ディクテクター
『前回のあらすじ』
奈落の深淵にて、桔梗と如月が目を覚ますのを待つエックス達の前に現れる紅き龍神族・紅心。
破壊者が倒すべき真の黒幕の存在を口に出し、彼は終焉の破壊者の役割と意味を理解する。
会話を終えた頃、黄泉の国の拒絶反応が砂嵐として発動。大嵐に巻き込まれる中、彼は見る。
人類と幻想種の間で行われた最高権力者同士の会談と、戦争へ繋がるまでの歴史の流れを。
大きな円卓が一つと銀色のモノリスが五つだけある真っ白な一室。それ以外は椅子や花瓶等も無い。
赤い茨の冠、重なる♂♀と黒い髑髏、桃色の雫と浴槽、別方向を向く複数の紫眼球、青い達磨達。
それぞれが円卓を囲み、中心を向く様に固定されている。まるで今、何か大切な会議でも行うが如く。
『全員では無いがよく集まってくれた。我が計画に賛同せし同志達よ』
『欠席者は誰ッスかぁ~?ゼノ・クライムの旦那ぁ~』
『カミーラ、ヘルパー、コレクターの計三名だ。我はこの集まりの悪さに寧ろ頼もしさすら覚える』
赤い茨の冠が描かれたモノリスから若い男性の声が発せられ、集まった同志達へ語り掛けるも。
欠席者がおり、黒い髑髏から砕けつつもタメ口で誰が欠席しているのか?を問えば、全体の内の三名。
人数的に四天王等の幹部と判断出来るものの、司令塔らしき人物──ゼノが招集したにも関わらず。
四名中一人しか来ない。そんな集まりの悪さと貪欲さ、神経の図太さに頼もしさすら覚えると言い放つ。
ゼノ・クライム……副王が破壊者達を黄泉の国へ送った後、現れた者と同じ名前、同じ声の持ち主。
『一応、用心棒の此方達を残して行く礼節は持ち合わせている』
『俺まで巻き込むな。俺はただ、特異点を倒す為、お前達ディクテクターを利用しているに過ぎん!』
『此方としては魔神の王すら倒したその力。かの者と刃を交え、心行くまで堪能したい…』
用心棒を名乗る冷静な女声の主は自身を此方と言い、主に武士階級や公卿・華族の女性。
彼女達が用い、明治維新以前や以降の第二次世界大戦直後まで使われた上流貴族の私、こちらの意。
片や冷徹な口振りの若い男の第一声。されど続く言葉には並々ならぬ執念が込められており。
特異点なる存在を倒す為、此処に集まる組織。ディクテクターを利用してるだけと大胆な自白を行う。
独特な一人称を使う用心棒も、魔神王を倒した人物と刃を交えたいと告白。だが、誰も文句を言わない。
『堪能したい。じゃありませんよ龍姫、ナズナ・イクス・ミズキ様!!我が国は今、竜種の被害真っ只中なんですから!』
……否。用心棒の一人、ナズナ・イクス・ミズキと呼ばれた者の背後から会議と知ってか知らずか。
自国が竜種被害の真っ只中であり用心棒をやってる場合ではない。そう懸命に訴える男性の声が乱入。
突然のハプニングに会議メンバーは思わず黙り込み、空気を読んでただただ様子を伺う他無い様子。
『トモカズ』
『はい』
『煩い』
『ありがとうございますッ!!』
ナズナが通話会議に乱入したと思われる男性の名を呼び、それに反応して答えるまでは通常の流れ。
だが……何故か文句の言葉と共に拳でぶん殴った音が響き、騒々しい物音を鳴らし倒れ、感謝の返答。
頭の理解が追い付かないのではなく、頭が理解を拒み思考停止する外野の二人。追加でトモカズが……
「殴ったね!?父さんにも殴られた事WOWバーガー?!」と、ネタなのか一万三千円する高級バーガーなのか。
ネタや意味を知らないと滑るボケをかますやり取りに、取り敢えず深呼吸をして聞き流す事にする二人。
『では改めて会議を行う。今回の議題は──我々が作るsin歴史に破壊者が来た件について、だ』
『転生したらスライムだった。が付いてそうな言い分だな』
『茶化すな。別にアニメ化しても六話丸々会議と言う訳でもない』
