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介護等体験

「江本、おせーよ。三十分、遅刻」

「いやいや、朝六時半に駅前って早すぎだよ。それに五時前だよ、家出たの」

 そもそも、朝八時なのに設定を間違えてないかと僕は言った。今日から二日間、特別支援学校で介護等体験が始まる。


 介護等体験というのは、教員の資質向上及び学校教育の一層の充実のために作られた制度らしい。実習する前に学内でオリエンテーションがあったが、この制度は導入されたばかりで情報も少なかった。先輩から少し話を聞くと、こんなことを言われた。

「特別支援学校は、子どもと接することができて楽しい」

「でも、いざ働くってなると、しんどいかも」

「やっぱり、普通学級がいいと思った」


 特別支援学校は、人の目を避けたところに建てられることが多く、駅から離れている場合が多い。今回、お世話になる学校も駅からタクシーで十分以上かかるところにあり、同級生と待ち合わせして同乗した。


「やっと、着いた」

 七時半前に着いたが、自分たち以外にも数人いた。顔ぶれを見ると、他の専修の同級生だ。

「みんな埼京生みたいだね、安心した」

 話を聞くと、どうやら早く着き過ぎたため入れないようだった。そりゃ、そうだ、学校を開ける身にもなって考えろと思った。七時半になり、ようやく中に入れた。校内は意外と、きれいだ。


 最初の一時間くらいは、校長と副校長の話だった。朝が早すぎたせいか少し眠たい。あろうことか、同級生は一瞬だけ瞑想していた。僕はちゃんと時間を考えないから、こうなるんだバカがと思っていた。


「特別支援学校は、公立から拒否された子が来ます」

 なんとなく分かってはいたけど、その言葉にショックを受けた。僕は知的障害(男)と視覚障害(女)の同級生を思い出していた。公立に通えるってことは、そこまで障害が重くないってことか。


 自分がお世話になるクラスは、一年生だった。担任の先生は、四十代後半くらいの女性。児童は男の子ばかり六人で、かわいい。ただ、ほとんど話すこともできないし、ものすごくヤンチャで目が離せない。一日目が終わると、みなに声をかけられた。


「江本のクラス、ものすごいな。マジで全く目が離せないね」

 そんなことを何人にも言われ、逆に僕は聞いた。

「みんなは、どうなの?」

「そりゃ大変だけど、ゆっくり先生と話す時間はあった」

「中には少し補助は必要だけど、公立でもやっていける子もいると思った」

 そして、みんな口を揃えて言う。

「江本のクラス、ちらっと見たけど、公立に通える子は一人もいないわ」


 どうやら自分が配属されたクラスは、すごかったようだ。たしかに、みんなと比べると疲弊してるような気がした。次の日も同じような感じで、あっという間に終わった。


「二日間だから、短かったな」

「やっぱり、先生になるなら普通学級がいいね」

「職員も社会と接点がないって感じがして、世間から置いてかれてるね」

 僕も同じようなことを思ったし、相手なんていないのに自分の子が障害を持ってたら、どうしようなんて考えてしまった。

 介護等体験ですが、貴重な体験だったと思います。学校の先生になるなら、特別支援学校の現状は知っておいた方がいいと思いました。受け入れる方は「頼むから変な人来ないでね」と思っていますが、同時に刺激を与えてほしいと思っているはず。普通学級よりも閉鎖された空間なので、どうしても世間とのズレが出てきます。


 作中に障害のある同級生のことを書きましたが、知的障害の男の子だけ紹介します。全く話せないわけではありませんでしたが、見た目で明らかに足りないなと言うのは誰が見ても分かります。「し」が言えなくて、「ち」と言ってました。また、他人に暴力をふるうことは一切なく、イライラすると自分で自分の頭を叩くくらい。小学生としては、けっこう背も高くて160センチあったと思います。

 中学校は、区内の公立中学校の中にある特別支援学級に通ってました。高校の同級生で彼と同じ中学出身の人がいたので「知ってる?」って聞いたら、知ってました。どうやら普通学級との交流もあったみたいです。

 高校生の頃、おじいさんと自転車に乗ってるところを見て、何人かで声をかけたこともありました。彼、自転車に乗ることができたんです。自分たちのことは、分かってなかったです。

 作者が最後に彼を見たのは、地元の図書館です。三十歳を過ぎてたので「おじさんになったなあ」と思いました。

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