2話 脱出作戦遂行
よし、王城脱出だ。父上、母上、お世話になりました。
今夜、旅立ちます。明日の朝までには帰って来るけどね。
窓から非常用ハシゴを下ろして、降りる。シュタッ!
繁みに隠れる。
(見つかった!)
番犬が近づいて来る。まさか、犬を放しているとは!
警備兵は気づいていないのに。
犬は、大きく尻尾を振って私に飛びつく。
「ペス!静かに。しーだよ」人差し指を口に押さえる。
そう。私が小さな頃から飼っている仲良しのペスだ。今は番犬として活躍している。
ちょっと大きな音を立ててしまった。どうしよう。得意のネコの鳴き真似をするか?猫の鳴き声は、とっても上手だし、練習もしているから自信があるんだ。ただ、残念な事に王城にはノラ猫はいないんだ。警備兵はノラ猫を見かけたらそれこそ必死に捜索して排除するだろう。このペスを飼うのだって私は泣いてワガママ言ったんだっけ。
よし、移動だ。とりあえず、繁みの端まで進むんだ。
「ペス、静かに移動だよ」
ペスは事情を察してくれる訳ないよね。とにかく、頭撫でてあげるから、吠えないで!
次はあの木までダッシュだね。
警備兵がコッチを向かって歩いてくる。
「ペス!伏せ」私もしゃがみながらペスの頭を撫でる。
警備兵が背を向けて遠ざかる。
「よし、行くよ!」
私とペスは目標の木までダッシュした。
第二関門も見つからずにいった。塀に辿りつくには、
まだまだ遠いよ。なんでお城って広いんだろう。警備する人は大変だよね。放し飼いのペスだけ喜んでる状態なのに。
何度もダッシュしてやっと城内と市中を隔てる城壁にたどり着いた。だけど、私はそこで唖然となった。
「しまった!登れない。詰んだかも」
せっかく警備マップや脱出ルートを立案しながらも、壁を乗り越えることを考えてなかった。誰にでもあるミスだ!ペスはいつもながらの愛くるしさだ。良かった。馬鹿にしてない。私のミスが誰にもバレなくて一安心だ。
こうなると城門から出るしかないのかな。無理だよね、一番警戒が厳重だし。王族のみが知っている秘密の通路があればいいのに!私だって王族の端くれなのに教えてもらってないぞ!
ん?ペスの様子がおかしいぞ!城壁の上を見てる。なんと、城壁にロープが落ちて来た。
「えー?」
神様ってホントにいるの?そもそも神様にお願いなどしていないけど。ロープを伝わって人が降りて来る。盗賊か?ペスが吠える!ところで私はペスの口に腕を突っ込んだ。
「いたぁあ」
「くぅーん」
ペス、ごめんね。私が悪いの。でも、静かにしててお願い。私は、ロープの下に移動。盗賊らしき人物が降りてくるのを待つ。
「こんばんは!」
「ひっ?」
「こんな夜中に何の用かしら?」
「俺たちゃ盗賊だ。悪いヤツじゃない。とりあえず、静かにしてくれ。」
盗賊って名乗っているのに悪い人じゃないの?おかしいよね。絶対に矛盾しているよね?
自称悪い人じゃない盗賊は、3人組だった。
「お嬢ちゃんだって、警備から隠れて何をしているんだ?」
確かにそうだ。ここは事を荒だて無いように穏便にやり過ごしたい。目の前にロープって言う神様のプレゼントがあるんだから。
「私は、ちょっと調べごとをしていたのよ。あなた達が悪い人じゃないなら協力してもいいわよ」
「俺たちゃ、悪い人じゃない。信じてくれ。ただ、王女の部屋に用があるだけなんだ」
「はあ?わた…王女の部屋に?何かあるの?」
「行けば、わかる。今はまだ、教えてやれない」
すごく興味があるわ。それって。私の部屋に何があるんだろう。協力せざるを得ないじゃないか!
「しょうがない。協力します。そのかわり、あのロープが欲しい」
「ああ。俺らが脱出した後は、好きにして良いぞ」
決まりだね。お互いウィンウィンの関係だよ。
「じゃあ、これがこの敷地内の警備マップです。確認ください。そしてここが王女の部屋です」
私は指差して説明する。
「よく調べてあるぜ!調べごとってのはこの事か?やるな」
「警備兵が背を向けたら、目標の位置までダッシュするんです。建物の前に繁みがあります。そこに隠れれば警備兵には見つからずに済みます。私の後について来てください」
「それはわかったが、なぜ、犬も一緒なんだ?」
「私に懐いちゃって離れないんです。我慢してください」
脱出しようとしたのに、帰る羽目になっちゃったよ。不思議なこともあるもんだね。でも、私の部屋に盗賊が何の用かしら?