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真約 メフィストフェレス  作者: 三文士
14/60

Young, Wild & Free

本日は二本立てでお送りします。ぼちぼち締め切りも近いので、1000%完結はできませんがなるべく更新できるよう頑張ります。またどうぞ、お付き合い下さい。

「元気してた?」


あたしはワザと、少しはにかんでアマル叔父さんに笑いかける。


「Holy shit!Mother f××'n baby!」


叔父さんは興奮すると時々黒人ラッパーみたいな喋り方をする。許してやって欲しい。


「ホントにお前かよメフィスト!ああ信じられない!!神以外のクソったれにだって感謝してえくらいだ!嗚呼、この地上でお前に逢えるなんて。」


叔父さんは涙ながらに喜んであたしを強く抱き締めてくる。正直恥ずかしい。まあ嬉しいけど。


「ああホントになんてこった。さあbabyよく顔を見せてくれ。まったくもう、見ねえ間にデカくなりやがって。」


「えへへ。」


「もっと早くお前だって名乗ってくれたらこんな面倒なことにならなかったのに。それになんだその格好は。いつもの爪と牙はどうした?それじゃまるで、人間のメスガキそのものだ。」


「アマル叔父さんだっていつもの鱗はどうしたの?サイズだって、ずっと小さくなってる。」


「流石にお前、ここでバカでかい蛇のままじゃいらんねえだろ?」


「ならあたしも一緒。蹄なんて見せらんないよ。」


「コイツめ。相変わらず口達者な娘だ。」


あたしは叔父さんと声を揃えて大いに笑う。


「あのぅ。お取り込みのとこ悪いんですがお父様。この人と知り合いなんですか?」


アカネ、と呼ばれる少女が当たり前の質問を投げかける。


「ああ。そうだったな。おう、アカネ、アオイ、マシロ。コイツはメフィストフェレス。俺の可愛い姪っ子だ。つまりお前らの、従兄弟にあたる。仲良くしろ。」


「ヨロシク。」


あたしはさっきまであたしを殺そうとしてた従兄弟たちに挨拶をした。


マシロ(イノシシ)は不服そうなツラに小声で「ヨロシク」と言っただけ。アカネと呼ばれた鹿の角を生やした少女は能面の様にニコリともせず


「アカネと申します。どうぞお見知りおきを。」


と言った。歓迎されてないのも明らかだったし、叔父さんがあたしにベタベタなのも気に食わないみたいだ。まあね。嫌われんのは慣れてる。


だけど真ん中のアオイだけは違った。


「えー!?マジで!?ウチら従兄弟なのか!?やったね道理で気が合いそうだったんだ。良かったアンタを殺さなくて済んで。アオイだよ。ヨロシクね。」


と。こっちも嬉しいね。あたしにも仲の良い従兄弟が一人できたみたいだ。



そのやりとりを聞いていた叔父さんが口を挟む。


「なんだあ?殺さなくてじゃなくて、殺されなくてだろ?まさかお前ら、コイツをヤレると思ってたのか?」


「お父様、先ほども言いましたがチェックメイトだったんです。僭越ながら、お父様が割って入ってこられなければ今頃私たちの勝ちでした。」


と、アカネは不満そうな言い方をする。しかしそれを聞いた叔父さんはゲラゲラと、大きな声で笑い出した。


「お前そらぁアレだよ。手加減されてたんだよ。だってコイツは、俺が一度も喧嘩で勝った事ないアネキと、同じくらいの強さだからな。」


「え!?」


三人姉妹が一斉に驚愕する。叔父さんはちょいと大袈裟なんだ。


