20-9 いつもとは違うけどいつもどおりな夏の夜
「ただいまー」
「おかえり悦郎!」
「「「「おかえりなさいぼっちゃん!!!」」」
「うおっ!」
なんとなくいい雰囲気で帰ってきた俺と咲を出迎えてくれたのは、そんな雰囲気をを木っ端微塵にするハイテンションな姐さん方の大きな声だった。
「なにこの騒ぎ」
「やあやあ悦郎。後援会のみなさんから差し入れでこれもらってな、夕食のあとやろうってことで盛り上がってたんだ」
リビングに向かう俺たちに説明するかーちゃん。
その手に握られていたのは、大振りな花火が2本。
もちろん本来手持ちするものではなく、地面に置いて楽しむタイプのものだ。
「じゃあ私、ご飯の支度しちゃいますね」
それだけですべてを察したかのように咲は、そそくさとキッチンへと向かう。
おそらく今あいつの頭の中では、待ちきれないかーちゃんたちを我慢させられるだけのスピードで仕上げられるメニューが、すごい勢いで組み立てられているのだろう。
「そうだ。緑青のお嬢さん呼んでいるおくれよ。こういうの動画で配信すると、人気出るんだろ? うちの団体も持ってるからさ、なんとかチャンネルっていうの」
「え? そうなんだ」
「まあ、誰も操作の仕方わからないんだけどな。がっはっはっは」
「いやそこ笑うとこじゃないから……」
俺が冷静なツッコミを入れていると、かーちゃんのところの食事係兼練習生の鈴木すずめさんが片手を上げながら、俺たちの方に近づいてきた。
「私できます。たぶん。配信だけで、細かい編集とかしなくていいいなら」
「あ、いるじゃんかーちゃん。できる人」
「おっ! すずめちゃん団体の配信担当に任命! 決定!」
こういうのをどんぶり勘定というんだろう。
たぶん。
弓道場で横溝先輩が感じさせてくれた静謐な空気は、こうして綺麗サッパリ吹き流されてしまった。
まあ、この方が俺たちらしいとも言えるかもしれないが。
* * *
「おー、花火きれー」
「やっぱ夏はこれですよねー」
妙齢の女性たちが、手持ち花火を手にはしゃいでいる。
暗がりのなかで、うっすらと花火に照らされる顔は、普段よりずっと可愛く見えた。
いつも汗みずくになって鍛えていて、俺なんかよりもはるかに筋肉ムキムキな姐さん方も、こうやって見るとやっぱりかわいい女性なんだな……。
なんてことを思いかけてはいたものの、俺の視界の片隅ではやはりいつもの姐さん方らしい狂乱の花火祭りが繰り広げられていた。
「おりゃー!」
「ぎゃー!」
「あははははー!」
お互いに花火を向け合い、電流爆破マッチの練習のような状況になっている姐さん方。
「喰らえーっ」
「ぐわーっ」
地面に置いて使う打ち上げ花火を手に持ち、美沙さんに命中させているかーちゃん。
相変わらずな光景が、そこにはあった。
(※彼女たちは特殊な訓練を受けています。決して真似しないでください)
「やっぱり姐さんたちは、姐さんたちなんだな」
「はい、スイカ」
「ん。ありがと」
それを縁側に腰掛け、ゆったりと眺めている俺と咲。
動画係を拝命した鈴木さんは、自分のスマホを両手でしっかりと構えながら、食い入るように姐さんたちを撮影し続けていた。
いつもどおりの場所でいつものように過ごしているいつもどおりの俺たちの一学期最後の夜は、こうしていつものように更けていった。
黒柳悦郎の何も起きない日々一学期編はとりあえずこれにて完結です。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
このあとはお正月を挟んで1月中には夏休み編を不定期更新する予定です。
夏頃には二学期編をスタートさせられればな、と思っています。




