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奴が帰ってきた

 

 とある休日──金城は家で寝転びながら漫画を静かに読んでいた。同じ部屋には修吾と大知もおり、二人も静かに漫画を読んでいた。

 修吾が次の巻を取ろうとしたが棚にはその漫画の次の巻はもうなかった。


「金城、次の巻は?」

「その漫画途中からダレて面白く無くなったから、そこで買うのやめた」

「マジかよ」

「それに次の巻に新キャラ5人出てきて、いきなりそいつらの回想が入って数巻使って、そこから敵の回想に入って5・6巻くらい回想シーンまみれで全然ストーリー進まんからやめた」

「……」

「読みたきゃ、漫喫にでもいってこい」


 金城の素っ気ない態度と答えに落胆する修吾であった。

 次に携帯ゲーム機でゲームをしている大知がゲーム画面を見せながら金城に問う。


「この敵ってどうやって倒すんだ?」

「そいつはアップル爆弾を地面に埋めて、敵を誘き寄せて──」

「あぁ〜なるほどぉ」


 大知もゲームを言われたようにやり、また静かな空気に戻った。

 そんな呑気な光景を数分後に地獄が訪れる。


 *


 金城家に荒々しくドアを開け、飛び込んで来た人物があらわれた。


「帰ってきたぞ!!姉ぇ様のご帰還だぁ!!」


 それは大きなバックを担いだ女性。彼女は金城の姉であり、目は元気一杯で、体つきも健康体そのものな雰囲気であった。

 姉は真っ直ぐと台所へと向かい、再び荒々しくドアを押し開けた。


「ママ帰って来たぜ!!」

「あら、お姉ちゃん。久しぶりに帰ってきたのね」


 金城の母はいつもニコニコしており、優しそうな表情をしていた。夕食を作っており、手際よく作られていた。


「でも、いきなり帰ってくるからご飯足りるかしら」

「まぁまぁ、アタシはそこまで大喰らいじゃないから安心してよ。それより、アイツはいるか?」

「弟ちゃんなら、部屋で寝転がってるはずよ。お父ちゃんにもあいさつしなさいよ」

「へいへい!」


 そう言って荒々しく出て行く姉に、母は優しく笑っていた。


「相変わらず元気そうでなりよりだわ」


 姉はそのままリビングでテレビを見ている父の元に駆け寄った。


「パパ!帰って来たぞ!!」

「おぉ娘か。母には会ったか」


 金城の父は金城と似たやる気のなさそうな顔で、今も気怠そうな顔をしながらテレビを見ていた。


「もちろん!」

「なら息子にも会いに行けよ。それとお小遣いはあげる気はないからさっさと帰れよ」

「んな事言うなって、愛しい娘の帰還だよ。ママも歓迎してたし」

「母は歓迎しても俺はいやだね。貪欲娘め」

「わるぅございやした。いつか、盗みに入ってやる」

「そんときは俺がぶちのめしてやる」


 そう言ってピリピリした空気のまま部屋を出て行く姉は階段の前に立つと、猛スピードで階段を駆け上がり、金城の部屋へと向かった。

 その時、2階にいる金城は瞬時に何かを察知して、ドアの前から横に転がって離れた。


「二人共に離れろ!!」

「え──」


 ドアが突然ぶっ飛んできて、二人は押し潰されるようにドアと衝突してドアと壁に挟まれた。

 金城は切羽詰まった顔でバットに握りしめて、ドアの前に立った。


「来たな姉さん!!何ヶ月ぶりだ!」

「久しぶりだな弟!!」


 睨み合う二人。そこに──


「いてて……」

「何が起きたんだ?」


 潰された二人がドアを押しのけて金城姉を見ると、二人は戦々恐々としていた。

 金城だけは威勢よく声を上げた。


「姉さん昔から俺を虐めている奴で、確か半年前に大学通い出して、そこから一人暮らししながらバイトをして、金も十分にあるはず。何故今様家に帰ってくる。帰ってくるのはお盆や正月の時って約束したはず!」

