたのが悪手だった」と語り、苦虫を噛み潰した様な顔で──
「最悪、イェソドが誕生するぞ。戦う覚悟はしておけ」