「止めてよ叔父さん。同じくらいだなんて。親子喧嘩で引き分けが多いってだけなんだから。」


「はあ!?」


またまた三人一斉に。仲が良いこって。


「じゃ、じゃあお父様のお姉さんてことは」


「もしかしてもしかすると」


「リリスおば‥お姉さま!?」


「そうだ。あの『夜の女王』。んでコイツはその娘だ。」


それを聞いた三人はしばらくぼおっとしていたが誰かがふと我に返り突然揃って地面にひれ伏した。


「すいませんでしたーーー」


あたしは突然の事に驚いた。いくらなんでもそこまでしなくたって。


「コイツら三人揃って、昔アネキにシメられてんだよ。」


叔父さんはそう言いながらニヤついていた。いや、父親としてどうよ、その反応。


まあ何よりお袋も大人気ないけどさ。


「それはそうとお前、なんだってこんなトコへ来たんだ?アネキは一緒じゃねえのか?」


「ああそうだった。ようやく本題に入れる。」


ここまで来るのに実に長かった。涙が出るよ。


「実は叔父さん、いつか地獄で話してくれた例のクスリが欲しいんだ。」


「例のクスリ?なんだったっけなあ?」


アマル叔父さんはぶっ飛びドラッグ製作の第一人者でもある。ダウン・アッパー・ディープなどなど、なんでもござれのドラッグストア。


「ホラ、アレだよ。若返りのクスリ。それと出来れば顔の造形を思いのままに変えれる様なヤツも欲しいんだけど。」


「なるほどね‥若返りなら俺がたまに舐めてるヤツがあったなあ。顔の造形か‥ちいと待ってろよ。‥そうだ!!良いのがある!おいマシロ!俺の倉庫から522番と4894番を持ってこい。ダッシュ!」


マシロは凄まじい勢いで走っていった。


「ところでよ。そんなモン何に使うんだ?」


「まあ色々とね。実は‥」


そう言いかけた時、またも情けない悲鳴が上がる。


「ふえええええぇぇメフィスト〜」


見やると、防御結界にこそ入っているものの四方八方を悪魔共に囲まれて小突かれて助けを求めている源田の哀れな姿があった。


「なんだあ?あの二日前のチーズバーガーみてえな野郎は?」


「アレ、私の新しいご主人様なんだ。」


あたしがそう言うと叔父さんは特に驚いたふうも無く


「相変わらずお前は変わった趣味してんなあ。」


と言ったっきりだった。


こういうアマル叔父さんの男らしく無駄な口をきかないところがあたしは好きだ。


しばらくして、二つの瓶を抱えたマシロが戻ってきた。


「パパ!522と4894です!」


「おう。」


叔父さんは瓶を受け取ると、懐からナイフを取り出し中に入っている白い粉同士をテーブルにぶち撒けガシガシと混ぜ出した。


最後にチロっと味見をして頷いたあと


「まあこんなモンだろ。オリジナルドラッグカクテルいっちょあがりだ。名付けて『今夜はレイドバック』ってな。」


叔父さんは男らしくて最高カッコ良いんだけど、たまにちょいとセンスが古い。


「さあ、早くあのラードを連れてきな。」


叔父さんが源田を指差して言った。ラード‥ねえ。確かに!


あたしは群がる有象無象共を払い除け、ラード‥もといご主人様を助け出した。


「全く、少し目を離すとすぐピンチですね。よくそれで今まで生き残れたもんですよ。」


「うるさい!お前らの世界がイカれ過ぎているんだろうが!!私の世界ではこんなおかしな事は無いぞ。それよりメフィスト貴様!一体いつまで私を待たせるんだ!?もう用事が済んでないとは言わせないぞ!」