「なんで、そんな説明口調なんだよ」


 修吾がツッコむも姉と金城の話は続いた。


「アタシが帰って来たのはただ一つ!」

「何だ」

「金がないからだ!!」


 その言葉に3人がぶっ倒れて、険しい顔の金城ですら馬鹿馬鹿しくて呆れ果ててしまった。


「金がないって……まさか寮追い出されたのか?」

「まぁ、その通りだ。家賃払えなくて一週間以内に払えなくきゃ、追い出されることになった。さっきパパに言ったら、金は上げんってしつこく言われたよ」

「あの頑固父さんにゃあ、貸してくれないよな」

「ママに言うのもアレだし」

「母さんも貸してくれなさそうだし。何円くらいなんだ?」

「10万ほど……」


 金城も修吾達もドン引きした目で姉を見つめた。


「と言うわけで最後の手段としてお前にちょっと手伝ってもらう」


 金城に似たいやらしい笑みを浮かべて、金城の肩を叩いた。


「い──」

「え?一緒に行く?やっぱ持つべきは弟だな!」


 金城自身も嫌と言おうとしたが、肩を強く握り締められてものすごい痛みが襲いかかり、さらには肉を強く捻ってきて、部屋中から金城の叫び声が響き渡った。


「このクソ姉貴!」


 手を振り払い、攻撃仕掛けようとしたが金城の頭を掴み上げて地面に身体ごと叩きつけた。その後、抵抗しようとする金城を更にボコボコにして、部屋の中は色んな意味で凄惨な光景が広がった。

 金城がぐったり倒れ、この状況に修吾達はこっそりと逃げようとするも、姉と目が合い笑みを浮かべた。


「君達も来るよね?」

「「は、はい」」


 *


 3人が姉に連れられて来たのは、駅付近の大きなゲーセンであった。金城は頭に包帯を巻いた状態で来る事となった。

 道中やたら姉は周りを見渡し、キョロキョロとしていた。


「どうしたんだよ姉さん。周りを見て」

「いや、何も……おっ」


 その瞬間、姉は金城の足を引っ掛けて金城のバランスを崩した。倒れそうになる金城は対面を歩いていた人物と激突してしまった。


「いてて……」

「何だテメぇ!!」


 当たった人物は何処にでもいそうな日焼けした金髪ヤンキーであり、強面な顔で金城へと顔を近付ける。

 だが、金城は臆する事なく言う。


「あのなぁ。俺は姉さんに──」

「ウチの弟がすいません!」


 金城の顔面を蹴り飛ばして姉が話に割り込んで来た。

 先程とは違い、優しい口調と顔で男に必死に誤り、頭を何度も下げていた。

 ヤンキーは姉を見て、ニヤリと笑いながら肩を叩いた。


「へへ、口の悪い弟さんと違って優しそうで綺麗な姉さんじゃねぇか」

「本当にすいません!なんでもしますから……弟だけは……」

「そこまで言うなら──」


 その時、突然姉は目の色を一瞬にしてキレ顔へと変貌して、ヤンキーの胸ぐらを掴み、そのまま共に路地裏へと消えて行った。

 路地裏からは何回も鈍い音と、ヤンキーの情けない悲鳴が聞こえて来た。

 3人は冷や汗を掻いて路地裏を見つめていた。


「これって……」

「あぁ。姉さんの小遣い稼ぎだな」

「何だよそれ……」

「昔から姉さん。小遣い無くなるとヤンキーやら、ガラの悪そうな奴らに俺をぶつけて、怒る奴らに対して優しく謝るフリをして接近し、路地裏へと連れて行ってボコボコにして金を奪い取るんだよ。警察沙汰になったら、正当防衛だと言い切るつもりでいるようだ」

「んな、めちゃくちゃな」


 そして1分が経った時、路地裏から姉の手が出てきて手招きをして来た。

 金城らは息を呑み路地裏へと入ると、ヤンキーがボコボコにされて、意識がなく完全に気絶していた。

 姉はヤンキーの財布から札を取り、何枚かを数えていた.


「たったの3万か。もうちっと、持てよクソが」

「人使いの荒い姉だ。ところで、そいつ金目の物はないのか?」

「高級時計とネックレスは取った」

「この指輪は?」

「あんまり高くなりそうにないなぁ」


 姉弟揃って死体漁りのような事をする光景に完全に引く修吾と大知であった。

 そして姉はスマホでパンツ一丁にしたヤンキーを写真で撮り、脅しに掛かった。


「じゃあなヤンキーさん。援助ありがとう」


 そうして路地裏から出て行き、ネックレスなどを見つめてほくそ笑みながら懐にしまった。

 そして数分後、ゲーセンに到着した。


「ゲーセンに何の用だよ姉さん」

「ここで金を稼ぐ」

「稼ぐって、まさか景品で──」

「当たり前よ。あんたらは荷物持ちとして来てもらったんだよ」

「本当に人使いの荒い姉だぜ」


 ゲーセン内に入り、姉はクレーンゲームの方へと行くと思ったがメダルのスロットゲームの前に到着した。

 そしてメダル販売機で100円だけ入れて8枚のメダルを取って適当な台に座った。


「何する気?」

「メダルを稼いで、景品貰って売る」

「なるへそ」


 そう言って回転するスロットを凝視して、左のストップボタンを押した。止まったのど真ん中に7。再び凝視して、真ん中のボタンを押してまた真ん中の列に7。そして最後に右の列のボタンを押した。7が出て、777となった。

