52:考える余裕
本日もよろしくお願いします。
九日目、午後。
冒険者組は、
一度前線配置から外されていた。
防衛任務は長期戦だ。
常に全員を戦わせ続ければ、
集中力も判断力も鈍る。
巡回。
待機。
迎撃。
休息。
それらをローテーションしながら、
防衛線を維持している。
今は束の間の休憩時間だった。
簡素な休憩所。
ミナは椅子へ腰掛け、
腕へ巻かれた包帯を触る。
「いったぁ……」
「だから避けろって言っただろ」
セスが呆れたように返した。
「避けたって!ちょっとタイミングズレただけ!」
「その“ちょっと”で斬られてんだよ」
ミナが口を尖らせる。
だが、その場の空気は、どこか重かった。
今日の戦闘。
勝てはした。
だが、明らかに戦いづらかった。
「……レオン居ないだけで、
こんな変わるもんか?」
カイルがぽつりと呟く。
「索敵役抜けたら、
そりゃ面倒ではあるでしょ」
ミナが軽く返す。
「いや、そもそもあいつ、斥候じゃねえだろ」
セスが静かに口を開いた。
全員の視線が集まる。
「召喚士だぞ。本来は支援役だ」
その言葉で、場が少し静まる。
確かにそうだ。
レオンは、前衛でも斥候でもない。
本来なら、前衛を支え、補助し、戦いやすくする側。
索敵専門ではない。
「今日、敵の数把握するだけでも遅れただろ」
「まあ……うん」
「右見るか、前見るか、エリスさんの指示待つか」
「全部、
自分で考えなきゃならなかった」
そこでミナが眉を寄せる。
「でもそれ、普通じゃない?」
⸻
「普通です」
答えたのは、エリスだった。
「本来、各自で周囲確認をして、指示と状況を照らし合わせて動きます」
それが戦場の基本。
勝手な突出は危険。
だから指揮系統へ従う。
それ自体は正しい。
「ですが……」
エリスは少し考えるように目を伏せた。
「レオンさんが居る時は、その負担が大きく減っていました」
皆、静かに耳を傾ける。
「敵の位置、接近してくる方向、危険な場所。
こちらが確認する前に、先に共有されていた」
⸻
『右から来ます!』
『後方二体!』
『左側、死角です!』
⸻
思い返せば、確認する前に、情報が来ていた。
「つまり俺たち、戦闘だけに集中できてたんだ」
カイルが呟く。
セスが頷いた。
「判断の数を減らされてた」
⸻
「敵探して、数確認して、位置見て、味方見て、指示聞いて、自分で動く」
「本来、全部同時にすべき事なんだ」
その言葉で、皆少し黙る。
するとカイルが、ふと思い出したように言った。
「でも、見張り台でも観測してるよな?」
防衛拠点なのだ。
当然、監視兵も配置されている。
森側には常時見張りが立ち、
接近する魔物の報告も行われていた。
エリスは頷く。
「しています。
ですが、どうしても伝達に時間差が出ます」
「方角確認、伝令、指示伝達。数秒の作業です。」
「しかし、戦場では、その数秒が大きい」
そして。
「レオンさんは、現場で直接共有していました」
「しかも、かなり正確に」
その意味を、皆、ようやく理解し始める。
レオンは単なる支援役ではない。
“現場で即時に情報整理を行う支援役”。
それを。
戦闘中ずっと続けていた。
セスが小さく息を吐いた。
「……そりゃ、あいつだけ疲弊するわけだ」
誰も、
言葉を返せなかった。
「楽だったんだよ」
「確認も、判断も、危険察知も」
「気づけば全部、あいつ頼りになってた」
セスは苦い顔のまま続ける。
「俺たち、自分で戦えてるつもりだったんだな」
沈黙が落ちる。
その後。
エリスが静かに呟いた。
「……私も、止めるべきでした」
「被害が減っていたから、頼ってしまった」
その言葉は、
誰への言い訳でもなかった。
ただ。
現実を認める声だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少し長くなってしまいました。
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