本当にもうこのご主人様ときたら。あたしを退屈させないどころか、労いのお言葉だって忘れない素敵な方だよクソッタレ。


「へいへい。ほんじゃま、こちらへどうぞ。」


そう言ってあたしは源田の首根っこを掴んで引きずっていく。


「わっ!?馬鹿者!もっと丁重に扱わんか!」


源田は喚いていたけどあたしはシカト。面倒だねえ。あたしは面倒臭いのが大嫌い。


叔父さんたちがいるテーブルまで引きずって来て側へ座らせた。


「なんだ!?この大量の白い粉は?」


「良いから坊ちゃん。さっさとキメなよ。さあグイとやるんだ。」


叔父さんが促す。


「なんだあこのチンピラは?」


「あたしの叔父様ですよお。」


「早くしねえと頭吹っ飛ばしちまいそうだ。」


叔父さんは源田にイライラしてる。


「叔父だと?怪しいもんだ。フン。大体なんだコレは?ヤレってのは、一体どういうことだ?」


「鼻から思いっきり吸い込むんだよ。片方の鼻の穴を指で塞いでさ。ホラ、吸い込み道具貸してやっから早くしろタコ。」


「なんだこりゃ。吸い込み道具ったって、ただ紙を丸めたヤツじゃないか。大体なんで口じゃなくて鼻から吸うんだ?口じゃいかんのか?」


叔父さんは怒りでプルプルしてきていた。


あ、ヤバい。と思った時は遅かった。


「ウダウダうるっせエエエエエエエ!!とっととブッ飛べやぁああああ!」


言うやいなや、叔父さんは源田の頭を掴んで粉だらけのテーブルにグリグリと押し付けた。


「ああばうぱうあっ!んんぼうぷふ!んんぼうぷふ!!」


という具合に、複雑怪奇な屁の様な音を出して源田は白い粉を存分に吸い込んでいる。


叔父さんの気の短いのは相変わらずの様だ。良いね。素敵だよアマル叔父さん。


いささか摂取し過ぎでは?というくらいに粉まみれになった源田を見てようやく叔父さんもクールダウンして手を離した。


「まーあこんなもんかな?どうだい坊ちゃん?なかなか上物だろ?」


そう言って叔父さんが肩を叩くと源田は突然物凄い勢いで咳き込み始めた。そうしてしばらくゲホゲホやっていたかと思うと今度はゲエゲエやり出した。


「おいおい。叔父さん、大丈夫かいコレ?ちょいとキメ過ぎたんでない?」


「大丈夫だよ。お前誰に言ってんだ?ま、見てろ。」


叔父さんはリラックスしてそう言った。


源田はそのウチ盛大にえずき始めた。


「おゔぇえええぇええおゔぇえええ」


食事中の方は失礼。だが事実なので。


「ねえ叔父さん。オーバーしてんじゃない?」


あたしが不安そうに聞くと。


「良いから。俺を信用しろよ。ホラ!出たぞ!」


そう言われて見やると、源田の口から白くてネバネバした大きな塊は吐き出されたとこだった。


「嗚呼!!ファ×ク!!フ×ック!!なんだよなに吐いたんだ!?」


あたしは思わず声を上げたが叔父さんは至って冷静だった。信じられない事に叔父さんは源田が吐いたモノをプニプニと触っている。


「ああ、出た出た。コレは‥欺瞞だな。」


「欺瞞?」


「そうだ。おっまた出た。」


源田はゲエゲエとしながら次々と白い塊を吐き出している。正直、すこぶる気持ち悪い光景だ。


「コイツは虚栄心。こっちは猜疑心だな。コレは責任。後悔。忍耐。建前‥っと。いやしかし坊ちゃん。この年齢の人間にしちゃキレイなもんだぜ。見なよ。坊ちゃん随分スッキリしたぜ?」


確かに、吐き出した後の源田はかなりスマートになっていた。ブヨブヨと付いていた脂肪は見る影もなく、哀愁の漂っていた頭部にはオアシスの豊かさが取り戻されていた。脂だらけだった肌には代わりに潤いがもたらされ、歳の頃なら十九、二十歳の青年といった身体つきになっていた。


身体は、ね。だが顔は前の源田一(げんだはじめ)のまま。むしろ若くなった分余計にキツい。


暑苦しさが増して、若い男特有の生臭さというか青臭さというか。兎に角見るからに臭い。


爽やかさが微塵もない。こりゃ源田の若い頃は相当女っ気がない青春だったろうに、とあたしは密かに同情する。


「なあアマル叔父さん。確かに若返りはしたけどさ。顔がこれじゃ色々と不都合が‥」


「焦るんじゃねえよ。ここまでは第一層だ。ここから第二層へトリップだ。」


そう言って叔父さんはフラフラと立ち尽くしている源田の肩に手を置いて耳元で語りかける。


「おーい坊ちゃん。聞こえてるか?テメエは今、産まれ変わっている最中だ。余計なもんが削ぎ落とされて言わばお袋の腹ん中にいるも同然の状態だ。」


「うん。」


源田は虚ろながら弱々しく頷く。


「そこでだ。テメエは本当はどんな人間になりたい?言ってみろ。今のテメエなら、クソみたいな建前だのを気にせず心底叶えたい自分の欲望を言えるはずだ。さあ言ってみろ。夢を、現実にしてやる。」


