第五試合 中国拳法VSカポエイラ 2
「ぐおっ!」
まるで、地に足を付ける必要がないかのようなザジの動きに、李はついて行けずに後ろへ飛ばされる。
ザジの前蹴りが追って来た。捌こうと右にかわすと、その蹴りが変化し、李の腰に巻き付く。
「何!?」
ザジはそのまま、李に足だけで組み付き、のしかかるように李に体重を預けて来た。二人の体が、立ったまま重なる。
「カベサーダ!」
そう叫ぶザジの手技を警戒した李は両腕で顔面をガードした。その腕を、ザジは自らの両手で掴んで引き下ろす。
戸惑う李の、剥き出しの顔面に、ザジの頭突き――頭が叩き付けられた。
がぎゃんっ!
強烈な頭突きに、李の意識が飛び、体が沈みかける。もう一撃、と狙うザジの頬に、朦朧としかけながら放った李の右の突きがかすった。
「むうっ」
元より、倒れかけている李にしがみついたままではいられない。ザジは李に回した足を解いてバックステップした。
しかし李は、意識を薄れさせながらも、その動きを、ザジが離れる直前の足の筋肉の緊張から読んでいた。
今の弱った李に、間違いなくザジはすぐさま追撃を放って来るだろう。今のはそういう動きだ。そこまで読み取っている。
果たして、鞭のような、ザジの右蹴りが飛んで来た。
李は体ごと前に詰めた。ザジの蹴りはヒットポイントをずらされ、有効打にならない。
やや低い位置にあるザジの頭目がけて、李が中段突きを出した。ザジがスウェー気味に体を起こしてそれをかわす。
この試合で始めて、互いの手の届く間合いで、カポエイリスタの背筋が伸びた。
李が更に踏み込む。畳を弾けさせる勢いで右足底を床に叩き付け、中段の肘をザジの胸の中央に突き出した。
ザジは両腕を交差させてガードする。
李の鋭角の肘がそのガードに突き刺さった。予想を超えた激痛にザジの体が硬直した一瞬、その肘を支点にして、李は右手を跳ね上げ、手の甲でザジの顔面を叩く。
ザジの瞼の裏に火花が散った。そして次の瞬間には、李が翻した右の掌底が、ザジの下腹部を強く打った。
「がはッ!?」
『ああっ!? こ、これは金的!?』
『違うな。恥骨だ。だが本来は金的を叩くコンビネーションなんだろうよ。一番威力のある肘が噛ませで、急所を狙ったその後の二発の方が本命ってわけだ。腰の入ってねえ手打ちでもあれは効く。八極拳は、急所や骨を、骨で打つ。胸だの腹だのわざわざ鍛えられた部位を狙うなんて非効率的な真似はしねえ。だから言ったろ、いてえってよ』
だんっ!!
再び激しく踏み込んでの肘が、上下の急所を打たれて動きの止まったザジの顔面に吸い込まれた。まるで蹴り飛ばされたサッカーボールのように、ザジの頭が後ろへ弾け飛ぶ。
鮮血が試合場にしぶいた。
それでも何とか踏ん張ったザジのみぞおちに、三度中国拳法の肘が刺さった。
「げぼアッ」
体を折れ曲がらせたザジの顔面が、中段の位置まで下りた。
四度目の肘を入れられる恐怖に、咄嗟にザジは両腕を交差して顔面を守る。
しかし、李の肘は前ではなく、上から襲い掛かって来た。しかも、下から跳ね上がった膝と共に。
ゴギイッ! と鈍い音が響いた。
李の右肘と左膝で、同時に頭と顎を挟むように打たれたザジの意識が、その衝撃で完全に飛んだ。
ザジの体は、筋肉の緊張を失い、真下に崩れ落ちた。
一度座るような格好になってから、ぐにゃりと仰向けに倒れる。
その顔は、血に染まっていた。
審判がさっと手を挙げる。
『なんとおおおお! 一本! それまでです! 途中まで、完全にカポエイラ有利だったはずです! それがひとたび接近してからの中国拳法、速い! 速い! まさに瞬殺! 凄まじいまでの威力でした!』
『あれだよ。中国拳法を相手にする時ってのは、攻撃することが最大の弱点になりやがる。調子に乗らせりゃ、一呼吸でああなるのさ』
「おい、カポエイラ、いや、聞こえてないか。私が、楽しんでいないといったな」
試合場の外から、担架が運ばれてきた。ザジの体はピクリともしない。
「なかなかに楽しい気分だぞ。お前が私の技を受けてそこに転がり、血まみれで担がれていくのを見るというのはな」
第五試合
I李洋海○
Jザジ・ギルクキニ●




