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第二話 臆病者の脱走

目が覚めた時には、見知らぬ天井と天蓋が・・・ということはなく、

気づいたら、自分の左手がぶらぶらとしているのが見えた。

ええ、なにが起こったの?手がどうしてぶらぶらしてるの?ここはどこ?

混乱している頭に急に音声が戻ってくる。

「だから、召喚は必要無いと言ったはずでしょう!」

「まさかこんな子供がやってくるとは思わなかったのです!コードラの碑文には猛き召喚獣の絵巻がのっていたのでしょう?!」

「だからそんなおとぎ話を信じているのがそもそもおかしいだろうっ!?」

「火急の自体とは言え、いかがされましょう、この娘の姿形では使えない」

心臓がどくっと一はねして、瞬時に頭が冴えた。驚きにまぶたが音を立てて開きそうになったけれど、ゆうの本能は薄目を開けていた瞳をゆっくりと慎重に閉じた。慎重に、慎重にそう無意識にとなえながら。





頭の中を大量の疑問符をかけめぐるのを意識しながら、ゆうは息をひそめた。

「陛下、怖れながら申し上げます。姫君をどこぞの部屋にお連れしたいです。偲んでいるとは言え、どこに人目人耳があるか存じませぬゆえ」

頭の上からダイレクトに聞こえた。そして、声だけじゃなくって振動が・・・ってことは。

長い髪が垂れた頭を幸い、まだ目が覚めたことに気づかれてないみたい。一筋の冷や汗がひそかに背中に流れたような気がした。

「・・・っ。そうであったな、ドレークそいつをどこぞの人目につかぬ部屋へ・・・人払いをしておけ!」

自分を抱き上げた腕は、ままならぬながら礼の形をとったらしいことを感じながら、

堅い腕らしきものを抱きあげられた力の抜けた体を意識しないように、ゆうは状況を伺っていた。

この騎士みたいな人たちに、自分の目が覚めていないふりが気付かれていないか戦々恐々としながら。

じっと、じっとしていれば危害は加わらないのかもしれない、とにかく今は。

意識すれば絶叫してしまいそうになる混乱の中、思わずひたすらに息をひそめたのは声が出なかったのか、それとも臆病者の本能かは分からなかった。

「お師匠様、この件は魔法塔の方に報告はいかがいたしましょうか、もともと・・・」

今だに続く中庭での緊迫感をはらんだささやきあいからだんだん離れていくのを感じながら、ゆうは死んだふりってこういうことを言うのかなと場違いなことを考えた。





降ろされたのはどうやら柔らかなベットの上だった。

ドレークらしい腕が離れて部屋から出ていって、そうして部屋から離れるには十分な時間がたったことを確認して、ゆっくりと瞼を開けた。

他の人が部屋にいるみたいなことはないらしい、と怖れれていたことを確認してゆうは一息をついた。

とにかく今は、ゆっくり一人で何がどうなってるのかを確認したかった。

部屋はいや屋敷中はゆうを歓迎しないかのようにしんと静まり返っていた。

ベットが置かれていたのは、ホテルのような一室で、簡単だけれど中世ヨーロッパのお城の中のような厚い絨毯と重厚な家具が少し置いてあった。

そしてその向こうには窓があり、そのさらに向こうには庭園らしきものがすぐ近くに広がっていた。

一階なのかな?そんなことを思いながら半身を起して、一人きり取り残された部屋の中、窓に見えた景色を長い間眺めていた。いつのまにか暮れゆく夕日が美しかった景色には、月が昇っていた。

大兄によく「童顔でもないのに年下に見られるのはしっかりしてない腑抜けだからだ!」と言われたその顔に、呆然としたような土気色の表情をはりつけたまま、ゆうは決意した。

「・・・逃げよう」






ゆうが慎重に辺りを確認して、泥棒のようにしげみにもぐりこんでいった庭園のその天辺の空には、赤と青に輝く巨大な二つの月が冴え冴えとした光をはなっていた。



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