 すると大きなラッパのような音が鳴り響き、大量のメダルを獲得し、姉は喜びもせずにずっと停止ボタンを押して、何故か連続で777を出し、更にメダルを獲得して行った。

 後ろから見ている修吾と大知は引いた顔でコソコソと話していた。


「ああゆうのって、目押しで出来るもんじゃないだろ。確率じゃなかったか?」

「そう聞いた事があるが、マジで目押ししているのかな?」

「なぁ金城──」


 と修吾が隣を向くも金城の姿は何処にも無かった。

 後ろを向くと別のスロットで姉と同じで目押しで777を押し当てていた。


「何なんだよこの姉弟……」


 その後、二人は無言無表情のまま何時間もメダルゲームに没頭した。


 *


 夕方──金城姉弟は修吾と大知に大量のメダルの景品を持たせて、中古ショップへと向かった。大きな人形や小型家電製品など、計20品ほどの物を売りに出した。それとヤンキーから奪った──ではなく、援助してもらったネックレスと高級時計も売りに出した。

 そして10分後──四人は店から出てきて姉は頭を抱えており、金城はニタニタと笑っていた。


「惜しいなぁ!後2万だったなぁ!おい!」

「クソォ!」

「はっはっは!!」


 姉は札束を握りしめているが、その金額5万でありその半分がヤンキーから貰った物であったが、どうやら少し足りないようだ。

 残念がって歩いていると、目の前に大勢の人が集まって来た。


「ん?」


 姉が顔を上げると、そこにはさっきボコボコにしたヤンキーとその仲間達10人がいた。全員姉にガンを飛ばしているが、姉はとぼけた顔で男達を見つめた。


「何か用ですか〜?」

「さっき、俺の弟をボコボコにしたらしいじゃないか?」

「はぁ……めんどくさ」


 姉はボソッと言い、ため息を吐くと男達の間を抜けて、路地裏へと手招きをした。

 男達は姉の後を追い、全員路地裏へと入って行った。

 その瞬間、男達は吸い込まれるように引っ張られ、路地裏から男達の怒声と共に鈍い音が何発も響き渡った。数秒後姉の怒り混じりの声も聞こえて、男達の怒声がまた情けない悲鳴へと変わった。


「今の姉さんは誰にも止められないな」


 真顔で頷く金城。

 それから数分後、大量の札束とネックレスや時計、ダイヤなど金目の物を持った姉が怪我もなく出てきた。満足気な顔で、とても悦に浸っていた。


「えっへへ。みんな援助してくれて感謝感謝!ははは!!」

「元気になってなりより」

「まぁまぁ、みんなみんな!気分が良いからゲームでも何でも奢ってやる!!ははは!!」


 だらしなく笑い、首やネックレスを何個も引っ下げて、腕には何個も腕時計やダイヤの指輪をはめてる姉に3人は着いて行くが、その時背後から誰かが話しかけて来た。


「あら金ちゃん!」

「え?」


 姉と3人が振り返ると、そこには何人かの女子大生がいた。

 その瞬間、姉は声色が変わり、今までに聞いた事ないような綺麗で優しい声で答えた。


「みんなぁ?どうしたのぉ?」

「いや、近くのカフェに行こうとしていたんだけど、金ちゃんもどうしたの?そのネックレスやら腕時計は?」

「こ、これ?これは弟とその友達からもらったのよ。みんな優しい子だから」


 どうやら姉の大学の友達のようで、姉は3人を抱きしめて、優しく頭を撫でた。金城が恥ずかしそうに突き放そうとするも、周りからの光景に反して力強く抱かれているため、離すことは出来なかった。

 姉が離すと友達はカフェの地図が載っているスマホの画面を見せながら言う。


「今からカフェに行くけど金ちゃんも行く?」

「行く行く。私も行くわ!」


 姉は談笑を続けながら、友達共にカフェへと歩き去って行った。

 3人は姉の背中を冷ややかな目で見て、呆然と立ち尽くした。


「まさに猫を被るってこうゆう事なんだな。お前の姉さん」

「あんな乱暴な姉にも弱点があったなんて、初めて見たよ」


 その後姉はネックレスなどを全部売って家賃返済し、奪った金と売った金は10万を軽く超えたが金使いが荒いのかすぐに無くなっただとか……」

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