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本当に本当?

 

 番台に座る顔見知りのおばちゃんに460円を渡して脱衣所に入ると、白髪のお爺ちゃん二人がパンツを脱いでいた。その近くでは太った中年のおじさんがフルチンで扇風機の前に立っていた。わたしは三人を見ないようにして浴室のドアを開けた。


 風呂椅子にシャワーをかけて、タオルで拭いてから座り、髪の毛を洗ってから体を洗った。かけ湯をしてすぐに浴槽に浸かる人が多いようだが、わたしは全身をきれいにしてからジェットバスに入って、心ゆくまで刺激を楽しむ。そして、肩も背中もお腹も満遍(まんべん)なくブルブルさせて、気持ちよくなったところで温めのお湯に浸かれば、もう何も言うことがない。


 あとは冷たい牛乳を1本飲めば完璧だ。さっと体をふいて、パンツいっちょでごくごくと喉に流し込むと、いつものように極楽至極の世界がやってきた。


「今日も気持ちよかったです」


 番台のおばちゃんに会釈(えしゃく)をして、健康優良児のような顔になってアパートへの道をゆっくり歩くと、月は満月、風はビロードで、思わず鼻歌が出てしまった。


 しかし、ドアを開けた瞬間、変な音に気づいて、身構えた。低い唸り声のようなものが聞こえるのだ。


 なんだ? 


 恐る恐る音のする方へ近づくと、ちゃぶ台の上でスマホが唸っていた。慌てて手に取ろうとしたが、掌に納まらず、畳の上に落としてしまった。すぐに拾って、応答操作をして耳に当てたが、既に切れていた。画面には知らない番号が表示されていた。


 もしかして……、


 その番号を検索すると、音楽制作会社の番号だということがわかった。


 かけてみようか、


 しかし、躊躇った。


 もう少し待ってみよう、


 スマホをちゃぶ台の上に置いて、その前に正座した。


 30分待ってしびれが切れたので、思い切って電話をかけた。

 すぐに繋がった。用件を告げると、「しばらくお待ちください」と言われたが、1分も経たないうちに男性の声が聞こえた。


「何度もかけたのですが、お出にならなくて」


 スマホを耳に当てたまま、わたしは深くお辞儀をした。

 自分以外、誰もいない狭い部屋で深くお辞儀をした。

 顔が紅潮しているのが自分でもわかった。

 しかし、スマホをテーブルに戻した瞬間、現実感が遠のいた。


 本当? 

 本当に本当?


 俄かには信じられなくて、頬をつねった。


 痛かった。

 かなり痛かった。

 夢ではなく、本当だった。

 わたしが応募した歌詞が新人デュオのデビュー曲に採用されたのだ。



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