仕切り直し、会議を始めるゼノ。議題説明に某アニメのタイトルに近しい何かを感じ取ったらしく。
組織を利用する男が何気無く茶化すも先手を打たれ、場が静かになったのを確認し議論へと移る。
内容は破壊者が各々各自が担当するエリアへ現れた場合や、戦闘するか撤退を優先するか?等々。
理由は明白。一時的な戦闘での勝利より、重大な場面での勝利・計画達成を最優先とするから。
『つまり、奴と戦闘になっても逃げろと。そう言う事か?テラー』
『んん~……オイラ達幹部クラスはそうなるよねぇ~。けンど、アンタら用心棒はその限りじゃない』
『当然だ。俺は奴と──破壊者と呼ばれる特異点を完膚無きまでに倒す為、次元を飛び越えて来たからな』
冷徹な男が不服そうに、組織として可能な限り戦闘回避の方向性に対し難色を示し、黒髑髏へ確認する。
テラーと呼ばれた男は唸りながらも少し考え、自身ら幹部は方向性に可能な限り従う必要があるものの。
用心棒達は足止めや最悪、捨て駒扱い。敢えて都合の悪い部分は伏せつつ、言葉を濁して言う。
言われた当人は伏せた部分を理解して尚、自身が次元を飛び越えて来た者であり、破壊者打倒に向け。
並々ならぬ執念と執着心を感情に乗せ、寧ろ願ったり叶ったりとばかりな提案に乗り気である。
『皆仕尽、もしくは鳴神月と呼ぶ方が良いかな?』
『貴様……相当ゲロを吐きたい様だな』
『ふふ。水無月謙信。君の名前は勿論覚えているとも』
『……チッ、相変わらず喰えねぇ野郎だ。煽るだけ煽って、テメェ自身は常に安地か』
古い日本語で用心棒の男を煽り、声だけでも脅せば最終的に水無月謙信と呼び、最悪の展開は回避。
直接対面する会議ではない現状に苛立ち、安全地帯から平然と他人を煽る行為に苦渋を舐める謙信。
場の空気は最悪。今下手な事を言えば、爆発しそうな怒りは一点に集中してしまうだろう。
テラーやナズナ、トモカズすら何も話さない。その飛び火が軽くても山火事規模になり得るからだ。
『──それで、奴の現在地は分かっているのか?』
『既に予測済みだ。魔王が支配するエリア、港町トワイライト』
暫し続く沈黙を破ったのは……水無月謙信。自身が作ってしまった険悪な空気を破るべく、口を開く。
内容は話が逸れ、会議で取り扱う議題。待ち伏せ、奇襲、先手。いずれにしても情報は必要不可欠。
現在地の判明を問えば、既に予測地点は目星がついている様子。そのエリアとは……魔王の支配領域。
地名から察するに、海に面した場所だと分かるものの。会議に参加する者達からは溜め息がチラホラ。
『ふん。治安最悪な海賊の溜まり場とはな。つくづく運のない奴だ』
『あのエリアの支配魔王って、誰ッスか?』
『魔王パイモン・ラース。圧倒的な力と恐怖で支配する未熟極まりない統治者』
最初のエリアが治安最悪な事に謙信が鼻で笑った後。理由を口にしながら運が悪いと馬鹿にする。
興味が無く、記憶に無いテラーは港町トワイライトを支配する者の名を他の面々へ気だるげに訊ねれば。
国繋がりで知っているのか。ミズキが先に答え、原始的な統治方法だと第三者視点で低い評価を下す。
組織・ディクテクターの面々が記憶に薄かったり、統治者としても低評価を言う等良い印象は無い。
悪く言えば時代錯誤な統治。良く言えば実力者主義の支配。恐らく、法整備も出来ていない可能性も。
『とは言え~。何も手を出さないって選択肢は無いんだろぉ?ゼノの旦那ぁ~』
『当然だとも。我々の邪魔となる存在、可能性の芽は一つ残らず取り除かなくては』
酔っ払いのダル絡み同様に、ゼノへと訊ねるテラー。当の本人はそれを全く意に返さず。
気にもせず淡々と返答。自身らの邪魔者。即ち、魔王達も破壊者共々排除する計画があると言う点。
二人のやり取りを黙して聞いているのか、それとも聞き流しているのか。謙信とミズキは何も言わない。
