新入生オリエンテーション
校門の前には、たくさんのチラシを持った学生がいた。
「野球部です」「サッカー部でーす」などと声をかけて、新入生に渡す。僕はもらうつもりがなかったが、いつの間にか両手にはチラシがいっぱい。これがいわゆるサークル勧誘ってやつかなんて思いながら、7号館を探す。どこだっけ?なんて探していると看板を持った職員がいた。
教育学部と表記されていたので、僕はそれを見て向かう。外観は少し古めの建物だ。教室の中に入ると、すでに多くの学生が座っていた。こちらへどうぞと手招きしている職員が何人かいて、僕はそこへ座った。
着席して思い出す。そういえば、オープンキャンパスで来たな。小中高にはないような大人数が入る教室だ。段差がついているので、前によほど背が高い人が座らないかぎり前方の黒板が見えるようになっている。
キーン コーン カーン コーン。
急に教室中に音が鳴り響いたので、少しざわついたが音が鳴りやむと静かになった。まだ入室中の学生もいたので、後ろの方から足音や職員の声は聞こえてくる。前方に見える時計は、九時ちょうどだった。
前方から男性が入ってきた。
教壇のマイクを手に取ると音が入っているか確認した。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」「後ろの方、大丈夫ですよ。慌てなくて」
教室の後方では、まだ着席が終わってないみたいだ。バタバタと足音は聞こえてくる。
「去年、新しい課程を作ったこともあって、学生が増えたんです。しかも、今年は定員よりも多くの新入生が来てしまいまして。ありがたいことなんだけど…うーん…狭いね。来年は教室変えなきゃダメかな」
独り言のように男性はしゃべり続ける。
「後ろの方、大丈夫?オッケーだったら、合図出して」
少し間が空いたあと、大丈夫ですという声が聞こえてきた。
「大丈夫そうですね。それじゃあ、始めましょうか」
男性は一呼吸置いた。
「改めまして新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。教育学部国語専修の宮森といいます」
宮森は軽くお辞儀をした。僕は自己紹介を聞いて教授なの?と思った。パッと見た感じだと、年齢は四十代前半くらい。しかも、スーツではなく、ジーンズを履いていて私服に近い感じだ。しかも、このオリエンテーションの内容は、前もって配られていたプリントを見ると履修登録の説明が中心らしい。こういった説明は、事務職員がやるものだと思っていたので先生が出てくるとは思ってなかった。
「それじゃあ、事前に配布されている冊子を出してください。えーっと、ページは」
国語の先生ということもあり、丁寧で簡潔だ。
「うちの大学は、留年はありません。何もしなくても四年生にはなれます」
「ただし、当たり前ですが、単位が取れてなければ卒業はできません」
「留年した場合、四年生を繰り返すという感じになります」
大学によっては、ひとつ取れなかっただけで留年があると聞いたことがあったので安心した。もちろん留年するつもりなんてないけど。
「単位ですが、基本的に90分授業イコール2単位になります」
「ただし、体育のみ、1単位です」
「教育学部は、全部で124単位取れば卒業です」
つまり体育を除けば、授業を六十一個取ればいいのか。
その後も説明は続いた。
「必修科目は、必ず取らなければいけません」
「選択必修科目は、この中で指定された単位を取らなければいけません」
けっこう細かい規定があり、頭の中がこんがらがってしまいそうだ。
「分からなければ、事務職員や先輩に聞いてください」
「あと履修制限はないので、みなさんのやる気さえあれば単位を多く取っても構いません」
僕はそれを聞いて、なるほどと思った。
「まあ、私は多く取るのは時間と手間がかかるので、ギリギリで卒業しましたが」
そういうと、少し教室内から笑い声が漏れた。