源田は目を閉じたまま少しだけ考えて、ゆっくり喋り出した。


「若手イケメン俳優みたいに、笑っただけで女の子からキャーキャー言われる顔になりたい。元トップアイドルの子をお姫様抱っこできるくらいのイケメンになりたい。」


「続けな。」


「そもそも私だって、何も好きでこんな暑苦しい顔に産まれたわけじゃない。子供の頃から不細工だなんだと言われて本当に辛かったんだ。勉強したって、スポーツを頑張ったってそこまで出来たワケじゃないから、誰も見向きもしてくれない。全てはこの顔のせいだ。もっと良い顔に産まれてれば。もっと違う人生だったはずだ。もっと人に愛されたい。もっと幸せになりたい。もっともっと、華やかな世界で生きていたいんだ!!!」


「じゃあそうなれば良い。」


そのうち、源田の顔に変化が現れ始めた。突然肌が真っ赤になり顔中からもうもうと煙が立ち込めだした。


「ふぁああっ!ふぁああっ!熱いっ!熱いっ!助けっ‥水をっ!!」


源田は顔を手で覆い、そこら中を転げ回る。


「ダメだ。その熱はテメエの欲望そのものだ。それほどテメエの業は深い。受け容れろ。テメエがいかに下賤で低俗な人間かを。」


「うあああああああああ。」


まるで炎に焼かれている人間そのものだった。だけど願いにはいつだって、相応の対価が必要になる。そうしてしばらく肩で息をしていたが、やがて落ち着きを取り戻した。


「オーケイだ。仕上がったぜ。坊ちゃん、メフィストに顔を見せてやんな。」


立ち上がってこちらを向いた源田を見て、周りにいた全員が息を呑んだ。


まあよくいる整った顔立ちってのの見本みたいな面だった。一見すると人懐っこい顔なのだがそれでいてどこか憂いを帯びている。パーツひとつひとつの調律がとれていて、絶妙のバランスを保っている。中性的な様でもあり、しかし角度によっては猛々しい程の男らしさを感じてしまう。


ま、つまり女連中はこの手の顔にはとんと弱いってこと。


その証拠にさっきまで見向きもしていなかったマシロやアオイ、アカネまでもが源田の顔に見惚れていた。


え?あたし?うーん、まあ男の魅力ってのは顔だけじゃないと思っているからねえ。そりゃあ良いに越した事は無いけど。どちらかと言えば、あたしは前の顔の方が愛嬌があって良かったと思っているくらい。


兎に角、自分の欲望に素直になった事でやっこさんはグッと地獄に近づいた。この勝負、あたしが一歩リードした。


男前になった源田はマシロが持ってきた鏡を一心不乱に覗き込んでいる。


「これが私?これが?ホントに?イ、イケメン過ぎる。」


「うんうん。」


「確かに。」


「間違いなく。」


というやりとりを、もう三度も繰り返している。バカかコイツら。


「上手くいったじゃねえか。」


「うん。みたいだね。ありがとうアマル叔父さん。」


叔父さんはいたく上機嫌だ。


「ところでこれからどうするんだ?坊ちゃんと冒険の旅にでも出るのかよ?」


「うーんどうだろ。行き先は全然考えてないんだけど。まあどっか適当なトコにでも行ってハーレムでも作って満足してもらうさ。あの顔なら、女を誘って断られるって事はまずないでしょ。」


「さあてな。そう簡単にいくかどうか。」


「だね。」


「何にせよ。困ったことがあったらいつでもここへ来いよ。俺はお前の叔父貴なんだぜ?遠慮なんかしやがったら‥」


「消し炭にするぞ?だね。」


「解ってんじゃねえか。それで良い。」


お互いに笑い合った。


その時にわかに風が起こり、突然床から炎の柱が上がった。


「はろーメフィスト。地上は慣れたかい?」


「ニッキー!?」


炎の精であたしの古馴染みのニッキーが突然現れた。だが今回はあたしが呼んだわけじゃない。


「この間の契約は上手くいったみたいだね。」


「お陰さまでね。良い炎だったぜ?」


「どういたしまして。」


「おうニッキー、久しぶりだな。」


「アマル様もお変わりなさそうで。相変わらず渋いですね。」


ニッキーは仕事の最中は寡黙だがプライベートの時はよく喋る。


「ところで今日は何しに来たの?その様子じゃ仕事じゃなさそうだけど。」


「ああ、メフィストにメッセージを預かって来たんだ。」


「あたしに?誰から?」


嫌な予感がした。


「リリス様だよ。」


「げ。お袋かよ。」


「げ。アネキかよ。」


ほぼ同時だった。


続く

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