ただ一つ。各々が会議に使っている機材、そのモニターが示すポイントで赤い点が動くのを眺める。
港町と周囲の海を含めたマップであろう地図には白と赤、最後に黒の点があり。大多数を占める白。
黒は少数、赤だけが二つ。だが、用心棒達は見逃さない。白い点の中に──小さな黒点があると。
『ゼノの旦那ぁ~。恐弾はいつ撃つんだ?もう撃っても良いよなぁ?!』
『まだだ、テラー。アレは今使っても、最大限の効力を発揮しない。だが種蒔きは既にしてある』
『種蒔き?』
『あぁ。後は土が自らと種に水を与え、芽を出し、その時まで待てば良い』
集団と思わしき六つの白い点にあるこの黒点は何か?そんな疑問を解き明かそうと真剣に挑み。
会話が無くなる用心棒達とは対照的に、玩具を貰った子供が今直ぐ遊びたい!と興奮を納められない。
早く使いたくて仕方がない!テラーが恐弾なる物の使用をトップたるゼノへ聞くもお預けを食らう。
理由は現状では最大効力を発揮しない為。更に妙なワードが出たのを聞き逃さず、食い付くミズキ。
されど返答は用心棒達が求めるモノではなく。アレクサンドル・デュマの小説、モンテ・クリスト伯。
その結末で語られる、人間の叡智を凝縮した有名な言葉に近しい。まるで植物や作物でも育てる口振り。
『南部エリア侵略支部は──誰が担当だったかな?』
『オイラオイラオイラオイラオイラ!!ディクテクターの幹部こと、グリードのテラーッス!!』
子供を上手く誘導する様な。わざとらしくも自ら進んで手を上げさせるゼノと、まんまとハマるテラー。
それ程破壊者と戦いたいのか?と問えば答えはNO。では何故か?テラーはお気に入りの玩具を使い。
新しい玩具で遊び、楽しみたいだけ。故にゼノはやる気を出させる為、敢えて自ら名乗り出させた。
親が子に口を出して勉強させるよりも。自ら進んで勉強をするよう、言葉巧みに誘導したのである。
『では結果を楽しみにしているよ。グリードとしてベストを尽くし、心行くまで堪能したまえ』
『ウッス!!』
『これにて今回の会議は終了としよう。各自各エリアの任務へ戻り、出来る限りの準備をすると良い』
ヤル気満々なテラーの気分を下げぬ様、失敗や敗北を想起させる言葉は敢えて使わず、ベストを尽し。
欲望・貪欲の名を冠する幹部に相応しく堪能しろと指示。テラーはゼノが作戦成功を信じていると歓喜。
力強く短い返事を返せば、会議は終了。各々は与えられたエリアでの下準備を行えと発言。
ゼノは理解しているのだ。幾ら破壊者が強くとも、弱点を突かれては自身らの作戦を防げないと。
通信会議が終わり、電源を切る音が響くとモノリスに刻まれ、各自を示す色も消え静寂が戻る。
『…………トモカズ』
『ハッ。ミズキ女王陛下』
暫しの間真っ暗闇と静寂が続いた後、紫眼球と青い達磨達に光が灯り音声通話が再び始まった。
他に誰も電源を点けていないか?確認の意味も込めて少しの間沈黙を続けてから、トモカズの名を呼ぶ。
すると青い達磨達を描かれたモノリスからミズキにシバかれ、感謝の言葉を叫んだ男が返事を返す。
『ヘルパーは動けそう?』
『いえ。要介護者が余りに多いのもあり、今回は確実に動けません』
『此方もコレクターは散歩から帰ってない。……頼める?』
『承知しました』
会話は短く、一言二言が多い。今回現れなかった幹部の内二名。ミズキがヘルパーが動けるか聞けば。
答えは否。要介護者が多い為に今回の作戦中は動けない。コレクターも収集と言う散歩だろうか?
それから帰って来ない。続けて、内容は事前に伝えていたのだろう。要望を受け入れ、承諾。
確認の短い通話を終え、電源が落ちる。完全に終わったのを見計らい、モノリスに桃色の光が灯る。
『…………俺も探すか』




