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労働哀歌  作者: 錫 蒔隆
12/22

最低最悪の苦役 基本時給850円

 待機の仕事で自宅待機をゆるされず、出向を命じられる。車で行ってもいいが、少し遠い。まあそこは、3000円のボーナスで釣りが出る(書いていなかったが、日雇い派遣に交通費はなし)。10時から19時の勤務、時給850円。待機の時間が8時からという名目で、8時から勤務している計算である。つまり、8時から19時までの10時間ぶんの時給と、3000円のボーナス。残業時給は25パーセント増しの1063円。実働8時間で、12026円の日当。ほんとうは働かずに5000円をもらえるのがいちばんよかったが、不労所得が5126円という計算になる。かなりの優遇措置であった。

 リネンの仕事。小遣い稼ぎに理念も糞もない。まるで想像がつかなかったが、ここで理解する羽目となる。たちこめる悪臭。4tのゲート車から下ろされる、カゴ台車いっぱいに積まれた丈夫な袋。そのなかに詰められた、汚物まみれのオムツ。臭いの淵源はこれだ。地面に開いた大きな口、回転する業務用洗濯機。袋の中身をひたすら、そこへぶちこみつづける。

 臭いはどうにか、息を止めていれば我慢できる。ただ汚穢おわいが体ぢゅうに染みわたっている気がして、昼飯のときは滅入っていた。

 ずっと動きっぱなしだった。立ちっぱなしだが、やることはわかる。山積みにされたあれらを、片づけつづければよい。私には向いているはずの作業だ。時間などあっという間に流れるはず……そんな淡い期待は、あっさりと裏切られる。澱みきった時間が、鎮座していた。忙しいうえに、まるで時間が経過していかない。ほんとうに終わるのだろうかという絶望を、鮮明におぼえている。意識は汚穢のなかに囚われて、脱けでることができなってしまうのではないか。

 2時間くらい経ったかと思い、時計を見たのだ。なんと、15分しか経っていなかったのである。嘘でも誇張でもない。デメリットしかない精神と時の部屋みたいなものだった。ただただ、私の心は亡ぼされそうになっていた。最後の1時間も、ほんとうに費消されるのかどうかを疑うほどの苦役であった。


 よく生還できたものだと、思いだすだけで身の毛がよだつ。あんな体験は、もう二度とごめんである。おろしたての軍手も、その一回きりで棄てた。12026円という日当で、心を亡ぼされかけたのだ。

 私は一日で心を折られたが、それを生業とする社員がいた。そこが高給かつ福利厚生万全のホワイト会社であったとしても、そこには転職しない。業務内容が黒すぎた。あやうく、その深淵に呑みこまれるところであったのだ。


 黒仕事 狂ひ働き 明日は来ず 澱む地獄は 来ず方知れず

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