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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード
王都研究所編

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135/135

135:召喚士の常識

本日もよろしくお願いします。

研究院の廊下を歩きながら、レオンは先程までの会話を思い返していた。


ヴァイス、そして、エドガー。


同じ異常個体を見つめながら、

二人とも未来を見据えている。


だが、見ている景色はまるで違う。


そんな事を考えながら歩いていると、不意に背後で扉が開く音がした。


「レオンくん」


ヴァイスだった。


研究室からひょっこりと顔だけを覗かせている。


「まだ居ましたかァ」


「はい?」


「少し思い出した事がありましてねェ」


ヴァイスは手招きする。


「少しだけ付き合ってください」


「……本当に少しですか?」


ヴァイスは答えず、ニヤッと口角を上げた。


嫌な予感しかしなかった。



結局、レオンは再び研究室へ戻る事になった。


ヴァイスは慣れた手付きで紅茶を淹れる。


机の上は相変わらず酷い有様だった。


骨鳥の骨。

異形化した触手の標本。

書きかけの資料。


どこに座れば良いのか迷うほど散らかっている。


「さて」


ヴァイスが向かいへ腰掛けた。


「一つ、お聞きしたい事があります」


「何でしょう?」


「君」


一拍置く。


「召喚士としての知識、少な過ぎませんか?」


レオンは目を瞬かせた。


「え?」


「いや、本当に」


ヴァイスは苦笑する。


「先程から話していて違和感があったんですよォ」


「契約の知識も、召喚獣の常識も。

他の召喚士なら当然知っている事を知らない」


スッと目を細め、レオンの方を向く。


「逆に、誰もやらない事を当たり前のようにやっている」


「非常に、興味深いですねェ」


褒められているのか分からず、レオンは頭を掻いた。


「そう言われても……」


ヴァイスは少し身を乗り出す。


「どこで召喚術を学んだんです?」


レオンは少し考える。


答えは簡単だった。


「リスベルの冒険者ギルドです」


「ギルド?」


「はい」


少しだけ遠くを見るように目を細める。


「あの頃の俺は、何か一つでも武器が欲しかったんです」


ヴァイスは黙って聞いている。


「前衛みたいに強い身体がある訳でもない」


「剣も槍も人並みでしたし、魔法も、正直からっきしで」


苦笑する。


「だから、何か一つでも身に付けないと、冒険者としてやっていけないと思ってました」


「その時に色々探していて見つけたんです」


「ギルドの資料室にあった、召喚術に関する古書を」


ヴァイスは静かに頷いた。


レオンは続ける。


「誰が書いた本かも分かりません」


「表紙が無い物もありましたし、途中のページが抜けている物もありました」


「他にも召喚術に関する本が何冊かあったので、読み比べながら内容を整理していったんです」


少し苦笑する。


「『そんな失敗作まだ残ってたのか』とか、『役に立たない古書だ』とか、そんな事を言っていました」


ヴァイスの手が止まった。


レオンは気付かず続ける。


「でも、召喚術の本ってそれしか無かったので」


「足りない所は他の魔術理論書なんかも参考にして、何とか召喚まで辿り着いた感じです」


研究室から音が消えた。


ヴァイスは数秒動かない。


やがて、小さく息を吐いた。


「……なるほど」


その声色は、先程までとは少し違っていた。


「何か変でしたか?」


「変ですねェ」


即答だった。


「かなり」


レオンが苦笑する。


ヴァイスは立ち上がり、本棚から分厚い本を取り出した。


「召喚術という技術はですね」


本を机へ置く。


「非常に、閉鎖的です」


指を一本立てる。


「一子相伝」


もう一本。


「一族相伝」


さらに一本。


「師弟」


「基本的には、このどれかになります」


「王都では基礎講義がありますから、初心者向けの召喚理論や契約術式くらいなら学べます」


「ですが」


本を閉じる。


「そこから先は違う」


「召喚獣ごとの扱い方、契約術式の応用、魔力経路の調整などなど......」


「そういったものは、各流派が何代も掛けて磨き上げた財産です」


「簡単には外へ出させません」


レオンは静かに聞いていた。


ヴァイスは腕を組み、感嘆したように言った。


「つまり、君は、その体系化された知識をほとんど学ばずに召喚士になった訳ですねェ...」


「……そう、なりますね」


「普通ではありませんねェ」


即答だった。


「少なくとも私は聞いた事がありません」


レオンは少し困ったように笑う。


「他に方法が無かったので」


「ええ」


ヴァイスも頷いた。


「そこなんです」


魔眼が細くなる。


「私は今まで、レオンくん自身がおかしいのだと思っていました」


「ですが、違うのかもしれません」


レオンが顔を上げる。


「違う?」


ヴァイスは机へ紙を広げる。


中央へ大きく円を書く。


そこから何本もの線を伸ばした。


『王都式』


『北方流』


『東部式』


『古典召喚術』


幾つもの理論体系が枝分かれしていく。


そして最後に、少し離れた場所へもう一つ円を書いた。


『レオン』


線は一本も繋がらない。


ヴァイスは何本か線を引こうとする。


だが、途中で止まる。


結局、どの線も繋げなかった。


「……分からない」


ぽつりと呟く。


「君が学んだ召喚術は、どの体系にも綺麗には当てはまらない」


「まるで別のところから急に生えてきたようです」


レオンも図を見つめる。


今まで疑問に思った事は無かった。


本に書いてある通りに学び、試行錯誤を繰り返した。

そうして、失敗を重ねて今に至った。


それだけだと思っていた。


だが、もし、その本自体が特殊だったとしたら。


自分が当たり前だと思っていた知識は、本当に当たり前だったのだろうか。


研究室へ沈黙が流れる。


やがてヴァイスが指を鳴らした。


「そうですねェ」


何か思い付いたようだった。


「一番早い方法があります」


「早い方法?」


「比較対象を見ればいい」


ヴァイスは笑う。


「私の友人を紹介しましょう」


「......友、人...?」


「ええ」


当然のように頷く。


「王都で活動している召喚士です」


「実力も折り紙付きですよォ」


少しだけ間を置いてから付け加える。


「......向こうがどう思っているかは知りませんが、私は友人だと思っています」


レオンは思わず吹き出した。


「おそらく、君にとっては、非常に面白い出会いになります」


魔眼が愉快そうに細まる。


「何せ」


「君とは、正反対の召喚士ですからねェ」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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