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【8/29後日談追加】妹に不妊をあて擦られ続けたので、侯爵家の不正を告発しました【完結】  作者: 木風


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第一話 はやくわたくしの子供に、従弟を作ってくださいまし

 侯爵夫人となった妹のカミラが訪ねてくるたび、ヴィオレッタは胃の奥がじわりと重くなるのを感じていた。


 応接間へ向かうと、今日も妹は華やかな笑みを浮かべていた。


「ヴィオレッタお姉様、ごきげんよう」

「ごきげんよう、カミラ」


 挨拶を交わし、紅茶が運ばれる。

 カミラはカップを手に取ると、まずヴィオレッタの顔を見て、それから腹部へ視線を落とした。


 まただ。

 そう思った瞬間、妹は予想通りのことを言った。


「ところでお姉様。ご懐妊の報せはまだですの?」


 カミラの問いに、ヴィオレッタは微笑みながら答える。


「ええ、まだよ」

「まあ。公爵家ともなれば、お世継ぎのことは大切でしょうに。皆様、心配なさっているのではなくて?」

「そうね」

「わたくしね、絶対に子供が欲しかったから、十八歳になってすぐ侯爵様にお嫁に行ったの。そうしたら、すぐに授かれましたわ」


 カミラは自分の腹部に手を添え、うっとりと微笑む。


「やはり、若いうちがよろしいのかしらね。お姉様は少し遅かったから、わたくし心配しておりましたの」


 心配。

 その言葉の形をした刃が、胸の奥を静かに裂いていく。


 ヴィオレッタは、二十歳で公爵クラウスに嫁いだ。

 今は二十五歳。

 決して遅すぎる年齢ではない。

 それでも、子を望みながら授かれない日々は、少しずつ心を削っていった。


 カミラはそのことを知っている。

 宮廷医のもとへ通っていることも。

 夜ごと泣いていたことも、実家の母から聞いているはずだった。


 それでも、こうして笑う。


「もし子作りで困ったことがあれば、いつでも相談して?わたくし、一度で授かれたから、何か助言できるかもしれませんわ」


 ぷつり、と。

 心の中で何かが切れた音がした。


 それでも笑った。

 公爵夫人らしく。

 穏やかに。

 優雅に。


「ありがとう、カミラ」

「お姉様にも、早く母になる喜びを知ってほしいわ」


 その声が少しも震えなかったことに、自分でも驚いた。

 カミラは満足そうに笑い、紅茶を飲んだ。


「はやくわたくしの子供に、従弟を作ってくださいまし。ね?お・ね・え・さ・ま♡」


 それが、その日の最後の一刺しだった。


 その夜。

 ヴィオレッタは泣かなかった。

 涙は、もう尽きていた。

 ただ、寝台の上で静かに目を開けたまま、朝を待った。


 もう、許さない。

 そう思った。


 数日後、きっかけは偶然訪れた。

 夫クラウスの執務室で、依頼されていた書類を探していた時だった。

 机の端に置かれた封書に、見覚えのある紋章があった。


 侯爵家の紋章。

 カミラの嫁ぎ先だ。


 本来なら目を通すべきではなかったのかもしれない。

 けれど、無意識に封書を手に取った。

 中には、王立銀行からの融資記録と、監察局へ提出された届け出の写しが入っていた。


 名目は商業投資。

 しかし添付された資金の流れを示す書類は、明らかにそれと一致していない。

 王都の高級住宅街の屋敷を担保に引き出した多額の融資。

 その一部が、本来認められていない用途に転用されている。


 貴族家に対する王立銀行の融資は、信用で成り立っている。

 だからこそ、不正な資金転用は厳しく禁じられていた。

 発覚すれば、融資の即時回収。

 場合によっては爵位継承にも傷がつく。


 しばらく書類を見つめた後、そっと元の場所へ戻した。


 翌日。

 彼女は匿名の上申書を書いた。


 一文字ずつ、丁寧に。

 感情を入れず。

 事実だけを並べて。

 最後に封をすると、侍女へ命じた。


「これを、王立銀行の融資審査を管轄する監察局へ」

「かしこまりました」


 侍女は何も尋ねなかったし、ヴィオレッタも何も説明しない。


 結果は早かった。


 翌月には、侯爵家へ一括返済の通達が届いた。

 侯爵レナードは青ざめ、資金繰りに奔走した。

 だが、見栄を張って盛大な結婚式を挙げ、屋敷の改装費まで両親から借りていた侯爵家に、返済できるだけの余裕などなかった。

 使用人の一部は解雇。

 子供の入学が内定していた王立幼年学院への推薦も白紙に。

 カミラが自慢していた宝石は質屋へ。

 王都の別邸は売却予定。


 さらに、不正転用の疑いが社交界へ漏れたことで、侯爵家に近づく者は一気に減った。


 実家の母から届いた手紙には、カミラが毎日泣いていると書かれていた。


 ヴィオレッタはその一文を読み、しばらく黙っていた。

 そして、小さく笑った。


「そう」


 たったそれだけ。

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― 新着の感想 ―
これに疑問を呈したら終わりかもしれんが。 何で姉の嫁ぎ先である公爵家の執務室に、妹の嫁ぎ先である侯爵家の不正の証拠が無造作に置いてあるの? しかも管理が杜撰。
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