第1話 ヨット部に入る
大学入学後、オリエンテーションに出席のため校門を入ると、広場の片隅にヨットが展示されている。
興味を惹かれて傍まで行くと、部員が艇の説明をしてくれる。
2人乗りのレース艇らしい。
まあ、人寄せパンダのようなものだ。
お情けで入学できた私は、改めて自分も在校生であるという実感を覚えたものだった。
艇内には、ロープが何本も複雑に絡んでいる。
さっぱりわからん。
試乗会を行うのでぜひ「遊びに来てくれ」とのこと。
うっかり出かけて行ったのが運の尽き。。。
艇庫は某市の南岸にあり、同水域6校の艇庫が並んでいた。
それ以外の学校は、別の場所に艇庫がある。
練習は、事前の準備から始まって練習海面まで帆走させるため、一般のスポーツと比べて手間と時間が必要になる。
このため、練習日は合宿となる。
毎週、米と合宿費をマネジャーに納めなければならないが、ビンボーな部員は米だけで勘弁してくれる。
地方出身の学生は、下宿代だけでも負担が大きいので当然ともいえるが、わたしと同期の相棒もずいぶん米だけで勘弁してもらった。。。
それをマネジャーから責められることはなかった。
思い返すのは、入部して初めての合宿の夜、消灯後のことだ。
新入部員は、20~30名ほどいた。
その中の一人が、コソコソと「辞めようぜ」と皆を唆している。
何だ、こいつら!?
辞めるのは自由だ。
だが、徒党を組まないと退部することもできないのか!?
クソどもめ!
私自身、このまま部活を続けるか否か、まだ決めかねていた。
それでも、こんな連中と一緒に退部することだけは、断じてクソクラエだと思った。
二度目の運の尽き。。。
私のヨット部生活が始まった。
次の合宿では、新入部員は半数になっていた。
数か月後には、さらに半数。
その後も、学年が上がるにつれて、様々な事情で退部する者が続いた。
最上級生になったとき、同期で残っていたのは、私を含めて3名だけだった。
私は、なぜ残ったのだろう???
<ヨット用語解説>
この解説は、各エピソードページの下部(あとがきの下)にもリンクを貼っています。
【あ】
・A級ディンギー:
1枚セイルで、木造12フィートの古典的小型ヨット。
学生ヨット連盟の採用艇種であったが、1973年に470級に艇種変更された。
・アカ(垢):船底に溜まった汚水。
・アカクミ:ディンギーでは、艇の底に溜まった水を容器でかき出すこと。
・アカ船:艇内が水で満たされて帆走不能になる状態をいう。
・オイルスキン:防水ウェア(合羽・セーリングジャケットなど)全般のこと。
【か】
・カツオカッパ:昔ながらの黒くゴワゴワした漁師カッパ。
・ガフ:セイルを吊り上げる帆桁ほげた(横桁)。当時は竹材を使用していた。
・艤装ぎそう:ヨットでは、帆走するために必要な装備を艇に取り付けること。
・完沈 (かんちん):クジラ
艇が転覆してマストが真下を向き、船底が完全に上を向いた状態。
その様子から「クジラ」と呼ばれる。
・クルー:ディンギーでは、ジブセイルを操作および艇のバランスを取る。
・クローズホールド:向かい風に対して、約45度で進んでいる状態。
【さ】
・シート:セイルを操作するロープをこう呼ぶ。
・シバリング(シバ):セイルが風をはらまずにバタバタと力を受け流している状態。
・ジブ(セイル):マストの前部に取り付けられる三角形の小さな帆。
・ジャイビング(ジャイブ):風下に向かう帆走で、セールの向きを左右入れ替えること。
・スキッパー(艇長):ディンギーでは、メインセイルと舵を操作し、艇のバランスもとる。
・スターン:艇尾を指す。
・スナイプ:学生ヨット連盟の採用艇種で、2枚のセイルを張るスループ艇。
・スピンネーカー(スピン):追い風のとき、船首側に張る風船のような形のセール。
・スループ艇:1本のマスト前方にジブ、後方にメインセイルを配置したヨット。
・セルフベラ(オートベイラー):
艇の底に取り付けられている開閉式の弁。
一定のスピードで帆走すると、自動的にアカが外へ吸い出される。
・センターボード(センター):
ディンギーの船底に設けた揚降可能な板
艇の横流れを防ぐために設置される。
追い風で必要がないときは、引き上げる。
【た】
・タッキング(タック):
ヨットは構造上、風位ふういに向かって真っ直ぐ進むことができない。
風上に向かって、ジグザグに蛇行しながら進む必要がある。
その進行方向を変える切り返し動作をタックと呼ぶ。
・沈:ちん
ディンギーは、転覆しても、浮力があるため沈没しない。
「没」しないので「沈」と呼ぶ。
・デイセーリング:日帰りで、のんびり帆走を楽しむこと。
・ディンギー:セーリングでは、エンジンを持たない小型のヨットを指す。
【は】
・ハイクアウト:上半身を艇の外へ乗り出し、ヨットの傾きを体重で抑える動作。
・バウ:艇首を指す。
・バウ沈:
艇がバウから波に突っ込み、一瞬でアカ船になって沈すること。
Á級ディンギーでは、強風のランニングでその危険があった。
・浜:私たちは、艇庫の場所を「はま」と呼んでいる。
・帆装:マストの本数、セイルの種類・枚数・配置による構成のこと。
・半沈 (はんちん):艇が90度横倒しになり、マストや帆が水面に浸かっている状態。
・風位:風の吹いてくる方向。
・フットベルト:ハイクアウトの際に足先を掛けるため、コクピット床面に固定されたベルト。
【ま】
・真風:関東以西では、南風をこう呼ぶことが多い。
・メインセイル(メインスル):メインマストの後部に取り付けられる三角形の大きな帆。
【や】
・470(よんななまる)級:
全長470cmの2人乗りレーシングディンギー。
学生ヨット連盟の採用艇種。
オリンピックのセーリング種目にも採用されている、
追い風で使うスピンネーカーを装備している。
【ら】
・ラグセール:ヨットや帆船に使われる不等辺四辺形の縦帆
・ランニング:追風帆走。
ヨットはその構造上、真風下(風位180°)には走れない。
そのため、斜め後ろから風を受けて帆走する。
風下マークが2時30分あるいは、10時30分に見えた地点でジャイブしてマークに向かう。




