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『日暮れ』 作詞:高夢才叶
日暮れのこの街、ざわめく人ごみの中を
何も言えなくて歩いてた二人
かすかに震える、あなたの小さなその肩に
手をまわした時、微笑みが伝わる
静かな時の流れに、優しく抱かれながら
言葉にならない愛を、探し続けた
さよなら、なんてもう、言えない僕にはもうとても
あなたのぬくもりに、包まれているから
一人の寂しい過去を、優しく癒してくれる
そんなあなたの心が、日暮れの中で……
見つめる二人の、瞳にお互いの姿が
重なる時いつか、あの空に煌めく星屑
誰もいない寂しい街の、夜は冷たい、だから二人肩寄せて
これから始まる僕と、あなたの愛の歴史を夢見て、いつまでも二人で
夜明けが来るまでここで、何も言わずただ見つめていよう、今は……
枯葉の舞い散る、あたりはもうすぐ冬景色
夜の闇が深く、包み込む日暮れのひと時
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本名での応募に躊躇したわたしは、ペンネームを考えた。
色々な案を考えたが、ある日、本名の漢字〈才〉〈高〉〈叶〉〈夢〉を組み替えることを思いついた。
高夢才叶。
その瞬間、新しい一歩を踏みだせそうな予感がしてきた。
*
受賞作の発表は応募締切日から3か月後だったが、応募したその日から受賞を信じて強く願った。夜寝る前、朝起きた時、家を出るとき、家に帰った時、1日に何度も受賞を願い続けた。毎日、毎日、願い続けた。他の応募者より1回でも多く願えば自分が受賞すると信じて、願った。
だから、最後の1か月は1日に50回願うことを自分に課した。
そして、発表前日には1日に100回願った。
わたしの願いよ、叶え!
魂の叫びを音楽制作会社のある方角へ放った。
*
発表予定日の日曜日が来た。落ち着かない午前中を過ごしたあと、カツカレーを買うためにスーパーへ行った。必勝を期すためになんとしても食べたかったが、残念ながら棚にはなかった。
がっかりした。それに、嫌な予感がした。悪いことが起こる前触れのような気がして、気持ちが沈んだ。それでもそんな暗示に振り回されていたら運気が下がると思い直して、代わりのものを探した。
すると、アジフライが目に止まった。分厚くておいしそうだったので、ざるそばを合わせることにした。
売場に行くと、乾麺と生麺が並んでいた。いつもは安い乾麺を買うのだが、それでは良い結果は得られないと思って、生麺に決めた。
アパートに戻って、ざるそばを湯がき、冷水で洗って、よく水を切って、皿に盛った。そして、そばの上にワサビをちょんと付けて、一口すすった。
う~ん、旨い!
乾麺とは風味が違っていた。
少しリッチな気分になったので、すぐにアジフライに味ぽんをかけて食べた。すると、肉厚の身が口の中を満たして、至極を連れてきた。
たまらんな~、
思わず独り言ちた。
食べ終わって、残ったつゆにそば湯を足した。すするように飲むと丁度いい塩梅で、思わず頬が緩んだ。
13時になった。電話がいつ来てもいいようにトイレでオシッコを絞り出してから、ちゃぶ台の前に座って、台の上に置いたスマホに向かって両手を合わせた。
受賞しますように!
正座をしたまま、何度も祈った。
祈り続けた。
しかし、1時間経っても、2時間経っても、夕方になっても、スマホは無言を貫いた。
そりゃそうだよな~、そんな簡単に受賞できるわけないよな~、
受かることしか考えていなかったわたしは自分の単純な思考回路に苦笑するしかなかった。
これ以上待っても仕方がないので、タオルと下着を持って銭湯に向かった。




